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NewsPicksは経済メディアをDXした。これからは映像メディアの変革を。 佐々木紀彦、退任を語る。

新聞・テレビなど既存メディアの苦境が伝えられて久しい。コロナによって、その厳しい状況には拍車がかかっている。

そんな中、オンライン経済メディアとしての存在感を拡大させ、マネタイズにも成功したと言われるNewsPicks。編集長としてオリジナルコンテンツをつくり、その後は動画メディアの責任者として成長を牽引した佐々木紀彦氏が、2020年12月末に退社した。

NewsPicks取締役とNewsPicks StudiosのCEOを退任した理由は何か? 成功の要因は? さらにメディアのデジタル化の最前線で感じたこの国のメディアの現状はどう見えるのか?やはり2020年12月末にBusiness Insider Japan統括編集長を退任した浜田敬子が聞いた。

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NewsPicksを創業期から牽引してきた佐々木紀彦氏。退社後は激動期を迎えるとみる映像分野で起業するという。

撮影:竹井俊晴

—— 退任は突然で驚きました。辞めることはいつから考えていたんですか?

9、10月くらいです。梅田(優祐)さんが(NewsPicksを運営するユーザベース代表取締役CEOを)退任するので一緒に?と言われるんですが、それは無関係で時期が一緒になったのは偶然ですね。梅田さんの辞任は私も直前に聞いたくらいで。私が辞めることは梅田さんの辞任発表前から決めていましたが、いろんなことは重なるんだなと思いました。

—— 次にやりたいことができたからですか? それともNewsPicks(以下、NP)もちょっと長くなりすぎたなと思ったんですか?

理由は今と未来に関して、2つあります。私はゼロイチ、イチジュウが得意。東洋経済オンラインの時もそうでしたが、大きくリニューアルしたのが私、そのあと山田俊浩さんが引き継いで大きく成長させました。あのときも私が辞めて、私も良かったし東洋経済オンラインにとっても良かったと思います。

NPも10から100にするのは、私よりもチームでしっかりやっていける人が適任だろうと思って。

2018年には電通と合弁で動画事業、NewsPicks Studioを立ち上げ、この成功が私の責任だと思っていましたが、コロナショックもあって新規の課金や動画広告が増えて、目標を1年前倒しで達成できたんです。映像はコストがかかり難しいと思っていたのですが。映像も2年半やって、これからは組織化したほうがうまくいくだろうと思って、このタイミングで辞めることにしました。

退社後にやりたいことは?

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—— 未来についての理由は? 会社をつくって新しい事業を始めるということですが。

今まさに映像が大きく変わると実感しています。最初にメディア業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の波がきたのが新聞で、その競争はヤフーが制しました。そして次のDXが雑誌。NPはつまり紙の経済雑誌のDXだったと捉えています。今NPの会員は16.5万人に達し、今後粛々と成長していくフェーズに入りました。

次に大きく変わるのがテレビであり、映像メディアです。いよいよ大きな変革のタイミングがきました。私は変化が大きいところにいるのが好きなので、そこで大勝負したい。まだ新会社の細かいことは決めていませんが、映像をやることは決めています。

そのためにも今韓国の研究をしています。韓国の映像メディアを見習おうと。

—— 日本のスタジオドラゴン(韓国の映像制作会社)を作る?(笑)

そうは言っていませんが(笑)、いろんなことは仕掛けていきたいし、一緒にやりたい人もいます。Netflixの組織について書かれた本『NO RULES』とか読むと興奮するんです(笑)。まるでプロスポーツ集団。プロ意識の高い人たちが集まる組織に憧れます。

私自身は細かいところに配慮ができるタイプではないので、最高のパートナーと組んで、一緒に挑戦したいと思っています。でも、打倒NPとかではないですよ(笑)。今後もNewsPicks Studiosの非常勤取締役ですし、NewsPicks NewSchoolの校長を続けますので。一緒にコンテンツ界を盛り上げていけたらなと思っています。

メディアが上場する難しさは?

