2021年、相場はどんな動きを見せるのか。ウォールストリートの著名ストラテジストらに予測してもらった。
REUTERS/Brendan McDermid
- 2020年の相場は波乱含みだったが、大手金融機関の多くは2021年も強気予想を崩していない。
- しかしストラテジストの多くは、強気相場の次の局面を支えると見られる経済活動の再開と景気回復を失速させる可能性のあるリスク要因について注意を促している。
- 本稿では、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーをはじめ大手金融10社に、2021年の経済予測と推奨する投資先を聞いた。
2021年の米国株は売り注文が優勢の幕開けとなったが、ウォールストリートの巨大企業は、2021年は強気の予想をしている。
こうした楽観的な見通しは、景気が回復し経済活動が徐々に再開されていることに基づいたものだ。
「2021年に入っても、新型コロナウイルスは依然として猛威をふるっており、感染者と死亡者の数は多くの地域で増えている」と、モルガン・スタンレーの米国株チーフ・ストラテジスト、マイケル・ウィルソンはポッドキャストで語った。
しかしウィルソンは「こうした逆風の中でも、直近では大規模な財政刺激策の可決、中央銀行からの無制限の支援、そして有効なワクチンがいくつか流通し始めたという明るい兆しもある」と指摘する。
ゴールドマン・サックスの米国株チーフ・ストラテジスト、デビッド・コスティンも同様の見方を示しているが、楽観的な株式市場予測に対して潜在的な下振れリスクもあるとする根拠が2つあると言う。
まず、ワクチンの流通がスムーズにいかない可能性と、それによって期待通りの経済効果が得られない可能性だ。
コスティンは2020年12月18日付の解説でも「ワクチンの需要と供給の不一致は、我々の予測に対する下振れリスクとなるだろう。また、ワクチン流通が順調に進んだとしても、消費者活動の回復は予想よりも緩やかなペースになるだろう」と述べている。
第2の根拠は、極端な財政・金融緩和策はインフレや金利の上昇を予想以上に加速させるおそれがある点だ。コスティンは次のように指摘する。
「労働市場と製品市場の低迷により、インフレは軟調に推移すると当社のエコノミストは見ている。
しかし一部の投資家は、経済活動の再開、追加の財政刺激策、FRBによる資産買い入れが継続すると、2021年におけるインフレの急激な加速と米国債利回りの上昇につながるのではないかと懸念している」
全体として、大手金融機関のトップストラテジストの予測では、投資家は今後さらなるボラティリティに備えるべきだが、2021年末まではリターン獲得に向けて現状を維持するべきだとしている。
ウィルソンによると、「投資のリターンは、恐怖心が最も強いときに常に最大になる。バリュエーションが最も割安になるからだ」という。
リターンが大きく投資のしがいがあると予測される2021年の相場で、収益を最大化するためにはどうしたらよいか。本稿では、大手金融機関10社のトップストラテジストによる提言を紹介する。
1. ゴールドマン・サックス
米国株チーフ・ストラテジスト、デビッド・コスティン
Goldman Sachs
S&P500指数目標:4300
EPS(1株当たり利益)目標:175ドル
予測
当社の3カ月、6カ月、12カ月予測は3900、4100、4300。この楽観的な株式市場予測の一端は、経済成長率と収益成長率が当社のコンセンサスを上回るという予測に基づいている。
また、現在の金利環境では、絶対的バリュエーションのPER(株価収益率)の高止まりが続くと予想される。
当社エコノミストの予測では、FRBは2024年まで利上げはせず、2021年末までの10年物米国債利回りの上昇は1.3%にとどまる。
推奨する投資先
当社の高シャープレシオ(高リターン)のポートフォリオは、リスク調整後のリターンが最も高い銘柄を特定する。当社の50銘柄であり、セクター・ニュートラル方式で加重平均した高シャープレシオのポートフォリオ(GSTHSHRP)には、最も高いシャープレシオが見込まれる銘柄が含まれている。
年初来、収益はふるわなかったが、長期的に見るとこのポートフォリオは高リターンが見込まれる。GSTHSHRPは、1999年以降の半期の64%において、S&P500を平均263ベーシスポイント(年間で約526ベーシスポイント)上回っている。このポートフォリオの平均超過リターンは、1999年以降の大型株のコア投資信託の83パーセンタイルに位置付けられる。
2. モルガン・スタンレー
米国株チーフ・ストラテジスト、マイケル・ウィルソン
Morgan Stanley
S&P500種指数目標:3900
EPS目標:175ドル
予測
2021年は力強い景気回復が期待されるとの見方から、インデックス価格は、投資収益の向上とPER(株価収益率)低下との綱引きによって決まると見られる。
