ヤフー、ライオン、三菱地所……大企業にも広がる副業容認の流れに思わぬ落とし穴

大企業ビル群

大企業が副業を解禁、さらに副業人材の募集に乗り出していることが注目されている。

Shutterstock.com/taka1022

社員の副業に消極的だった大企業が、副業を解禁するだけではなく、副業人材の募集に乗り出している。

2020年以降、三菱地所、ヤマハ発動機、ライオン、ダイハツ工業、SMBC日興證券といった日本の伝統的大企業も相次いで副業を解禁し、ヤフー、三菱地所、ライオンなどは副業・兼業で自社の業務を請け負ってくれる副業人材まで募集している。

社員の副業ニーズもコロナ禍以降高まっている。エン・ジャパンの「副業実態調査」(2020年10月12日発表、6325人が回答)によると、副業希望者は昨年より8ポイント上回る49%。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、副業への意欲が高まったと答えた人は53%に上る。

こうした動きは政府の後押しも大きい。

成長戦略や働き方改革の一環として副業・兼業の促進を打ち出し、2018年1月には従来の副業禁止を規定した厚生労働省の「モデル就業規則」を改定。「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」とし、副業容認を打ち出した。

ただしそこには、雇用契約のセーフティネットから外れた働き方が広がるリスクも潜んでいる。

副業を取り巻く脆弱な環境

広がる副業に伴い、何が起きるかを紐解いてみよう。

そもそも副業容認はけっこうだが、本業と副業によって長時間労働になれば過労死などの健康被害を招く恐れや、副業先で事故に遭遇する可能性もある副業する人の健康と安全を守る制度が未整備であり、折しも働き方改革の法改正で罰則付きの時間外労働の上限規制が施行されたが、それと逆行するのではないかという批判もあった

実際に経済同友会の調査によると企業が副業を認めようとしない理由として以下の3つが挙がっている(「ダイバーシティと働き方に関するアンケート調査結果」2019年11月6日〜12月8日調査)。

  1. (兼業・副業先との)労働時間通算が困難となるため(74.1%)
  2. 社員の長時間労働の助長につながるため(72.4%)
  3. (兼業・副業先等での)労働災害への懸念があるため(50%)

これを受けて政府は制度の検討に着手。2020年の通常国会で労災保険法の改正法案を成立させるとともに、2020年9月1日に副業で発生する問題の解決策を示した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を出した

労働時間は自己申告に

まず1の労働時間の通算とは、労働基準法38条1項には「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」という規定があり、複数の会社で働く場合も労働時間を通算しなければならない。その上で本業と副業先の合計の残業時間、つまり時間外労働の上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内)を守る必要がある。

また、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた場合は、本業・副業先のいずれかが超えた時間の残業代(割増賃金)を支払う必要がある。

しかし、副業先の労働時間を把握するのは現実的に困難だと言われてきた。そこでガイドラインでは解決策として「労働者の自己申告で把握すればよい」ことにした。

具体的には副業先の事業内容や従事する仕事について届け出する制度を設け、本人に副業先での労働時間を申告させればOKとした。当然、副業先でも同じ制度を設ける。ただし、申告するといっても実際は副業していても届出もしなければ労働時間を申告しない社員もいれば、虚偽の労働時間を申告する社員もいるかもしれない。

結果的に社員が上限規制を超える残業をしていたことが後で分かった場合、会社が罪に問われかねない。これについて厚生労働省労働基準局の担当者は取材にこう答えている。

「事前に労働者と話し合って申告してもらうことが大事になるが、後で客観的に上限規制を超えていたことが分かった場合、申告した時間を守ってもらえばよい。労働基準法は刑罰法規の側面があるが、知らなかったことは罪に問われないのが大原則

自己申告だと実際に働く人の時間管理ができないとの批判もあるが、会社にとっては副業先に確認する手間が省け、申告によって上限規制への対応ができるため一安心だろう

副業による過労死認定も合算で

救急車

副業先での事故、過労死などの労災の保険給付も承認されるように。

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また、改正労災保険法の施行(2020年9月1日)により、3の副業先での事故など労働災害の保険給付も改善された。

