ファイザー(Pfizer)、モデルナ(Moderna)など新型コロナワクチンの接種が世界中で始まっているが、必要量にはまだ全然足りない。次に世界の人々を救う名乗りをあげるのはどの企業なのか。
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- アメリカではこれまでに2種類の新型コロナワクチンが緊急使用の許可を受けた。
- それ以外にもアメリカ国外で使用を許可されたワクチンがいくつかある。
- パンデミックを収束させるため、世界は複数の安全で効果のあるワクチンを必要としている。
- 米ファイザー、モデルナ、英アストラゼネカを含むフロントランナーたちを紹介する。
世界中で200種類以上の新型コロナワクチンの開発が進められている。しかし、治験の最終ステージまでたどり着き、本格展開に結びつけられるのは、そのごく一部にすぎない。
世界のワクチン開発状況。緊急使用(右から2番目の軸)はアメリカでの許可を意味する。本記事で紹介する9件以外に、カナダのメディカゴ(Medicago)とフランスのサノフィ(Sanofi)の進捗も記載。
出所:各種資料からBusiness Insider US編集部が作成
最初にアメリカ食品医薬品局(FDA)から承認を受けたのはファイザーとモデルナで、いずれも12月には緊急使用が許可された。
だが、収束までの道のりはまだ長い。世界のすべての人たちを新型コロナの脅威から守るには、さらに複数の開発プログラムを進め、十分な量のワクチンを確保する必要がある。
すでに承認済みのものから、臨床試験中の候補ワクチンまで、世界のトップを走る開発プロジェクト9件の最新状況を以下で紹介しよう。
ファイザー・バイオンテック連合が先陣を切る
2020年12月22日、欧州医薬品庁(EMA)の承認後にメディアからインタビューを受ける独バイオンテック(BioNTech)のウグル・シャヒン創業者兼最高経営責任者(CEO)。
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西側諸国で最初に緊急使用許可を受けたのは米製薬大手ファイザー(Pfizer)と独バイオ製薬ベンチャーのバイオンテック(BioNTech)。後期の臨床試験では、2回投与を受けた被験者の有効率は95%を記録。
すでにアメリカ、イギリス、カナダの規制当局から使用許可を得て、アメリカでは12月14日に初のワクチン接種が実現した。ファイザーによれば、2021年は13億ドーズ(=1回分の投与量が1ドーズ)を生産する計画。
高い有効性が確認されているが、研究開発は継続中。2021年中には次世代バージョンが完成する見込みで、現行バージョンと異なり超低温環境での保管が必要なくなることが期待される。
モデルナも高い有効性、使用許可も獲得
2020年12月20日、出荷前のモデルナ(Moderna)製ワクチン。
Paul Sancya/Pool via REUTERS
米マサチューセッツ州に本拠を置くモデルナ(Moderna)は、臨床試験で2回投与後に94%という高い有効性を確認。アメリカの規制当局は2020年12月、ファイザー・バイオンテック連合に続いて2件目となる緊急使用を許可。
モデルナのワクチンは、重症化を予防する上でとくに高い効果(有効性100%)を発揮するという実験結果を得られている。
同社の1月4日の発表によれば、2021年は6億〜10億ドーズの生産を計画。うち1億ドーズを2021年3月までに、さらに1億ドーズを6月までに、アメリカが購入する予定。したがって、6月までにアメリカ人1億人がワクチン接種を完了できることになる。
ファイザー製と異なり、モデルナのワクチンは超低温で保管する必要がなく、一般的な冷蔵庫で十分。
ファイザー、モデルナ、ともに臨床試験では2回投与の結果を判定。モデルナについては最初の投与から28日後に2回目を投与。この治験結果を踏まえ、1回の投与量を減らしたり、2回目の投与時期を遅らせるなど(より多くの人に早期のワクチン投与を行うための)議論も行われたが、アメリカの規制当局はそれらの提案を却下している。
アストラゼネカとオックスフォード大学、英当局が承認
2021年1月7日、英スコットランドにて。緊急使用前のアストラゼネカ(AstraZeneca)製ワクチン。
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英製薬大手アストラゼネカ(AstraZeneca)は英オックスフォード大学の研究チームと共同でワクチンを開発。アメリカ、イギリス、メキシコ、南アフリカなど複数の国々で第Ⅲ相の治験を実施中。
イギリスの規制当局は12月30日に緊急使用を許可。インドでも1月2日に許可された。
アストラゼネカの研究プログラムに関しては、平均有効率70%として開発成功が発表された11月以降、いくつもの疑問を呈する声があがっている。
とりわけ、最初に半量を投与し、2回目に全量を投与する方法により、90%を超える有効性が確認されたとアストラゼネカは強調したが、もともとの治験計画では想定されていなかった手法であることが明らかになり、厳格な審査が必要とされた。半量投与がなぜ行われたのか、偶然だったのか故意なのかはわかっていない。
当初の治験計画に従って投与した結果によれば、有効率は62%(データのほとんどはこの投与方法に基づくものだ)。効果は期待できるものの、ファイザーやモデルナほどではない。ただし、生産が容易で価格も1ドーズあたり3〜4ドルと安く、それがまた悩ましい問題を生んでいる。
