「緊急事態宣言」を検討、菅首相は年頭会見で何を語った?「特措法」改正で罰則は?ワクチンはいつ?(詳報)

菅義偉首相(2020年12月25日)

菅義偉首相(2020年12月25日)

REUTERS

首都圏を中心に新型コロナウイルスの感染が拡大していることを受けて、菅義偉首相は1月4日の年頭会見で、新型コロナウイルス特措法に基づく「緊急事態宣言」の発出を検討すると表明した。発出されれば、2020年4月7日〜5月25日にかけて発出されて以来、2度目の緊急事態宣言となる。

菅首相は発出時期について明言しなかったが、NHKなどは「今週中にも東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象に緊急事態宣言を出す方向で調整」を進めていると伝えている。また、緊急事態宣言が発出された場合、1月11日まで全国一斉停止としていたGoToトラベルの再開は「難しい」と述べた。

菅首相「国として緊急事態宣言の検討に入る」

年頭記者会見に臨む菅義偉首相。例年、首相の年頭記者会見は伊勢神宮への参拝後に開かれたが、2021年は参拝見送りのため首相官邸で記者会見が開かれた。

年頭記者会見に臨む菅義偉首相。例年、首相の年頭記者会見は伊勢神宮への参拝後に開かれたが、2021年は参拝見送りのため首相官邸で記者会見が開かれた。

出典:首相官邸

菅首相は冒頭発言で「感染対策」「水際対策」「医療体制」「ワクチンの早期接種」の4点で新型コロナ対策を強化すると述べた。発言の概要は以下の通り。

・感染対策

12月の人出は多くの場所で減少したが、特に東京都近県の繁華街の夜の人出はあまり減っていなかった。昨年以来、対策に取り組む中で判明したのは、経路不明の感染原因の多くは飲食によるものと専門家が指摘している。

飲食でのリスクを抑えることが重要。夜の会合を控え、飲食店の時間短縮にご協力いただくことが最も有効。

1都3県について、改めて先般からの時間短縮を午後8時までの前倒しを要請する。そして、国として緊急事態宣言の検討に入る。

飲食の感染リスクをの軽減を実行的なものにするため内容に早急に詰める。さらに給付金と罰則をセットにして、より実行的な対策をとるために特措法を通常国会に提出する。

*編注:

質疑応答の中で、菅首相は緊急事態宣言の具体的なスケジュール感について問われたが「冒頭の挨拶で申し上げたとおり、国として緊急事態宣言の検討に入る」と述べるにとどめた。

菅首相は北海道・大阪など時短措置をとった都道府県は「結果が出ている」とし、「政府としてはこうした考え方で諮問委員会にかけさせていただき、そこで考え方を伺う」「具体的にいつというより、まずは飲食のリスクを軽減する実行的なものを詰めて、その中で表明したい」と述べた。

内閣総理大臣が緊急事態を宣言するためには、特措法32条に基づき、以下の条件を満たす必要がある。

1)国内で発生した新型インフルエンザ等が、以下の2要件を満たすこと。

  • 「国民の生命や健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある場合」
  • 「全国的かつ急速なまん延によって国民生活と経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合」

2)事前に感染症に関する専門家ら「諮問委員会」にはかり、その意見を踏まえて緊急措置を実施すべき期間(2年を超えない期間。ただし1年延長可能)、区域、緊急事態の概要(患者が確認された地域、患者数等、ウイルスの病原性、症状、感染拡大を防ぐために必要な情報など)を定める。

3)緊急事態宣言の発令を国会に報告し、公示しなければならない。

・水際対策

年末にウイルスの変異種が見つかった。外国人の新規入国は原則入国規制を強化する。ビジネストラックについても相手国の国内で変異種が発見された場合は即時停止する。

・医療体制

東京をはじめとするいくつかの年で逼迫する状況が続いている。各地域において新型コロナウイルス患者を受け入れる病院・病床の数を増やして頂く必要がある。国として看護師などスタッフの確保、財政支援をする。各自治体と一体となって病床確保する。