収益面では、GDPの力強い回復が売上高の堅調な成長を支える一方、2020年のコスト削減により利益率の回復に加え、営業レバレッジと営業利益率を当社の予想以上の水準に押し上げる、強力な漸進的フローが可能となった。
PER(株価収益率)については、金利が上昇すればバリュエーションへの逆風になると予測されるが、経済が回復し株式のリスクプレミアム(ERP)が低下すれば、ある程度相殺されると考えられる。
実質的にはマイナス成長を相殺する以上の増益が見込まれる。結果的に、新たなリターンはプラス方向に傾き、全体としては弱気予想へ落ち込むより強気予想へ向かうと予想される。
推奨する投資先
景気回復がさらに広がっていくことがこのセクターの追い風になるはずだと考えられるが、大型株よりも小型株のほうがベストな選択だと考えている。というのも、大型株は、新型コロナウイルスの影響を受けて2022年に向けて需要が徐々に落ち込み逆風に見舞われる可能性があるが、小型株は景気回復時の埋め合わせが容易という利点があるからだ。
また、株価の回復が遅い業種も注目に値する。耐久消費財・アパレル、消費者サービス(ホテル・レストラン)は、コロナ禍でのトレンドの恩恵を最も受けない業界の銘柄であり、時価総額の約4分の1を占める銘柄が直近52週の最高値から15%以上も下落している。したがって、現在のような転換期においては最も注目すべきと言える。
3. バンク・オブ・アメリカ
米国株・クオンツ戦略責任者、サビタ・スブラマニアン
Bank of America
S&P500種指数目標:3800
EPS目標:165ドル
予測
景気回復は堅調に推移し、2021年下期には世界中で経済活動が再開される可能性が高い。ワクチンと景気回復に対する楽観的な見方はすでに株価に反映されている。しかし、ワクチン接種のリスク、財政刺激策の遅れ、ロックダウンの長期化はリスクと言える。
株式のリスクプレミアム(ERP)が過去10年の平均値である500~550ベーシスポイントレベルまで戻ると(現在は437ベーシスポイント)、それだけでもS&P500は3000~3050まで下落するだろう。
しかし、株価の下支えとなる要素もいくつかある。S&P500の配当利回りは10年物国債利回りの3倍となっており、S&P500の配当は2021年には増加すると予想される。
また、債券の利回りとは異なり、投資収益は名目ベースで、紙幣増刷とワクチン普及後の急激な需要回復の可能性を考えると、インフレに起因したアップサイド(上値)に寄与すると考えられる。
推奨する投資先
バリュー株は、ワクチンに関するポジティブなニュースに加え、利益循環、景気循環、投資家の立ち位置、当社の配当還元モデルの枠組み、日本から得た教訓、バリュー株が新たなグロース株だという事実など、多くの有力な根拠によって支持される。
当社の上位2業種は間違いなく、(景気循環と連動する)シクリカル(景気動向に敏感)かつバリュー重視の、金融とエネルギーである。これらは(3段階で最下位の)「アンダーウェイト」から2段階引き上げられた。
また、テクノロジーとヘルスケアでは、ネグレクト株とグロース株がリーズナブルな価格で提示される。生活必需品、不動産、電気通信サービスは、当社はアンダーウェイトに位置付けている。
これまでにも主導的な地位を占めていたサービス関連株は、我々の見立てではボンドプロキシー(債券の代わりとなりうる低リスク高利回りの銘柄)であり、長期的なグロース株である。米国経済の力強い回復が期待されている中ではあるが、当社は大型株より小型株が好ましいと見ている。
4. UBS
米国株ストラテジスト、キース・パーカー
UBS
S&P500種指数目標:4100
EPS目標:176ドル
予測
4100という指数目標は、当社のシナリオでワクチン普及というポジティブな結果を想定した上での予測だ。
しかし、予測をこのように変更したのには、2021年の収益の回復力が非常に高いと予測されること、GDP成長率が見込まれることに加え、PER(株価収益率)予想がワクチンの普及というポジティブな結果をわずかに下回ることも背景となっている。
したがって、S&P500のアップサイドケース(4400)では、低金利を背景に想定以上の成長率が見込まれることによってさらなる高値が想定されているが、ダウンサイドケース(3300)では、景気の回復鈍化と緊縮財政という状況が想定されている。
推奨する投資先
小型株と中型株は、ほとんどの指標で大型株よりもはるかに高いスコアを示している。この傾向は、(利回り狙いの投資家が多い)ディフェンシブ株よりもバリュー株を重視し、グロース株取引を止めないほうがいいことを裏付けている。
生産と消費の回復基調が続いているため、一般消費財・サービスと資本財・サービスは(最上位の)「オーバーウェイト」に据え置く。
エネルギーは、新型コロナウイルス感染拡大前の利益と企業価値に大きなアップサイドがあることから、「オーバーウェイト」に引き上げる。金融は「ニュートラルプラス」とし、銀行、消費者金融、生命保険が好ましい。