—— 佐々木さんは大きいチームや会社で、みんなと合意形成しながら何かを進めるより、自分の考えたことをパッと形にすることの方が好きなのでは? 一人で自由にやってみたくなったのではないですか。

NPという大きい組織の経営者としての役割も担って感じたことは、やはり資本を持つ側にいないとなあ、ということです。 コンテンツビジネスやメディアビジネスは非常に難易度が高い。単に利益を出すだけじゃなく、公器としての役割がありますし、利益も短期・中期・長期と考えないといけない。

しかも、コンテンツビジネスはいかにビッグデータが発達しても、博打というか、最後は勘に頼る部分が大きい。

最後はメディアのことを分かる人じゃないとできない判断もある。でも、メディアの人だけでやっていてもダメです。 最後にみんなの意見が分かれ「これだ」と決める時、誰か一人、もしくは、ほんの数人で判断できる体制じゃないと、スピーディーに納得できる判断ができないと思ったんです。

ニューヨーク・タイムズ

伝統的メディアの中でもっともDXに成功したとされるニューヨーク・タイムズ。

Osugi / Shutterstock.com

—— それは上場したことも関係がありますか。メディア企業が上場する難しさを感じたのでは?

それは無きにしもあらずですが、ニューヨークタイムズのように上場していてもうまくいっているところもあります。タイムズのように伝統がありオーナー家が大きな力を持っているか、知的財産(IP)ビジネスがあってグッズ展開や配信ビジネスができるとうまくいく可能性が高い。でも、NPのような新興メディアには厳しい面もあります。

—— 株主の要求に応えるために短期で利益を出さなければならず、そうすると中・長期でもコンテンツを作る力が削がれるということですね。

そこがもっとも難しい部分ですね。どういう形ならクリエイティブ・フリーダムを保ちつつ、サステナブルな仕組みを作れるのか。それを体現したいと思っていました。

なぜNPは稼げるメディアになったのか

『Weekly OCHIAI』

人気番組『Weekly OCHIAI』をはじめ、電通との共同事業でNewsPicksは動画で存在感を示してきた。

NewsPicksより

—— NPは2019年有料会員の伸びが少し鈍化していましたが、2020年になりコロナ禍で一気に有料会員がまた増えました。コロナのニュースを読みたいというニーズをうまく掴み、一段と勢いが出てきた感じです。

オリジナルコンテンツも非常に読まれましたが、一気に来たと感じたのは動画です。コロナで番組数を一気に増やし、一段ステージが上がりました。タイムリーな話題を深く知りたいというニーズがすごく高まったと感じました。

—— NPの一番の成功はコンテンツで稼ぐ、メディアのマネタイズの仕組みを作ったことだと思います。佐々木さんはNPの成功の1番の要素は何だと思っていますか。

梅田さんと最初に会った時、お互い持っている戦略が一致していたんです。「プラティッシャー」、つまりプラットフォームとパブリッシャーの両輪の仕組みを実現できたことが最大の成功の要因だと思います。どちらか一方だと成功しなかった。

—— つまりプラットフォームによって広告収入を得て、オリジナルのコンテンツを制作することで有料課金にするという収入の二軸が作れたということですね? これはNPを立ち上げる当初から想定していたんですね。

梅田さんは最初から広告収入と(コンテンツへの)課金収入を半々にしたいと言っていました。今NPの記事広告の料金は1本300万円ですが、当初はそんなに払うクライアントがいるのかと思われていました。

今は映像だと1000万円から数千万円の広告料金も取れるようになっています。 2020年12月には、スーパーカーのランボルギーニがスポンサーになってくれました。一昔前のウェブメディアでは考えられないことです。NPというと、課金のイメージが強いかもしれませんが、パートナーの電通を含む広告チームのメンバーの貢献も非常に大きいです。

