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あなたの「利き手」はどちらですか?
利き手が右であれ左であれ、利き手ではない方の手で細かい作業をするのは難しいものですよね。
さてここで、あまり知られていない重要な話があります。
ピーター・ドラッカー
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ピーター・ドラッカーの『明日を支配するもの』には、「仕事の仕方について初めに知っておくべきことが、自分は『読む人間』なのか、『聞く人間』なのかである」とあります。つまり、情報収集の仕方にも「利き手」があるのです。
どうでしょう、自分が読んで理解するタイプの人間か、聞いて理解するタイプの人間なのか、あなたはどれくらい自覚していますか? おそらく、自分はこちらだと自覚している人はほとんどいないのではないでしょうか。しかもドラッカーによれば、情報収集の“両利き”人口は少ないのだそうです。
聞いて理解するタイプの人は、内容を言葉で理解します。一方、読んで理解するタイプの人は、文章や図表などで理解します。
このようにインプットの「利き手」を知っておくと、情報のインプットをする際、同じ本でも、文字を読んだ方が内容を吸収しやすいのか、読み上げ機能を使って聞いた方がよいのかが分かります。
そして、これをあなた自身が自覚するだけでなく、周囲ともお互いに共有しておけば、効率的に情報のインプットができるのです。
ちなみに、アウトプットにも利き手があるそうです。つまり、「書く人」か「話す人」かということです。フェイス・トゥ・フェイスの会議では発言しなかった(あるいはできなかった)人が、テレビ会議のチャットでは意見が言えたりするケースがありますが、これなどは典型的な「書く人」のパターンです。
まずはあなたも、インプット(やアウトプット)の「利き手」を把握し、周囲に共有しておくことをお勧めします。
本選びは「3つの軸」で
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インプットの利き手が分かったところで、次に知っておくべきことは「効率的なインプット方法」。新しいことを学ぶ際に、真っ先に思いつく手軽なインプット手段といえば「本」ではないでしょうか。
例えばあなたが仕事で何か新しい分野のプロジェクトにアサインされたとして、仕事に必要な知識を身につけるためには、何冊くらいの本を読めばよいと思いますか?
理想的には10冊程度、本気で学ぶのなら20〜30冊と言いたいところですが、多読の習慣がない人には、まず3冊読むことをおすすめします(編集工学研究所の松岡正剛さんも同様のアドバイスをしています)。
では、その3冊をどういう基準で選べばよいのか? これもポイントがあります。
学びたいことについて、大まかな立体地図を描くことをイメージしてください。立体地図は、緯度、経度、高度という3つの軸で地形を把握しますよね。
新しいことを学ぶ場合もそれと同様に、3つの軸で大雑把に全体像を掴むのがコツです。ではその3つの軸とは何かというと、歴史、現在の状況、そして最新トピックスです。
つまり、対象となるテーマの「歴史が分かる」本を1冊。「現在の状況(市場)」が分かる本を1冊。そして「最新の言葉やトレンド」が分かる本を1冊選ぶとよいでしょう。
選んだ3冊で知りたいテーマを立体的に把握できた後、さらに深掘りしたい内容について本を加えていけばいいのです。
「そんなこと、ハードルが高くて続けられない」という人もいるかもしれません。せっかく本を選んだのに「積読」になっている人は多いものです。
そんなあなたに朗報です。まずはぜひ、チャールズ・デュヒッグの『習慣の力』を読んでみてください。良い習慣を身につけるポイントが分かります。
私たちは自分の意志で行動を決めていると思っているものですが、実はそうではありません。人間の全行動の4割は「習慣」、つまり脳で考えることなく、無意識に身体を動かしているのです。
朝起きたら歯を磨く。車を運転中に車線変更する時はドアミラーを見てウインカーを出す。……こうした一連の動作は、習慣化されて無意識のうちにやっていることが多いものです。つまり、習慣のメカニズムを知ることで「良い習慣」を増やし、「悪い習慣」を減らすことができるのです。
本を読むこともそのひとつ。習慣の力を借りて良い習慣を身につけることで、人生は知らず知らずのうちに好転していくのです。
あなたもまずはこの1冊から始めてみませんか?