グロース株では、バリュエーションに対して堅調な伸びを示していることから、電気通信サービスとヘルスケアをオーバーウェイトに引き上げる。公益事業と生活必需品はアンダーウェイトに据え置き、テック株はさらなるマイナスへと転じたが、「ニュートラル」に据え置く。
5. クレディ・スイス
米国株チーフ・ストラテジスト、ジョナサン・ゴラブ
Credit Suisse
S&P500種指数目標:4050
EPS目標:168ドル
予測
2021年の予測をするには、「未来(2021年末)の時点で見た未来(2022年)はどうなっているのか」というシンプルな質問に答えなければならない。この観点から、我々は短期的な視野は外さざるを得ないと考えている。その代わりに、世の中が通常の状態に戻った時点での予測に重点を置いている。
2022年に目を向けると、新型コロナウイルスの記憶は徐々に薄れ、経済は堅調となるものの減速はやむを得ないだろう。しかし、イールドカーブ(利回り曲線)はさらにスティープ化(急勾配化)してボラティリティは低くなるだろう。シクリカルな値動きはほぼ過去のものとなるだろう。
推奨する投資先
テックプラス(オーバーウェイト):テックプラスのファンダメンタルケースは、販売の伸び、利益率の向上、強固なフリーキャッシュフロー(純現金収支=FCF)、レバレッジの低さなど、好調だと考えられる要素がいくつかあり、引き続きこのグループにはポジティブなバイアスをかけることを推奨する。
金融(オーバーウェイト):典型的な景気回復と連動して、銀行は信用状況の改善、取引量の増加、イールドカーブのスティープ化の恩恵を受けるだろう。このグループは十分にリザーブ(留保)されており、高い資本利益率となる可能性が高い。セクターバリュエーションは非常に安値で、グループ全体としては保守的な予想となっている。
6. ドイツ銀行
チーフ・グローバルストラテジスト兼アセットアロケーション責任者、ビンキー・チャダ
Deutsche Bank
S&P500種指数目標:3950
EPS目標:194ドル
予測
当社の収益予想は、マクロ成長やドルに対しての成長トレンドやシクリカル性(景気変動の影響の受けやすさ)が大きく異なる4つの銘柄およびセクターの予測に基づいている。
- 超大型のグロース株とテック株は、マクロ成長とドルの両方に連動したサイクルに伴い、非常に強いトレンド(11%)となっている。
- ディフェンシブ銘柄は、変動の小さい堅調なトレンド成長(7%)を示す。
- シクリカルなセクターはトレンド(6%)だが、マクロ成長に牽引されて大きなサイクルとなっている。
- シクリカルな金融とエネルギーセクターには、10年以上にわたって収益のトレンドがなく、大きなサイクルがあるだけである。
2021年の当社の予想は各グループのコンセンサスを上回っており、ディフェンシブでは+4%、シクリカルでは+20~30%となっている。当社では、第2四半期にS&P500のEPSが正常な水準に達し、2021年第4四半期までには9%の水準を上回ると予測している。
推奨する投資先
世界のGDP成長率(S&P500の売上高で加重調整)は、2020年第4四半期では前四半期比年率1.8%と、短期的には急激な減速と予想されているが、成長率は2021年第2四半期に再び加速して5.2%となり、そこからさらに上昇すると予想される。
世界のGDPは、2021年末~中旬に対する前回の予測と比較して、2022年第2四半期には新型コロナウイルスの感染拡大以前の水準に戻ると予想される。当行のFXストラテジストは、2021年はドルが下落し続け、2021年末までに取引加重を行ったドルは第3四半期の水準から9.5%下落すると見ている。
7. ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュート
ウェルス・アンド・インベストメント・マネジメント事業、ダレル・クロンク
Wells Fargo Investment Institute
S&P500種指数目標:3800~4000
EPS目標:175ドル
予測
パンデミックの余波により、2021年を通して、2%程度のインフレを伴って世界経済の不均衡な成長は続くと予想する。
FRBの積極的な景気刺激策により、2021年には、主に対ユーロでドルがさらに下落すると予想される。新興市場では、アジア通貨は上昇する可能性があるが、その他の地域の通貨の持続的な上昇は期待しがたい。
推奨する投資先
アメリカの株式資産クラスにおいては、大企業は中小企業よりもキャッシュ・バランスが良くレバレッジが低いので、総じて収益成長率が高い。そのため、小型株よりも大型株や中型株の方が優良だと我々は見ている。
また、金を戦術的なコモディティ・アロケーションの一部(ポートフォリオの2〜4%)とすることでリスクをヘッジし、分散化を図ることも推奨する。また、債券においては、信用リスクを取っても、デュレーションを中立に保つことが好ましいと考える。
