撮影:鈴木愛子
幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は読者の方からお寄せいただいたご相談にお答えします。「自分の経験・スキルがどこで活かせるか分からない」という方に、適職に出合うためのヒントをお伝えします。
ご相談メッセージはこれだけでしたが、おそらくAさんは次のような状況にあると推察します。
- 転職を考えているけれど、特に希望している業界・職種はない
- 自分の職務経歴の棚卸しをした結果、経験・スキルの強みは自己認識できている
- 自分の強みを活かせる仕事に転職したいと考えているが、該当するのがどんな業界・職種なのか見当がつかない
こうした状況を前提として、どんなアクションを起こしていけばよいか、3つのポイントをお伝えします。
1. 「やりたいこと」を起点にする
私は転職エージェントとして、Aさんのような状況にある方々と多数お会いしてきました。
まずはその経験をお話ししましょう。
「私の強みはどんな仕事で活かせるでしょうか?」と尋ねられた時、私から「◯◯業界の◯◯職、◯◯業界の◯◯職などは、あなたの経験・スキルを応用できるはずです」とお話しすると、こんな答えがよく返ってきます。
「うーん、その仕事には興味がないですね。やりたいと思えません」
つまり、「経験・スキルが活かせる仕事」と「やりたい仕事」は一致しないことが多いのです。転職活動をする方々が最終的に選択するのは、「やりたいこと」です(もちろん「年収」「勤務地」といった条件が優先されるケースもありますが……)。
ですからAさんも、まず「自分は何をやりたいのか」から考えてみてください。
やりたいことがある程度見えてきたら、「それができる業界・職種は何なのか」→「その業界・職種で、自分の強みはどんな形で活かせるのか」——という順番で考えていきましょう。
2. 第三者と壁打ちして、自分の気持ちに気づく
とはいえ、「やりたいこと」って、自分1人ではなかなか見つけづらいものですよね。悶々と考えているだけでは迷路に迷い込んでしまいがちです。
そこで、第三者を相手に「壁打ち」をしてみることをお勧めします。
普段一緒に仕事をしていて、あなたのことをよく理解している、信頼できる上司や同僚。
あるいは、社外の友人・知人などで、あなたが素直な本音を話せる相手。
そうした人に付き合ってもらい、これまでの仕事の経験の中で、熱中したこと・喜びを感じたこと・こだわってきたこと・大切にしてきたこと、また、逆にストレスや苦痛を感じたことなどを、思いつくまま話してみてください。
相手のリアクションはどうあれ、第三者に語っているうちに、自分自身の気持ちが見えてくるものです。
「知らない人が相手のほうが話しやすい」というタイプの人であれば、「キャリア」をテーマとしたワークショップなどに参加するのもいいでしょう。そうした場では、自身のキャリアを見つめ直すだけでなく、異業界・異職種の人たちの仕事の話も聴けるので、新鮮な気づきや発見があると思います。
また、「キャリア」「転職」のプロに相談する手もあります。
最近では、キャリアコーチングやキャリアトレーニングなどのパーソナルサービスもいろいろと登場しています。
一例を挙げると、「マジキャリ」や「ポジウィルキャリア」など。
料金はかかりますが、プロならではの知見と技術で、あなたの潜在能力や潜在願望を引き出してもらえる可能性があります。
一方で、転職エージェントは無料で相談できます。「転職する」と明確に決意していなくても、相談を快く受け入れてくれるでしょう。客観的な視点を持っているので、壁打ちの相手としてふさわしいと言えるでしょう。もちろん、あなたの経験・スキルがどんな業界・職種で活かせるかもアドバイスしてくれますし、具体的な求人を紹介してもらうこともできます。
3. 「できること」を分解し、幅広い情報から共通点を見つける
時間はかかりますが、自分1人で「やりたいこと」「自分の強みが活かせる仕事」を探る方法もあります。
まず、「自分ができること」をなるべく細かく、具体的なシチュエーションまで整理・言語化してみてください。例えば……
「顧客から信頼を得る対応ができる」
↓
「顧客と電話で話した内容は、電話を切った後、必ず文書化してメールで送っている」
「質問を受けたら、すぐに調べて10分以内に返答するようにしている」
「プレゼン資料を作成するのが得意」
↓
「必ず伝えたい重要ポイントは、文字の色やサイズを変えるなどして印象に残るように作成する」
「提出する相手に応じて、表現を変えるなどの工夫をしている」
このように、自身の強みの要素をなるべく細かく分解して、自己認識を深めておきます。
そのうえで、さまざまな業種の企業の求人広告や採用ページなどを見てみましょう。
最近では、採用オウンドメディアを充実させている企業もあります。
そこには仕事の流れや内容が詳細に紹介されていたり、社員の仕事ぶりを紹介する記事が掲載されていたりします。それらを読むことで、「自分との共通点」「自分の経験・スキルが活かせるポイント」を発見できる可能性があります。
このほか、求人サイトのスカウトサービスや転職関連のSNSなどに、匿名で「自分ができること」を公開し、どんなオファーが来るかを待ってみる方法もあるでしょう。
「できること」をより細かく整理し、「やりたいこと」を認識したうえで、幅広く情報を見てみてください。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第44回は、2月1日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。