アストラゼネカは2021年に30億ドーズを生産する計画で、この数量はファイザーとモデルナの合計生産量を上回る。
ジョンソン・エンド・ジョンソン、2月に米当局承認へ
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のワクチン開発の取り組みを紹介した動画。
Johnson & Johnson YouTube Official Channel
米製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は1回投与タイプのワクチンを開発中。ただし、ファイザーやモデルナと違い、まだ後期臨床試験の明確な結果を提示できていない。
米当局および同社によれば、この1月中には治験データの提出が完了する模様。現在、1回投与と2回投与の2種類の投与方法について、それぞれ大規模な臨床試験が行われている。有効性が確認されれば、1月後半にも緊急使用許可を申請し、翌2月にも当局の判断がくだされる見込み。
開発に成功すれば、J&Jのワクチンは一般的な冷蔵庫で数カ月の保存が可能なため、流通面でのメリットをアピールできる。2021年の生産量としては(承認前だが)10億ドーズを目指している。
ノババックス、タンパク質ベースのワクチン治験中
ノババックス(Novavax)のウェブサイト。ページ上部で後期臨床試験の参加者を募集している。
Screenshot of Novavax website
米メリーランド州のバイオ医薬品企業ノババックス(Novavax)は2020年末にアメリカとメキシコで3万人規模の臨床試験に着手。遺伝子組換えタンパク質ナノ粒子技術をベースにした2回投与タイプのワクチンで、最短で2021年春にも治験データを得られる見込み。
ほかに多少規模の小さい2つの治験も実施中で、2021年第1四半期中に効果を確認できる見通し。一方はイギリスで1万5000人規模、もう一方は5000人規模で南アフリカで行っている。
2021年中にどの程度の生産量を期待できるかは現時点では不明。ノババックスによれば、2021年の半ばまでに、年間20億ドーズの生産が可能な状態に持ち込めるという。
シノファームは中国で承認、接種開始
新型コロナ感染拡大の初期から、中国のサイエンティストらは多様な候補ワクチンの開発を進めてきた。現在最先端をいくのは、中国国有企業のシノファーム(Sinopharm、中国医薬集団)。
2020年末、中国当局は同社のワクチンを承認。後期臨床試験では有効率79%が確認されたことを明らかにした。詳細は不明。
それとは別に、アラブ首長国連邦(UAE)の保健当局が2020年12月、有効率86%を確認できたと発表している。ただし、UAEはそれ以前の2020年9月段階で、緊急使用を許可している。
シノファームは中国当局の緊急使用許可を受ける以前から市民へのワクチン接種に着手しており、2021年2月までには5000万人への接種完了を目指している。
シノバクも中国のフロントランナー
中国にはもう1社、有望な(ただし限られた)ワクチン開発を進めている企業がある。
北京に本拠を置くシノバク・バイオテク(Sinovac、科興控股生物技術)がそれで、トルコで行われた後期臨床試験では有効率91%が確認されたと発表。ただし、ブラジルの保健当局は有効性を50%以上と報告しており、治験データの詳細はシノバック側の求めに応じて非開示とされたままだ。
ロシアの「スプートニクⅤ」は高い有効性?証拠はナシ
2020年12月23日、ロシアのシェメレチェボ国際空港からアルゼンチン向けに出荷される「スプートニクⅤ」。
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「疑わしいフロントランナー」とされるのがロシアのワクチン。同国のガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センターは2回投与タイプの「スプートニクⅤ(Sputnik V)」を開発中。名称はもちろん、世界で初めて打ち上げに成功した旧ソ連の人工衛星にちなんでつけられたものだ。
ロシア当局によれば、後期臨床試験では有効率90%超が確認されたという。ただし、医学専門誌に効果を示す論文とデータは掲載されておらず、ピアレビュー(当該分野の専門家による評価)は行われていないとみられる。
同プログラムには疑問の目が向けられているものの、2020年12月にはベラルーシとアルゼンチンが緊急使用を許可。次いでロシア国内でも接種が開始された。
キュアバック、ファイザーらと同技術を採用
独キュアバック(Curevac)のmRNAワクチン技術には世界各国から注目が集まる。写真は2020年9月2日、テスラのイーロン・マスクCEOもキュアバックを高く評価。ドイツの要人たちに自らアピール。
Filip Singer-Pool/Getty Images
ドイツのバイオ医薬品企業キュアバック(Curevac)は、モデルナやバイオンテックと同じメッセンジャー(m)RNA技術を採用している。
2020年12月、ラテンアメリカと欧州で3万5000人を対象とする後期臨床試験に着手し、2021年上半期にも治験データを得られる予定。2回投与タイプのワクチン。
キュアバックは大量生産・販売のノウハウを持っていないが、欧州に生産設備のネットワークを有し、2021年に最大3億ドーズの生産が可能で、2022年には6億ドーズまで能力を引き上げるという。
(翻訳・編集:川村力)