ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEOは、リーダーシップに関するアドバイスを予想もしない人物から得たことがある。なかでも、ヘイスティングスの独特なリーダーシップのスタイルがうまくいったのは、結婚カウンセラーのアドバイスによるところが大きいという。
ヘイスティングスは2020年9月10日のCNNの番組の中で、「これまで受けたCEOのためのコーチングの中で最も役立ったのは、結婚カウンセラーのアドバイスだった」と語った。
ビジネスリーダーとしては、ヘイスティングスは型破りなタイプである。2009年にネットフリックスの「カルチャーデック」(同社の人事方針の概要を示したスライド)が公開された際は、採用に対して極端なまでに正直なアプローチをとることと、従業員に対して細かい取り決めがないことが大きな話題となった。
このようにヘイスティングスのリーダーシップは賛否両論あるが、これこそがネットフリックスの飛躍の原動力でもある。DVDレンタルを手掛ける一介のスタートアップから時価総額2200億ドル(本稿執筆時点)を誇る巨大メディア企業へと成長できたのは、このリーダーシップがあればこそだ。
フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOOは、ネットフリックスのカルチャーデックを「シリコンバレーで書かれた中で最も重要な文書」と賞している。
そのため、ヘイスティングスのこの独自のリーダーシップスタイルがどのようにして確立されるに至ったのかは気になるところだ。ヘイスティングスは、2020年9月に発売された『NO RULES(ノー・ルールズ)——世界一「自由」な会社、NETFLIX』の中で、結婚カウンセラーのアドバイスとプライベートの人間関係から得た最大の教訓について語っている。
本稿では、ヘイスティングスが結婚カウンセラーから学んだ、より影響力のあるビジネスリーダーになるための教えを紹介する。
人間関係において徹底的に正直になる
ヘイスティングスによれば、29年間連れ添った妻との関係を修復するために特に役立ったのが「正直さ」だったという。
ヘイスティングスは、徹夜で仕事をしたり、家で夕食を食べられなかったりしたことがたびたびあったのに、妻には「家族が一番大切だ」などと話していた。だが、CNNの番組でヘイスティングスはこう打ち明けている。
「結婚カウンセリングで分かったのは、自分が巧妙に嘘をついていたことだった」
結婚カウンセリングを通して、ヘイスティングスは自分の言動が一致していないことに気づかされた。言動が一致していないことで、嘘つきになっただけでなく、結婚生活にもひびが入ってしまったのだ。
結婚カウンセリングでこのことに気づいたヘイスティングスは、「衝突の原因を探り、お互いの考えていることをはっきりと伝えられるようになったことは本当に大きい」と述べている。
こうして家庭で学んだ手法を、ヘイスティングスは職場にも応用したのだ。
オフィスでも正直であれ
結婚カウンセリングにヒントを得たヘイスティングスは、「正直な」コミュニケーションという考え方をオフィスにも取り入れようと考えた。彼が従業員に対して率直なフィードバックをするだけでなく、自らが模範となって従業員にもフィードバックをするように奨励した。
「従業員からフィードバックを得るのには副次的な効果があった」とヘイスティングスは同書の中で述べ、「これによって会社の業績が飛躍的に向上した」としている。
ネットフリックスでは、問題を避けて通るのではなく、意見が合わない人がいた場合にも直接話をして解決することが奨励されている。従業員を解雇する際には本人だけでなく、何百人に及ぶこともある所属部門全体への一斉メールで解雇の理由が説明される。
解雇について明確に説明したほうが、オフィス内でのゴシップや噂話を防ぐことができる、というのがヘイスティングスの考えだ。解雇の事実をあえて公表することが関係者全員にとってプラスに働くという。
また、従業員がオープンに自分の意見を言うよう促すことで、「表向きはいい顔をしておきながら陰で悪口を言いふらすような裏切りや、社内政治などが減り、素早く動ける組織になった」と書いている。
役員にも「率直さ」を奨励
役員クラスのリーダーは、同僚のフィードバックに対してとりわけ説明責任があるとヘイスティングスは考えている。自分のパフォーマンスについて検証する時間をとらずに、従業員レベルでのフィードバックを奨励するだけでは不十分だというのだ。
会社で管理職や指導的立場にある人は、役職の低い従業員に比べてフィードバックを受けづらい。「これでは組織として機能しないばかりか危険ですらある」とヘイスティングスは主張する。
オフィスのアシスタントがコーヒーの発注でミスをして、そのことを誰も本人に伝えなかったとしても大した問題にはならない。しかし、「CFOが決算報告で大失敗を演じても、権力のある者に対して率直に指摘する者が誰もいなければ、会社は危機的状況に陥る」と書いている。
おそらく社内で誰よりも多くネガティブなフィードバックを受けているのはヘイスティングス自身だ、と同書の共同執筆者であるエリン・メイヤーは言う。ヘイスティングスはそのことをポジティブなサインだと受け止めている。
だからこそ、ヘイスティングスはリーダーたちにも特に時間をとって会議の場で自分へのフィードバックを求めるように奨励しているのだ。また、反対意見には感謝の気持ちを持って接し、勇気を持って発言してくれたことに謝意を伝えることで、反対意見を述べても大丈夫だと従業員を安心させる必要があるとも述べている。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)