NPはメディアかプラットフォームか

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—— ただ一方で、NPは一体メディアなのか、プラットフォームなのかと、私はずっと佐々木さんを問い続けてきました。プラットフォームであれば、コンテンツを提供しているメディアにもっと収益を還元すべきではないかと。実際ヤフーなどプラットフォームはメディアに十分とは言えませんが、収益を還元する仕組みです。

極端に言うと、短期的には利益を犠牲にしてでも、赤字になってでも、いいメディアに還元するという方向性もあったと思います。それは公共の利益にも資することになりますので。

メディアの生態系に投資して中長期的な収益を目指すのか、目の前の収益性を重視するか。それは経営の思想であり戦略です。NPはプラットフォームとメディアの融合こそが強みだと思っていますが、どちらを優先するのか。つまり公共性と企業戦略のどちらを優先するのかということでもある。

ずっと経営陣では議論していましたが、結論は出ていませんでした。例えばSpotifyは順調にユーザー数を伸ばし、アーティストにも還元していますが、未だに赤字ですし、サステナブルなビジネスモデルなのかはまだわかりません。

公共性、メディアに対する思想、短期と中長期の収益性などいろんな方程式が折り重なっています。

私自身は、NPは課金プラットフォームとして強くなったので、有料メディアの部分に他社のコンテンツも掲載するなどして、還元できないかとも思っていました。例えば、noteが文藝春秋と提携しているような形。

ああいう形ができれば、メディアからも感謝されますよね。 プラットフォームにはNP、LINE、Yahoo!、Google、アップルニュースなどいろいろあるわけですが、もっとメディア側が選ぶ形になれば、プラットフォーム間で(メディアに還元する)対価競争は起きたかもしれません。

—— 個人的には2017年4月にBusiness Insider Japanの統括編集長に就任した時、パブリッシャー、つまりコンテンツ制作側の力がもっと強くなる時代が来ると思っていました。良質なコンテンツを作り続けるためにも、自分たちでプラットフォームを選び、価格交渉できるようにならなければとですが、この数年で結果的にプラットフォーム側の力はますます強まり、新聞、テレビなど大手メディアですら非常に厳しい経営状況になっています。この状況をどう思っているかは、またあとで聞きます。

そもそも経済ジャーナリズムは必要か

佐々木紀彦

—— NPがここまで来るまでには、何回かの転機があったと思います。最初はもちろん6年半前。2014年7月に佐々木さんが東洋経済オンラインからNPに移籍した時。

その次は、経済誌「ダイヤモンド」から4人の記者が移籍した時。一気に企業のインサイドストーリーや本格的な経済記事が増えたと感じました。LINEの内幕を書いた連載は今でも覚えています。

確かに後藤さん・森川さん・池田さん(現NP編集長)・泉さんの移籍は大きかったです。

と同時にその時点で始めた「特集主義」の効果が大きかったと思います。一つのテーマを決め、月曜日に始めて1週間毎日連載していく形を考えたんです。これはまさに経済誌の特集のDXです。4人の取材力、編集力、企画力があってこそですし、他にも優秀なメンバーが集まってくれました。最後はコンテンツの力だと改めて感じましたね。

—— つまりレガシーメディアの人材、そこで培われた取材力・企画力が大きかったと。NPはそれをデジタル上でうまく見せ、伝えたということですね。もうひとつ、転機があるとしたら?

映像を始めたことです。今、番組制作を行うNewsPicks Studiosと報道動画チームの2つで力を入れています。

そもそも論なのですが、最近「経済ジャーナリズムはどこまで必要なのか?」と考えるんです。

—— え?どういうことでしょうか。

ジャーナリズムは、権力の監視的なものと、事実を正確に伝えるものと2つあると思っています。後者の正確な報道や解説は、フェイクニュースが増える中で、より重要性を増すでしょう。