アイデアを生み出す2つの原理
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さて、ここまでインプットの仕方についてお話ししてきましたが、ビジネスパーソンにとってはインプットが最終目的ではありません。本当の目的はあくまで、ビジネスで成果を出すこと。そのためには、インプットをもとに「ビジネスのアイデアを生み出す力」が必要です。
自律的に仕事を進めるうえで、「アイデア」を生み出すことの重要性は何度強調してもしすぎることはありません。なぜなら、アイデアを生み出せないかぎり、あなたは誰かにアイデアを授けてもらわなければならず、いつまで経っても自律的に仕事をこなすことができないからです。
アイデアを生み出す方法については、とても優れた本があります。ジェームス・W・ヤングの『アイデアのつくり方』がそれです。わずか100ページほどの短い本ながら、初版から30年以上の時を経て読み継がれている名著です。
『アイデアのつくり方』によれば、学ぶ際にはつねに「原理」と「方法」を把握する必要があります。今回の例で言うと、アイデアをつくる原理は次の2つです。
- 原理1:アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない
- 原理2:組み合わせる才能は、事物の関連性を見つけ出す才能に依存が大きい
原理1では、アイデアはゼロから生み出すのではなくて、要素を組み合わせるのだと言い切っています。まさにスティーブ・ジョブズの言うところの「connecting the dots」ですね。そして原理2は、関連性を見つけ出す才能が必要だと言います。「私には才能がない」と嘆く必要はありません。この才能は、訓練で強化することができます。
この訓練には、例えばブレーンストーミング(ブレスト)などが有効です。ブレストは、できる限りたくさんのアイデアを出す方法です。誰かがアイデアを出したら、それに関連するアイデアを重ねていけば、どんどんアイデアを広げることができます。
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ブレストに参加する人が多様であるほど、自分とはまったく違う発想で次のアイデアを出してくれる可能性が高まります。このとき、出てきたアイデアの関連性を記録に残しておくことで、多様な関連性を見つけるスキルを習得することができます。
あるいは、コピーライターがたくさんのコピーを作る方法からも学ぶことができます。あるコピーを思いついたら、そのコピーの文章を分節に分けます。そして、その文節ごとに他の言葉に置き換えるのです。
仮に1つの文章を3つの文節に分けられ、それぞれの文節を5つ思いついたとしたら、5×5×5=125通りのコピーをつくれるわけです。それぞれ10通りを思いつけば1000通り。これだけあれば、これだ!と思えるコピーがあるはずです。
5段階でアイデアを生み出す
さて「原理」が分かったところで、次は「方法」です。アイデアをつくる方法は、次の5段階から成ります。
- 資料を大量に収集
- 資料の咀嚼
- 孵化させる(問題のまったくの放棄)
- 想像力や感情を刺激するものに心を移す→誕生
- 生まれたばかりのアイデアを連れ出す
→大したことないと気づく
資料を大量に集めることから始めます。要素を組み合わせるわけですから、その要素が多いほどよいわけです。
これらを咀嚼して、一度手放します。そして自分の感性を刺激する場所などに行くわけです。音楽を聴いたり、芸術作品を見たりしてもいいでしょう。
そして、生まれたばかりのアイデアを連れ出し、周囲からさまざまなフィードバックをもらうことで、このアイデアは大したことがないと気づき、再び1に戻るわけです。ジェームス・W・ヤングは、この一連の動作を繰り返すなかでアイデアが生まれると言います。
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ちなみに私は、『アイデアのつくり方』を初めて読んだとき、かなり驚かされました。私が普段アイデアを生み出すときに実践している5つのステップとよく似ていたからです。
中尾のアイデアのつくり方
- 大量に集める
- 整理する
- 寝かせる(私は実際に寝る)←小人が手伝ってくれる
- 生まれる
- 育てる
1、2はヤングの手法と同じです。次に、整理したところでその興奮した頭のまま寝ます。寝ている間も脳は働いているので、たいてい翌朝には何かアイデアが出てきます。それでも駄目なら、しばらくアイデアを寝かせます。これを繰り返すうちにアイデアの“赤ちゃん”が生まれるというわけです。
私は決して心が強い人間ではないので、誰かにひどいダメ出しをされるとめげてしまいます。そこで5のステップに関しては、まずはポジティブなフィードバックをしたうえで改善点を言ってくれる人にアイデアの赤ちゃんを紹介します。
そしてアイデアが“小学生”くらいに育ってから、厳しいフィードバックをくれる人に紹介していくようにしています。このように、自分がストレスなく受け入れやすい手順でアイデアを育てていくのがポイントです。
イノベーションを起こすには
アイデアを生み出す素地が整ったら、次はイノベーションです。
近年、ビジネスの現場では「イノベーション」という言葉を毎日のように耳にしますが、そもそもイノベーションとは何でしょうか?
