中央がサントリーBWSの鳥井信宏社長、左がサントリービールの西田英一郎社長、右はサントリースピリッツの神田秀樹社長。
撮影:伊藤有
「(1回目の緊急事態宣言では)酒と飲料では、飲料の方が(落ち込みが)激しかった。我々からすると驚きだ」
1月8日、都内で開かれたサントリーの2021年の事業方針説明の質疑のなかで、1回目の緊急事態宣言下で起こった「アルコール需要」の変化について、サントリーBWSの鳥井信宏社長はこう振り返った。
2020年は、酒類業界としても激動の1年になった。
端的に言えば「個人需要が前年増」の一方「外食などの業務用が激減」した結果、「酒類総市場は前年に対して7%程度減少した」(鳥井社長)。
1度目の緊急事態宣言当初の苦しさは、「前半戦は非常に苦労した」(サントリービール西田英一郎社長)という言葉に滲み出る。
ビールは自社実績、スピリッツは市場全体の推計という違いはあるが、業務用が危機的な打撃を受け、一方個人向けが伸びているという傾向に変化はない。なお、サントリースピリッツは、売り上げベースでは対前年比100%(増減なし)という実績だった。
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コロナの再拡大がどれほど続くのか見通せないなかで、業務用・ギフト用酒類の大幅減という構図は比較的長期トレンドとして続くと考えられる。
ビール製造を担うサントリービール社、チューハイやウイスキーを手がけるサントリースピリッツ社の共通した方策は、「宅飲み需要のさらなる開拓」だ。
具体的には、新商品の投入と、既存商品も含めた店頭販促やテレビCMといったマーケティング施策、またオンライン飲み会を意識してnonpi社コラボによるビールつきfoodbox(2020年11月から開始済み)、LINE施策など幅広い。
ケータリングサービスのnonpi社と連携した、オンライン飲み会セットもプロモーションとして開始。2020年11月から提供をはじめている。これも「宅飲み」の掘り起こしの1つ。
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「ノンアル人気」に代表される健康志向がトレンドに
中央が新商品。同じレモンサワー商品にみえるが、左は健康志向トレンドを反映した「ノンアル」になっている。
撮影:伊藤有
「宅飲み」になると個人あたりの酒の消費が増えそうな印象があるが、サントリーの2020年の販売状況の振り返りからは、一概にそうとも言えない状況も見えてくる。
「個人向けが伸びている」のは事実だが、あわせて「健康志向」というトレンドもさらに強まっている風潮が見て取れる。
サントリースピリッツの方針説明資料より。コロナの流行がはじまって以降、ノンアルサワーなどのノンアルRTD(Ready to Drinkの略)の前年同月比2桁増が続いている。
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インテージSCIの調査によると、20代〜70代の全年齢でノンアルRTDの購入率、購入量ともに増加傾向が続く。購入量に関しては20代と60代が前年比20%超の増加。
撮影:伊藤有
たとえば、ノンアルコール飲料に関しては、ノンアルビール「オールフリー」シリーズは2020年に前年比108%、過去最高出荷量となった。
インテージSCIの調査によると、ノンアル飲料購入層の変化に関しては、20代〜70代まで、全年齢で前年比を上回る「購入率」と「購入量」になっている。
外を出歩く必要のない宅飲みが増えても、「酔わない飲み」を選ぶ人が増えているということになる。
「健康志向」というキーワードは新製品にも反映されている。
ビールに関しては、2021年4月中旬を目処に「糖質0」をうたうスタンダードビール商品(サントリービール)を発売するほか、ノンアルのレモンサワー「のんある晩酌 レモンサワー」(サントリースピリッツ)も2020年3月2日から発売。業務用向けにもノンアルビール「オールフリー」の樽詰商品の強化も進めていくとする。
4月中旬には満を辞して、「糖質0」をうたうスタンダードビール商品も投入する。
撮影:伊藤有
「個人向け・高、業務用・低」のトレンドは2021年もそう簡単には変わらないとしながらも、サントリー各社は前年比を上回る強気な販売計画を打ち出す。
サントリービールでは、ビール総市場の出荷量前年比(97%)を上回る「事業計101%」、サントリースピリッツでは、売り上げ金額ベースで対前年比110%を目標とする方針を示した。
(文・伊藤有)