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上場企業社長の私はなぜ感染を公表したのか。コロナになって初めてわかったこと

自身が新型コロナウイルスに感染して、症状の変化や感染が判明した後の生活をTwitterに投稿し続けている経営者がいる。PR会社、サニーサイドアップ社長の次原悦子さんだ。

あえて感染を公表し詳細な情報を発信し続けているのは、自身も感染するまではどこか他人事だったという反省と、知りたい情報になかなかアクセスできなかったからだという。

緊急事態宣言を出した菅首相会見

2021年1月7日夕方、菅首相は1都3県に緊急事態宣言を再発令することを公表した。

Kiyoshi Ota/Pool via REUTERS

1月7日。東京都の感染者数が2000人台半ばに達したニュースを聞いても、次原さんは驚かなかった。

「1月2日に陽性が判明してTwitterで公表してから、私の元には直接は知らない人からも、そして複数の友人からも、『実は私も……』という連絡が来ました。数人ではありません。公表されている数字以上にはるかに感染が広まっているという感触を持ちました」

熱が下がらず10日以上入院している人、誰にも言えずホテルで隔離中の人、中には味覚と嗅覚が全くないが怖くて検査に行けず、自宅で自主隔離しているという人までいたという。

陽性。28日以降私と接触した方が濃厚接触者。家族以外ほぼいないのがせめてもの救い。家族全員のPCR検査の手配をして、とにかく家族にうつさないように家中を消毒。関係各所に連絡。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません。#コロナ日記#StayHome

ハチ公前で唾液を採取

次原さんが小さな“異変”に気づいたのは2020年12月29日。最初は食べ物の味が薄いな、ぐらいだった。だが、その時は風邪でも似たような症状になるし、と受け止めていた。

「必ずマスクをつけていたし、会食も避けていました。12月18日と24日にはキットを使った定期的な抗原検査も受けていて陰性だったので、まさか自分が感染しているとは想像できなかった」

だが、味覚の異常は30日になって決定的になった。徐々に嗅覚も効かなくなり、1月1日にはにんにくのチューブを鼻に近づけても全く臭いを感じられなくなった。その間、喉の痛みや発熱などはなかった。

12月31日にPCR検査が受けられるところを探し、予約が取れたのがテレビCMなどでも有名なクリニック。それでも最短で1月2日だった。

PCR検査

指定された渋谷のハチ公前に出向くと、スタッフが2人待っていて、その場で唾液を採取した。

撮影:次原悦子

検査キット

唾液を採取する検査キット。

撮影:次原悦子

指定された渋谷のハチ公前に行くと、「PCR」というロゴが入った赤いキャップをかぶったスタッフがいた。キットを受け取り、車の中で唾液を採取し、その容器をスタッフに渡すと、3時間後にクリニックから「陽性」という連絡が来た。

翌3日にクリニックの医師から電話があり、症状などを説明した。

この医師による電話診断の結果、クリニックから保健所に連絡。保健所の繁忙状況によっては連絡が来るまで数日かかることもあると医師から説明されていたが、次原さんの元に杉並保健所から連絡が来たのは、3日の夜だった。




高齢の家族に感染させたらという不安

保健所からはこう説明されたという。

  • 軽症だから本来ホテル隔離対象者だが、現在都内のホテルは満室なので、空くまで自宅待機。空き次第、搬送されるから準備だけはして待っていてほしい。
  • 感染したのは発症前の14日間、感染させた可能性があるは発症前の2日間。
  • 発症から10日間隔離が必要で、7日を過ぎて3日間無症状が続いたら完治。

感染が確定したことで、次原さんが心配したことは2つだった。

一つは自宅隔離中の家族への感染。次原さんは80代の基礎疾患のある義母と同居している。すぐにトイレ以外は自室から一切出ず、会話もLINEという生活に切り替えたが、それでも洗面所を共有している家族に感染させてしまうのではないかと心配でたまらなかったという。

もう一つは、潜伏期間に他人に感染させていないかという心配だった。保健所からは発症前2日からしか他者への感染リスクはないと説明されたものの、それでも不安は消えなかったという。

「感染したことで、社員にも家族にも申し訳ないと自分を責め、もし誰かを感染させてしまっていたらと不安でたまらなかった。それでも私は味覚・嗅覚に異常を感じたので、検査をしようと思った。でも、もし無症状だったら知らずに多くの人を感染させてしまった可能性もある。

さらに濃厚接触者の保健所への報告には氏名だけでなく、住所や電話番号、生年月日まで聞かれる。そもそも濃厚接触した人の個人情報など今の時代は知らないだろうし、登録するとその人は保健所監視下で2週間の隔離生活を余儀なくされる。そう考えたら、濃厚接触者をどれだけ正直に言う人がいるのだろうか。市中にはおそらく想像以上に感染が広がっているのではと恐怖を感じました」