必要ならば自衛隊の医療チームの投入も躊躇しない。医療崩壊を絶対に防ぎ必要な人に必要な医療を提供する。

・ワクチン

感染対策の決め手となる。当初2月中に製薬会社の治験データがまとまるとのことだったが日本政府ら米国本社に対し、強く要請し、今月中にまとまる予定。

安全性・有効性の審査を進めて承認されたワクチンを、出来る限り2月下旬までには接種開始できるよう準備を進めているまずは医療従事者、高齢者、高齢者施設の従業員から順次開始。私も率先してワクチンを接種する。

それまでの間、国、自治体、国民の皆様が感染者数を減少に転じさせるために、同じ方向に向かって行動することが大事。これから新年会のシーズンだが、引き続き不要不急の外出控えて。

従来のウイルスも変異種も対策は同じ。マスク、手洗い、三密回避をお願いしたい。今こそ国民の皆様とともに、この危機を乗り越えていきたい。ぜひとも皆様方のご協力をよろしくお願いしたい。

東京は年末に感染者1000人超、年始に重症者100人超 

出典:東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト

首都圏では「第3波」とも言われる感染拡大が続いている。東京都では2020年12月31日に1337人の感染者が確認された。

また、1月3日には都の基準で集計した重症患者が101人に。感染拡大に歯止めがかかっていない状況だ。医療現場では医療提供体制の逼迫が懸念されている。

昨年末には、イギリスで感染が拡大する感染力の高い新型コロナウイルスの変異ウイルスが国内でも確認された。全世界から外国人の新規入国を一時停止する措置をとったが、今後の推移が気がかりだ。

こうした状況を受けて1月2日に東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県の4知事は政府に対し、緊急事態宣言の発出検討を要請した。

コロナ対策を担当する西村康稔・経済再生担当相は4知事らとの会談後に「緊急事態宣言が視野に入る厳しい状況という認識を共有した」と述べていた。

菅首相は4日の会見において、報道陣との質疑応答の中で「4知事の要請も(緊急事態宣言の)判断根拠の一つ」としている。

一方で菅首相は「北海道・大阪など(時短要請を実施した地域)では結果が出ている」と述べた。東京都などは夜10時までの時短営業を要請しているが、菅首相は緊急事態宣言を発出する前に1都3県へのさらなる時短要請の必要性をにじませた。

直近2週間の感染者数については「全体の半分が1都3県」と述べ、「全体としては首都圏だけが抜きん出て感染者が多い」との認識を示した。

特措法の改正、年始の国会で 

感染拡大に歯止めがかからない中、自治体レベルでの感染防止策は手詰まり感が出ている。東京都などでは酒類を提供する飲食店には営業時間を午後10時までにするよう時短要請も出ているが、さらなる時短要請や休業要請となると補償の積み増しも求められるだろう。

東京都は2020年には「貯金」である財政調整基金から8500億円を支出。さらなる支出は財政に重くのしかかりそうだ。

こうした中、国会では緊急事態宣言の根拠法である特措法の改正も検討されている。だが昨年は政府与党が12月18日に国会を閉会すると決めたことで、特措法の改正は年明けに持ち越された。

特措法の改正案をめぐっては、政府や自治体の休業要請に従わなかった事業者への罰金や営業停止などの罰則有無や、休業に伴う補償などが論点になると見られる。

感染を抑え込むためには強制力を持った措置もやむを得ないという意見もある一方、憲法が保障する国民の権利の制限にもつながるため慎重に検討するべきだという声もある。菅首相は「罰則と給付金をセット」での特措法の成立を視野に入れる。

菅首相をめぐっては、2020年12月14日夜、都内のステーキ店で自民党の二階俊博幹事長らと5人以上で会食したことで批判を受けた。菅首相は12月25日の記者会見で「大人数での会食を避けることを要請する立場にありながら、深く反省をしている。改めてお詫び申し上げる」と陳謝している。

(文・吉川慧)

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