その一方で、前者の権力の監視はどこまで必要なのかなと。もちろん、政治などの公権力や社会問題はメディアによる監視が必須ですが、企業の場合は、株主や消費者や従業員などいろいろ角度からすでにチェックされています。メディアがビジネス面で評論をする正当性がどこにあるのか?と考えているんです。

ビジネス記者はビジネスの素人です。素人が企業を批評したり、経済の最前線を発信していく意味はどこにあるのか。それよりも、現場の最前線にいるリーダーや専門家が発信したほうが、情報が濃くリアルになる。それがNewsPicksの発展の一因でもあり、SNSやYouTubeでのビジネスパーソンの発信が増えている理由ではないかと。

NPで「経済を、もっとおもしろく」と掲げたのは、経済・ビジネスをエンタメ的にわかりやすく解説したり、最先端の動きを届けたり、エンパワーメントする方が社会的価値が上がっているように感じていたからです。

NP的ビジネス芸人の存在の功罪

—— ただエンタメ化の結果として、NPは一部の起業家をカリスマ化しました。Business Insider JapanではNPと差別化するためにも、あえてカリスマはつくらないという方針でやってきたのですが、カリスマを生み出した方が効率良く稼げるとは思っていました。

一方で、こうした中から、カリスマ視された起業家によるテキーラ事件と呼ばれる事件が起きるなど、モラルを問われる起業家も出てきました。今、どう感じてますか?

功罪あると思います。スタートアップの経営者は常識から外れた人もいますので、面白さを追求しすぎると、フィルタリング・チェックが甘くなりかねません。私自身、フィルタリングやチェックが甘かったところがあり、深く反省しています。

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—— 佐々木さんにとって苦しかった時期は? ピッカーと呼ばれる人たちがコメントを書き込む欄が厳しい批判に晒されたこともありましたよね。あんまり気になりませんでした?

そこまで鈍感ではないですが、ピッカー欄で批判されることなどは別につらくなかったです。メディア人っていろんな人にチェックされないまま来てしまっていると思うんです。

メディアには公器としての責任がある以上、メディア自身が正当な批判にさらされるのは当然です。もともと私はメディア人であることにコンプレックスを抱いているところがありました。人の批評をしていることが歳を重ねるにつれて恥ずかしくなってきたといいますか。人生の美学とずれているなと。

やはり、いろんな人にぶっ叩かれても、自らの信じた道を突き進む人生を送りたい。NPの時の私は半々だったと思います。批評家として振る舞うところもできた一方で、経営にも携わってプレイヤーとしてもやっていました。2つの立場を使い分けられるのは便利だったのですが、我ながら「ずるいなあ」とも感じていました。

MCやインタビュアーとして人の話を聞いたり、プロデューサーとしてコンテンツを創ったりするのは大好きですし、本業として今後も続けますが、MCやプロデューサーとして、さらに進化したいんです。

自分の人生をかけて自分でリスクをとって、苦しみながらやっているMCやインタビュアーから出てくる質問と、そうではない人間から出てくる質問では、大きな差が出てくると思いますし、相手の答えも変わってくるはずです。経営者として同じ苦しみを味わった上で話を聞ける人や企画を創れる人になりたいなと思いました。これまでのコンプレックスを乗り越えたいんです。

—— 私もアエラとBIJで編集長をやってお金を考える立場になりました。部数やPVだけでなく、広告費をいくら稼がなくちゃいけないのか、人件費や原稿料を落とさずにどうやったら黒字にできるのか頭を悩ませてきたから、ずっと「ちゃんと稼ぎたい」と切実に思ってきました。

私が影響を受けたのは、USJを成功させた森岡毅さんです。インタビューも度々していますが、森岡さんはUSJでの仕事を通じて、「資本家とサラリーマンの違い」を痛感されたそうです。資本主義の中でメディアやコンテンツなどで自分のやりたいことができるか考えたときに、ちゃんと資本家になってみて、そっちの景色も見てみたい。そうでないと、資本主義の中でコンテンツのニューモデルを創るという目標を達成できないと感じているんです。

メディアが生き残っていくためには

新聞

新聞業界はコロナの前から大きな変革ができず、厳しい経営状況に陥っている。

Billion Photos / Shutterstock.com

—— NPが絶好調な一方で、新聞やテレビなどはコロナの影響で広告費が壊滅的な影響を受け、経営的に非常に厳しくなっています。もちろんそれ以前からメディア全体に対する信頼感が揺らぐなど苦境が続いています。この状況をどう見ていますか?