スタッフと会ったのは1度きり

品川プリンスホテル

東京都の軽症者受け入れ施設の一つ、品川プリンスホテル。次原さんもここに入ることに(撮影は4月の第1波の際)。

撮影:今村拓馬

ホテルに空きができたから、1時間半後に迎えに行く、と保健所から連絡がきたのは1月6日。味覚嗅覚以外に症状がなかった次原さんはこのまま自宅療養を、と交渉したが、50代以上は症状が急変する可能性があること、既往症のある高齢の家族と同居していることから、急遽ホテル隔離となった。

電話からきっかり1時間半後に、白いバンが自宅まで迎えに来た。中には若い女性が1人すでに乗っていた。

施設に持っていったもの

次原さんは経験者からのアドバイスで炭酸水、レトルトのスープ、加湿器などをホテルに持って行った。食事は弁当なので、温かい食べ物はあって良かったという。

撮影:次原悦子

到着した品川プリンスホテルイーストタワーには、同じようなバンが列をなしていた。

一人ずつ時間差で車を降ろされ、入り口のテーブルに置かれた自分の名前入りの封筒と部屋のカードキーを受け取る。ビニール越しに座っていた係員は、ホワイトボードで「お水をお取り下さい」と無言で指示してくれた。

封筒には体温計や血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーター、そして小池都知事名の「お手紙」などが入っていた。

スタッフらしき人と会ったのは、この1回きり。療養者はLAVITAという健康アプリに登録し、滞在中は1日3回健康状態を送信する仕組みだ。

食事の時間になると放送が流れ、ロビーにお弁当を取りに行く。マスク姿の人たちは皆下を向き目も合わせず、黙りこくっている。

ロビーに置かれたペッパーの「たくさん食べて新型コロナウィルスとの戦いに勝ってくださーい」という甲高い声だけが響いている風景は、SF感が漂っていたという。

ペッパーくん

ロビーに立っていたペッパーくん。甲高い声で「頑張ってくださーい」という声が響き渡っていた。

撮影:次原悦子

「みんな自分がどうなるんだろう、という不安もあるだろうし、陽性者同士、感染のリスクもないならお互いの様子など聞きたいこともたくさんあるから、話しかけたかったのですが、とてもそんな雰囲気ではなくて……」

検査に2万払える人がどれほどいるのか

次原さんは17歳で母親の会社を手伝う形でキャリアをスタートさせ、サニーサイドアップを東証一部上場企業にまで成長させた。めったに取材を受けず、表にも出ないことで有名な次原さんが、なぜ今回実名で詳細な病状を公表することにしたのか。

「私もかなり気をつけていたつもりだったのに、感染してしまった。本当にもう誰がかかっていてもおかしくないということを、知ってほしかったのです。そして若い人は自分はかかっても大丈夫だと過信しないでほしい。私も万が一家族に感染させていたら、一生悔やんだと思います」

幸い、家族全員はPCR検査の結果、陰性だった。

次原さんに電話で取材したのは1月7日。それまで味覚嗅覚の異常だけだったのに、その日は朝から熱も上がり始めていた。体調がいつ変わるかわからないという不安。誰もが急変リスクを抱えていることも知ってほしいという。

コロナホテル

食事を取りに行く時、そのゴミを捨てに行く時以外は一切部屋から外出は禁止。差し入れも前日までに申し込まないと受け取れない。

撮影:次原悦子

感染して見えた課題もある。

発熱相談センターの電話がなかなかつながらないと聞いていたので、次原さんは2万円近く払って、クリニックの検査を受けた。家族全員同じ検査を受けてもらった。だが、誰もがその金額を払える訳ではない。

「濃厚接触者だと言われれば別でしょうが、無症状の若い人が自費で検査をするのはハードルが高い。私はこうなって、経営者として、不安な社員がいたら全員PCR検査を受けられるようにしようと思いました。オフィスの感染対策にも予算を取りました。今はとにかく社員の健康と安全が何よりも優先です」

次原さんが感染を公にしたことで、社員が周囲から心ない言葉を投げかけられることもあった。

「それも正しい知識が伝わってないからだと感じました。私自身が感染して、情報が欲しくて検索して探しましたが、感染体験記などは4月5月のものが多くて。もっとアップデートされたリアルな情報の必要性を感じました」

さらに新型コロナウイルス接触確認アプリcocoaの精度にも疑問を呈する。濃厚接触していたはずの家族や社員のアプリの画面はずっと「陽性者との接触は確認されませんでした」のまま。

「このアプリが全く使えないとは言いません。でも絶対ではないのは、残念ながら事実。このアプリを鵜呑みにして、自分は平気だと普通に生活している人もたくさんいます。だから鵜呑みにするべきではないと言いたい。

アプリの実効性だけでなく、職員さんたちは毎日必死で働いていらっしゃいますが、保健所や検査の体制、この期間の対策が現実にはまだまだ追いついていないと痛感しています。

長い間東京五輪の招致活動にもかかわってきた私ですが、今はオリパラよりも何よりもまずコロナ対策をしっかりしないと、と切実に思います」

(文・浜田敬子

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