情報技術、ヘルスケア、電気通信サービス、一般消費財・サービスなども好ましいセクターに挙げられる。また、世界的に景気が回復し、インフラ投資の増加が見込まれることから、素材セクターも好ましいと予測し、資本財・サービスをニュートラルに引き上げる。
8. スタイフェル
機関投資家向け株式戦略責任者、バリー・バニスター
Stifel
S&P500種指数目標:3800
EPS目標:147.12ドル
予測
我々がS&P500種指数目標3800という数字を見直すことは今のところない。2018年1月以降のボラティリティと2016年以降の4年間でのバリュー株およびグロース株での51%という下落は、忍耐が要ることを示唆している。
2018年のFRBの出口戦略が失敗して以来、S&P500の振れ幅が大きくなっているが、これは短期的なものだという視点が必要だ。また、バリュー株は景気刺激策とワクチンの恩恵を受けているが、これはまだブレイクアウトを決定づけるものではないので、さらに静観が必要である。
2021年4月初旬のS&P500は3800と見るが、この値は(1960年代半ばから1970年代半ばのような)「ハードトップ」や(1920年代後半や1990年代後半のような)古典的なバブルが始まった時の極めて重要な水準に近い。
推奨する投資先
ユーフォリア(陶酔状態)をヘッジするため、これまで以上に安値のディフェンシブ株による抑制を推奨する。
純粋なディフェンシブセクターおよび資本財・サービスはS&P500の30%にまで達し、(テックバブルの)2000年や(インフレ率が1980年3月をピークに前年比14.7%増となった)1981年と同様に、現在はS&P500に対して割安な水準にある。
しかし、短期金利には下がる余地がないため、S&P500はデフレリスクに対して非常に敏感になっている。
9. エバーコアISI
ポートフォリオ戦略・クオンツリサーチ責任者、デニス・ディバッシャー
Evercore ISI
S&P500種指数目標:4110
EPS目標:176ドル
予測
今後は数カ月間、マイナスの実勢レートが資産価格の上昇の形を定義することになるだろう。コモディティ価格は、シクリカルなセクターや新興市場と同様に高値バイアスを示す。
収益の増加、キャッシュ・リターンの増加、投資家心理の改善に支えられ、S&P500は2021年を4110前後で終える、または2020年12月20日の終値より11%高い水準で終えると予測する。
リスクがないというにはほど遠い。新型コロナウイルスのワクチン接種が世界的に実施されると言っても、景気の一時後退は避けられない事態であり、ヨーロッパのブレグジット交渉、アメリカでの一時的な政治的空白など、さまざまな要因から2021年の相場には相応のリスクとボラティリティが見込まれるだろう。
しかし、2020年に比べれば、2021年は比較的安定するだろうと考えられる。
推奨する投資先
2021年の世界経済の回復を活用するため、当社のファンダメンタルズアナリストに、経済活動の正常化に最も貢献する銘柄を挙げてもらった。このリストには、消費者向けサービスの銘柄が多く含まれている。
有効性の高い新型コロナウイルスワクチンの試験データが発表されて以来、復旧関連銘柄のパフォーマンスは大幅に向上している。現在の患者数の急増とワクチン導入がまだ初期段階であることを考慮すると、復旧関連銘柄は今後数週間苦戦する可能性が高いが、2021年中には高パフォーマンスとなる可能性が高い。
10. オッペンハイマー・ホールディングス
チーフ・インベストメント・ストラテジスト、ジョン・ストルツフス
Oppenheimer & Co.
S&P500種指数目標:4300ドル
EPS目標:175ドル
予測
当社の指数目標は、パンデミックを食い止めるための有効性の高いワクチンの導入と接種が成功することなど、いくつかの前提条件に基づいている。
我々は、財政刺激策がアメリカ経済を引き続き下支えすると見ている。2021年第1四半期末までには追加の財政刺激策が発動されることになるだろう。
推奨する投資先
先進国や新興国市場へも有意義なエクスポージャーのある米国株はオーバーウエイトに据え置く。ディフェンシブセクターよりもシクリカルなセクターをオーバーウェイトとする。
バリュー株は(直近で安値を付けた)2020年9月23日から12月11日までの数週間で注文が入り、すべての時価総額セグメントでグロース株を上回るパフォーマンスを見せている。大型のバリュー株は2020年の大半の期間でふるわなかったが、年初からは横ばいとなっている。
当社の見解では、中期的には金利は低水準にとどまる可能性が高く、投資家にとってはグロース株が引き続き魅力的に映っていることを示唆している。このことは、市場での主導的な銘柄が長期的に変化するというよりは、投資家の株式に対する投資意欲が拡大したことを意味している。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)