厳しい言い方になりますが、自業自得ではないでしょうか。稼ぐことをやらなかっただけじゃない、やるべき改革をやらなかった。いつか来る未来に対する取り組みをやらなかったと思っています。

一方で、経営陣の立場になれば必然だとも思います。大手メディアには本気でデジタルシフトするインセンティブがない。既存ビジネスを守ったほうが短期的な収益にはプラスになるからです。自ら変わるのは本当に難しい。ワシントンポストも1回沈没したところを(AmazonCEOのジェフ・)ベゾスが買って、デジタルシフトさせて、今勢いを取り戻しています。

テレビも、規制もあり新規参入がなく、寡占を守った方が合理的だという判断が働きます。オーナーでない限り、地盤沈下しても社長として数年耐えれば、と思ってしまうのが人間の性。そうした性に沿った場合、どうしても抜本的な改革をやろう、とはならないのでしょうね。

佐々木紀彦

—— 今後も当分大きな変化は望めないと思いますか?

今のメディア業界は、30年遅れの金融ビッグバンの時と同じ状況だと思っています。1990年代に起きた金融ビッグバンでは山一證券や北海道拓殖銀行が破綻したけど、フリー・フェア・グローバルという掛け声のもと、規制緩和が起きてゴールドマンサックスやモルガン・スタンレーなど外資系が入ってきて、優秀な人や野心のある人がそっちに移っていきました。

今メディアで同様のことが起きています。

NetflixやAmazonやYouTubeなどが黒船として業界のルールを変えつつあるわけです。 先ほども言いましたが、私は今、韓国を研究すべきだと思っています。韓国はNetflixによって海外という巨大な市場に発信できるようになった。ディズニープラスも韓国に大規模投資をすると発表したばかりで、新しいチャンスが生まれています。

今、日本発の『今際の際のアリス』がNetflixで世界のトップ10に入っているそうです。渋谷を再現したセットの豪華さ、リアルさもNetflix級の予算があってこそですよね。日本の作品が世界デビューできるようになると、日本の制作会社の価値が正当に認められるようになって、日本のテレビ局や映画会社だけに依存しなくてもよくなります。

そうして徐々に、フェアでオープンな競争環境が整ってくると思います。それは業界にとっても、社会全体にとってもいいことではないでしょうか。

会社員である限り尊敬されるのは難しい

—— 報道メディアはどうでしょう?

報道だけだと難しい。キャッシュカウ的な、お金を稼げる何かが必要です。報道だけでどうにかしようという発想じゃない方がいいと思います。報道は余裕があってこそできるものですので。

その上で報道メディアが生き残るには、信頼されるかどうかに尽きると思います。今は記者など報じる側の顔が見えにくい。私は、純粋培養のサラリーマンである限り、メディア人が尊敬されるのは難しいと思います。

個人事業主なんだけど、ブランドを借りるために企業に属している、という形を取るとか、個人としてオープンなマーケットで揉まれる機会を増やすとか。そうでないと「なぜ安全地帯から偉そうに批判しているの」と読者や視聴者に思われるのではないでしょうか。専門家としての強固な土台を持っていたり、プロとして競争をくぐり抜けた実績を持っていたりすれば、報道にももっと深みが出ます。

日本社会で転職はハードルが高いので、外部とコラボレーションするとか、副業を経験するとメディアで働く人の意識も変わる気がします。伝統メディアと新しいメディアが一緒にやれることもあると思っています。