例えば過重労働で過労死した場合、労災保険の補償を受けるには過労死認定基準(時間外労働が1カ月100時間超、複数月で80時間超など)を満たす必要がある。しかしこれまでは1つの会社の労働時間でしか判断されず、2社で働き、合計100時間超であっても労災認定されなかった。

また副業先で労災事故が発生し、入院し、休職を余儀なくされた場合、病院にかかる療養給付や休職中の休業給付が受けられる。これも副業先で災害が発生した場合、休業補償給付として受け取れる給付基礎日額の算定は副業先給与のみで算定し、本業の給与は加味されず、少ない金額しかもらえなかった。

今回の改正によって新たに労災事故の休業給付などについて本業と副業先の給与を合算した額をベースに給付基礎日額が決定されることになった

また、長時間労働など複数の事業の業務を要因とする脳・心臓疾患や精神障害についても本業と副業先の負荷を総合して労災認定を行い、保険給付を行うことになった。当然、過労死認定基準も本業と副業先の時間外労働時間の合計で判断されることになった。

これによって事故が発生しても本業・副業の給与の合計で休業給付が受けられる。仮に夫が亡くなっても遺族は従来、1社の遺族給付しかもらえなかったが、労働者だけではなく遺族も副業分も合算した保険給付で救済されることになった。

またこぼれ落ちるフリーランス

しかし、このセーフティネットには抜け穴がある。

というのはガイドラインで示された労働時間の通算規定や労災保険の適用などは副業先と雇用契約を結んだ「労働者」に限定されているからだ

本業先の雇用労働者であっても、フリーランスとして業務委託契約や委任契約、請負契約を結んで副業した場合は、労働基準法の適用から除外され「労働時間は通算されない」(ガイドライン)としている。ということは副業先での事故などの保障や長時間労働による被害は公的に救済されず、すべて自己責任になってしまう

しかも副業を解禁している企業、また副業人材を募集している企業の多くが「業務委託契約」に限定しているのが実態だ。

副業人材を募集したヤフー、ライオン、三菱地所、ダイハツ工業といった大手企業の要件も業務委託契約である。また、週休3〜4日制の導入で話題になったみずほFGやSMBC日興証券は、休日を含めた副業を認めているが「他社と雇用契約を結ぶ」副業を禁じていると報道されている。

他社との雇用契約認めたANA

ANA航空機

コロナによる業績不振で苦しむANAは、他社との雇用契約を結ぶ形の副業を認める方針だ。

Getty Images/Alberto E. Rodriguez

その中で業績不振で苦しむANAがこれまでフリーランスなど個人事業主として認めていた副業を拡大し、他社と雇用契約を結ぶ形の副業を2021年から認める方向で検討していると報じられている。しかしこうした企業はまだ少ない。

企業が雇用契約を結びたくないのは、最低賃金規制や各種保険料の負担、割増賃金の支払いなど労務管理が必要になるからだろう。しかしそうなると働く人のセーフティネットがなくなってしまう。厚生労働省労働基準局の担当者はこう言うにとどまる。

「実際に業務委託で副業させている企業はあると思う。フリーランスや委託であれば労務管理上の工数が減るからだろう。業務委託になると、(厚労省が所管する)労基法上の義務から外れるので、私どもが何か申し上げることもできない。だが、業務に支障を来すことがないという観点から、どれだけ働いているかということをしっかりと把握した上で長時間にならないようにしてほしい」

こうしたお願いベースで解決する問題とは思えない。折しもコロナ禍の業績低迷による賃金減の収入補てんのために副業する人が増えているが、雇用契約を嫌い、業務委託契約で働かせる副業先が増えると見込まれる。中には最低賃金以下で長時間働かせる悪質な企業が出てこないとも限らない

政府は成長戦略として副業促進を後押しする以上、副業を「雇用契約」に誘導するか、業務委託契約であっても働く人の健康と安全を守る施策の検討を進めるべきだろう

(文・溝上憲文

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