独占入手したPitchbookのデータによれば、2020年、ヘルステック企業8社がユニコーンのステータス(企業価値が10億ドル以上)を獲得した。2020年に新しくユニコーン企業の称号を得た企業は15社あったが、そのうちの実に半数以上がヘルステック企業ということになる。
米調査会社のCBインサイツによれば、ヘルスケア業界のスタートアップ企業に対するベンチャー・キャピタルの投資額は、2020年第1〜第3四半期までの累計で過去最高の約560億ドル(約5兆6000億円)を記録。
企業によっては、年初に一度資金調達をし、その後条件が有利だと分かると再度資金調達を実施したところもある。例えば、2020年に企業価値が15億ドルに達したAIヘルスケアのスタートアップ企業、Olive(オリーブ)は同年3月に5100万ドル調達したあと、再度9月に1億600万ドルを調達している。
ヘルステック企業への投資ブームは、コロナ禍によりアメリカの医療制度の欠点に注目が集まったことが背景にある、と多くの投資家が考えている。今話題になっている問題に対して自分たちの技術を活用しようと迅速に動いたスタートアップ企業もあれば、ピッタリのタイミングに最適なソリューションを持っていることが有利に働いた企業もあった。
また、かねてから投資家が指摘してきたヘルスケア業界の技術革新の遅さも、コロナ禍により加速した。病院、クリニックや患者も、危機的な状況であれば新しい技術を前向きに試してみようという気になるのでは、と投資家や創業者は推測する。遠隔医療サービス、バーチャル診療、ダイレクトメールでの薬のデリバリーなども人気になっている。
以降では、新たにユニコーン企業の仲間入りを果たした8社の顔ぶれを、その企業価値とともに紹介する。
2020年にユニコーン入りしたヘルステック8社とは?
Cityblock Health(シティブロック・ヘルス):10億ドル
Cityblock Healthの共同創業者、トイン・アジャイとアイヤ・ロム。
Cityblock Health
Cityblock Healthは、低所得者層の患者の医療効果を改善することを目的としている。バーチャル医療サービスに加え、投資家の言う「健康の社会的決定要因」に働きかける社会的支援サービスが強みだ。
この「健康の社会的決定要因」とは例えば、公共交通機関へのアクセスや手の届く値段の安定した住居、栄養のある食事などを指す。こういった要素は医療現場には直接関係ないものの、患者の長期的な健康には大きな影響を与える。
Cityblock Healthは、2020年12月14日にシリーズCで1億6000万ドルの資金を調達し、創業3年にして一気にユニコーン企業の仲間入りを果たした。コロナ禍が続き、医療格差への対応がアメリカの大きな課題となっている状況下で、こういったスタートアップは2021年さらに成長する可能性があると投資家は指摘する。
MDLive(エムディライブ):10億ドル
BI Intelligence
MDLiveは以前から遠隔医療を提供している会社だが、コロナ禍により急成長している。創業11年を迎えた同社は、デジタル健康サービスやバーチャル診療サービスなどのパッケージをアメリカの患者向けに提供しており、遠隔医療大手のTeladocと同様の事業展開をしている。
Teladocは最近、患者向けに糖尿病などの慢性疾患の管理を支援する企業、Livongoを買収しており、MDLiveも同様の大型買収を2021年に行うのではないかと噂されている。
しかしMDLiveは、2020年9月に5000万ドルの資金調達を発表した際、2021年に上場する計画を示している。Pitchbookのデータによれば、この投資ラウンドでMDLiveの価値は10億ドルとなったが、これには別の取引で調達した借入2500万ドルが含まれる。
Lyra(リラ):11億ドル
Lyra Healthは企業側と連携しメンタルヘルス関連のサービスを提供する。
CB Insights
Lyraは、企業と連携してその従業員によりよいサービスを提供するメンタルヘルスのスタートアップ企業だ。セラピストやコーチなどのネットワークを持ち、自社のソフトウェアにアクセスできる社員に対して、少額または無料でバーチャルケアを提供する。
投資家によると、コロナ禍でリモート勤務の社員はワークライフバランスで苦労している。そのため、経営側もオフィスで提供する分かりやすい特典から、より多くの社員の役に立つ福利厚生に切り替えようという動きがあり、Lyraのサービスが急成長しているという訳だ。
Pitchbookのデータによれば、創業5年を迎えたLyraは2020年8月27日にシリーズDで1億1000万ドルの資金を調達し、これにより企業価値が11億ドルとなった。2020年、投資家はメンタルヘルス関連のスタートアップ企業を積極的に支援したが、この傾向は2021年に入ってさらに強まるだろうと話す投資家は多い。