Netflix

いいコンテンツ作りのためにも、かっこいいロールモデルが必要だという。

Chris McGrath / Getty Images

—— メディアが就職先、転職先としても若い世代の人気を失っています。

コンテンツ業界にドリームジョブがなくなってしまったから、若い人が入ってきません。新聞社でエース記者になったり、出版社でエース編集者になったり、テレビ局でエースプロデューサーやエースディレクターになって次に何があるか?というと、それがないんです。

Netflixは出てきたけれど、就職しようと思うと英語がネイティブ並みにできないとつらい。黒船にはいいところも悪いところもあり、仮に就職できたとしても若手が行くと成果が上げられず1年で切られたりすることもあります。戦う準備ができていない状況で行くのは危険だと思います。

—— メディア業界を志望する人が少なくなれば、コンテンツも面白いものが出てこなくなりますよね。

やっぱり新しいNetflixのようなかっこいい会社、かっこいいロールモデル、かっこいい個人が生まれるといいと思います。韓国だと脚本家がドリームジョブになっています。エンタメ業界でもエリート学生がプロデューサーや脚本家やエンタメ企業の経営者になりたがるケースが多いと聞きます。

脚本を書くと、知的財産、著作権があってずっと稼げます。日本では最後のコンテンツの一攫千金といえば漫画でした。そうしたジャパニーズドリームをもっといっぱい作りたい。お金そのものが大事なのではなく、十分な報酬や予算があれば、クリエーターの創造性がより花開いて、社会のためになると思うからです。

昔はミリオンセラーを飛ばせば一攫千金だったけれども、今はそれも難しくなっています。 そんな世界を次の会社では作りたい。そういう意味でも、資本主義とはうまく付き合っていかないとな、と思っています。

コンテンツの力でビジネスを民主化したい

—— ビジネス版のNetflixを目指すと?手がけるコンテンツは経済分野だけなんですか。

経済が私の強みですし、ビジネスって面白いですよね。私はコンテンツの力でビジネスを民主化したいとずっと考えてきました。ほとんどの人がビジネスに多くの時間を割いていますし、子どもの教育にも、投資や起業や会計といったビジネス視点を入れていった方がいい。あまり期待値を上げすぎないほうがいいですが(笑)、トーク番組にドラマ、リアリティショー、ドキュメンタリー、いろいろやりたいですね。

—— 世界で売れるコンテンツを目指すんですか。

ビジネス系コンテンツは国境を超えやすいとは思いますが、「世界」を最初から目指すのは危険です。「世界」を謳うのはかっこいいのですが、マジックワードみたいなところがあって、焦点がぼやけてしまいます。

最初はリソースも限られますので、完全に日本市場向けにやっていきます。海外に出て行くとしても、中国、韓国などアジアに挑んでみたい。世界はアジア中心になってきていしますし。でも、まだ構想だけで、具体的に何を作るのかは決めていませんので(笑)、企画も絶賛募集中です。

—— もう出資者やスポンサーは見つかっているんですか?

最初は、自己資金を中心にやろうと思っていますが、いいパートナーがいればぜひ組みたいです。特に大企業と組めないかと。日本の勝ち筋は「大企業×スタートアップ」の掛け合わせだと思っていますので。

世の中にはお金がジャブジャブなのに、起業家や事業家が少ないので、不動産や株にばかりお金が行ってしまう。それは社会にとっても損失です。そうしたお金を生かして、世の中を面白くしていきたい。経済と文化が調和した「楽しい日本」を創っていきたいですね。

(聞き手・浜田敬子、構成・浜田敬子、西山里緒、撮影・竹井俊晴)


佐々木紀彦:1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、東洋経済オンライン編集長に就任。2014年7月にNewsPicksへ移籍。2018年よりNewsPicks Studios CEO/NewsPicks NewSchool校長。2020年12月末で退社。主な著書に『編集思考』『日本3.0』『5年後、メディアは稼げるか』など。

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