イノベーションという言葉は、イノベーションの父と呼ばれているヨーゼフ・シュンペーターが広めた言葉です。シュンペーターは、「企業者の行う不断のイノベーション(革新)が経済を変動させる」という理論を構築しました。
日本では、画期的な製品を開発する行為を指してイノベーションと呼ぶことが多いですが(以下の1)、シュンペーターが言うイノベーションは、実は5つあるのです。
- 新しい生産物の創出(プロダクト・イノベーション)
- 新しい生産方法の導入(プロセス・イノベーション)
- 新しい市場の開拓(マーケット・イノベーション)
- 新しい資源の獲得(サプライチェーン・イノベーション)
- 新しい組織の実現(組織イノベーション)
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トヨタのカンバン方式などは「プロセス・イノベーション」の代表でしょう。アマゾンがロングテールという新市場をつくったのは「マーケット・イノベーション」です。
アップルがiPhoneをアメリカでデザインし、日本をはじめ先進国の部品を使って中国で製造することにしたのは典型的な「サプライチェーン・イノベーション」です。ティール組織に代表されるフラット型の組織やプロフェッショナルの副業で仕事をする人たちも「組織イノベーション」の代表ですね。
さらに言えば、これらのイノベーションも1つだけより、組み合わせた方がいい。そうすれば他社に模倣されづらくなるからです。
イノベーションの鍵はダイバーシティにあり
ところで、イノベーションはどうしたら生まれやすくなると思いますか?
これについては、私がかつて在籍していたリクルートワークス研究所の「労働生産性の持続的向上モデル」という調査にヒントがあります。
この調査では、イノベーションに影響を及ぼす因子をいろいろ調べたところ、「ダイバーシティ&インクルージョン」と「プロフェッショナル人材(育成)」が重要であることが分かりました。
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「ダイバーシティ」は多様な人材が関与するこということ。そして「インクルージョン」は、その人がその人らしくいられる状態ということです。
例えば、ある組織に複数の国籍にまたがる老若男女が所属していたとします。つまりダイバーシティは満たしている状態ということですね。
しかし、全員が長時間労働を強いられ、毎週のように接待の予定を入れられ、転勤や出張も断ることができないとすれば、どうでしょうか。子育て中の社員や体の無理がきかない高齢者はおそらく勤務に耐えられないでしょう。文化の違う外国人も無理かもしれません。つまりこのような状態は「ダイバーシティは満たしていても、インクルージョンは満たしていない」ということです。
調査結果は、このことに加えて、その業界や製品や仕事などに関するプロフェッショナル人材が必要だと示唆しています。つまり、多様なプロ人材が集まり、その人らしくいられる状態をつくれば、イノベーションは起きやすくなるということです。
「いい話だった」で終わらせないために
本稿では、「自律人材」になるために押さえておきたいインプットの仕方、アイデアの生み出し方、イノベーションの起こし方のヒントをお伝えしてきました。
いかがでしたか? ぜひこれを「いい話だった」で終わらせず、一歩を踏み出してください。
そのためにぜひお勧めしたいのが「24時間以内に何かする」ということ。24時間以内なので、大きなことはできないでしょう。それでもかまいません。その「何か」をまず今ここで決めてください。
そして、それをテキストに残し、実践すること。1週間後に仲間と振り返ることにすれば、心地よいプレッシャーとなり、なおよいでしょう。
これをきっかけに自分の行動を見直し、多様な人と交流し、自分のやりたいことを見つけてみてください。
※この記事は2021年1月8日初出です。
中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役も兼任。新著に『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』がある。