Virta Health(バータ・ヘルス):11億ドル
Hollis Johnson/INSIDER
Virta Healthはシリコンバレーのスタートアップ企業で、バーチャル診療と話題のケトジェニックダイエット(糖質の代わりに脂質を大量に摂取するダイエット方法)を組み合わせて糖尿病患者を支援する。
2型糖尿病の患者に対し、低炭水化物で高脂質な食事を推奨し、トレーニングを受けた専門家とマッチングして症状をトラッキング・管理する。
Virtaが資金提供し査読を受けた研究によれば、患者の食事にこうした変更を行うことで、最終的にインスリンなどの薬剤を減量、またはやめることができる可能性があるとしている。
同社は2020年1月にシリーズCで9300万ドルを調達しており、その後さらに12月2日にシリーズDで6500万ドルを調達している。ブルームバーグのレポートによれば、2020年12月の投資ラウンドで企業価値が11億ドルとなった。
Whoop(フープ):12億ドル
Whoopのストラップ。
Courtesy of Will Ahmed
Whoopはレブロン・ジェームズ、イーライ・マニング、ケビン・デュラントなども使っている、健康・運動をモニタリングするストラップのメーカーだ。
大人気のこのストラップは運動量をトラッキングする腕時計型のデバイスと同様の機能を持つ。PGAツアー参戦中だったプロゴルファーのニック・ワトニーは、人気のフィットネス・アプリであるStravaと組み合わせて使ったことで呼吸数の上昇を検知、それによりコロナ感染を早期に発見できたと言われている。
ストラップ自体にはお金はかからず、毎月30ドルまたは年間288ドルの会費を払えば使用できる。
創業者兼CEOのウィル・アフメドは31歳。創業8年を迎え、2020年10月28日にシリーズEで1億ドルを調達し、企業価値が12億ドルとなった。
Grand Rounds(グランド・ラウンズ):13億ドル
Grand RoundsのCEO、オーウェン・トリップ。
Grand Rounds
Grand Roundsはウォルマートやホームデポといった企業と連携し、オンデマンド医療のバーチャル・アシスタントを福利厚生として社員に提供している。
以前はそうした自家保険制度を持つ大手企業を中心に事業展開していたが、コロナ禍によりコストは抑えつつ魅力的な福利厚生を提供したい企業が増えたため、最近は中規模企業にも対象を広げた。
2020年9月にはプライベート・エクイティ企業であるカーライル・グループから1億7500万ドルを調達し、これにより企業価値が13億ドルに上昇した(Pitchbook調べ)。
「コロナ禍により、全国的に経営者はリモートワークの社員の対応に迫られ、そうした特殊な状況により突如需要が生まれた」
カーライル・グループの投資家でありグランド・ラウンズの取締役会メンバーでもあるロバート・シュミットは2020年9月にそう話している。
Olive(オリーブ):15億ドル
skynesher/Getty Images
Oliveは医療従事者に対し自動化のための技術を提供する企業だ。
AIソフトがキーボード入力から医療従事者と特定のアプリケーションとのやりとりを学習し、事前承諾や患者の検証などのタスクに対してサジェスチョンを行う。また病院の人事、財務、購買部門のプロセスの自動化を支援するツールも提供している。
2020年3月に5100万ドルを調達したばかりだったが、9月にもベンチャーファンドで1億600万ドルを調達している。Pitchbookのデータによると企業価値は現在15億。また12月にはVerata Healthを買収し、保険会社や病院に対するサービスの幅をさらに広げている。
Ro(ロー):15億ドル
Roの創業者であるロブ・シュルツ、ザカライア・レイタノ、サマン・ラマニアン。
Ro
Roは勃起障害、脱毛、体重管理などのジェネリック薬品を郵送で提供するD2Cの企業だ。治療期間中、患者はRoの遠隔診療サービスを通して医師に相談することができる(Roは保険適用外のため、患者は薬の料金と診療代を支払う)。
創業3年を迎えたRoは2020年7月27日にベンチャーファンドから2億ドルを調達した結果、企業価値が15億ドルに達した。デジタル医療からさらに事業を拡大するため、在宅医療サービスを提供するスタートアップ企業のWorkpathを同年12月に買収している。
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)
[原文:The 8 digital health startups to watch that are changing healthcare in 2021]