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「政府・企業・銀行は、口だけの目標ではない気候変動対策をとってください。
ブンアン2に融資する全ての企業・銀行へ、石炭火力発電への投資を今すぐやめてください」
2021年1月5日、環境活動団体「Fridays For Future Japan」がInstagram(@fridaysforfuturejapan)に投稿した動画が、10万回以上再生されている。
動画では、「私たちの未来に石炭はいらない」として、日本、韓国、ベトナムの若者が、ベトナムで計画されている石炭火力発電所「ブンアン2」に言及。出資している三菱商事や協調融資を決定したとされる三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行のメガバンク3行、国際協力銀行、韓国輸出入銀行などに、支援の中止を呼びかけている。
#石炭火力発電を輸出するって本当ですか?サイトより
動画投稿に加え、10〜20代の9人が、「ブンアン2」へ出資・融資を決めている三菱商事などに、公開質問状を送付。気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」との整合性などについて質問している。
出典:Fridays For Future Japanサイトより
世界の温室効果ガスの7割以上が二酸化炭素によるもので、二酸化炭素の排出の9割は、化石燃料に起因している。石炭は、化石燃料の中でも石油やLNGに比べて二酸化炭素の排出量が多いため、気候変動への対応として、脱炭素化は世界的な重要課題となっている。
ダイベストメントは5年で200倍以上に
冒頭の動画では、「ブンアン2」への支援中止に加え、「これらの銀行・企業へ投資されている方々へ、その投資を中止しませんか」と、“ダイベストメント(Divestment)”を呼びかけている。
温室効果ガスの排出量の多い企業から投資を引き揚げるダイベストメントは近年、世界で急速に広がっている。2015年気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」の採択によって、その動きは加速した。化石燃料関連資産に関して、何らかの形でダイベストメントにコミットした投資家・組織は、2014年から2019年にかけて倍増。ダイベストメントの額は500億ドルから11兆ドルへと、220倍も増加した。
一方で、ドイツのNGOなどが実施した調査によると、2017年1月ー2019年9月にかけての石炭火力への融資額の世界ランキングでは、1位がみずほフィナンシャルグループ(FG)(168億ドル)、2位が三菱UFJFG(146億ドル)、3位が三井住友FG(79億ドル)と、日本のメガバンクがトップ3を占めていた。
金融機関で進む脱炭素化への急速な流れ
世界最大の資産運用会社、米ブラックロックのラリー・フィンクCEO。
REUTERS/Shannon Stapleton
2020年に入ると、世界最大の資産運用会社である米ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、年次書簡で、
「気候変動に関するリスク認識は急速に変化しており、今、金融の仕組みは根本からの見直しを余儀なくされている」「低炭素社会への移行は政府のリーダーシップのもと進められるべきだが、同時に、企業や投資家にも果たすべき重要な役割がある」
と強調。2020年半ばまでに売り上げの25%以上を石炭から得ている会社への投資をやめると表明したほか、ポートフォリオ構成やリスク管理においてサステナビリティを必須要素とすることも決定した。運用資産が総額7兆ドルに及ぶブラックロックの明確な方針転換は、気候危機、そして脱炭素化への企業の舵切りを、決定的なものにした。
2020年末には世界の資産運用大手30社が、2050年までに、運用先の温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すと発表。投資家グループを設立し、企業に脱炭素を働きかけるとしている。既に、年金基金や保険会社の間では、同様の動きが先行している。
ようやく始まった日本の企業・政府の脱炭素化
国際的なダイベストメントの流れに沿って、日本の金融機関も脱炭素化の具体的な指標を公表し始めている。
撮影:今村拓馬
脱炭素化への対応が遅れていた日本政府・金融機関も、国際的な批判や世界のダイベストメントの流れを背景に、2020年に本格的な方針転換に踏み切った。
2020年4月に、みずほFGと三井住友FGは、新規の石炭火力発電に投融資しないことを決定。プロジェクトファイナンスの融資残高をみずほFGは2050年度までに、三井住友FGは2040年度をめどに、ゼロにする方針を発表した。みずほFGは2020年6月の株主総会で担当役員が、2040年度には「概ねゼロにできる」との見通しを示している。三菱UFJFGは、2019年5月に新規の石炭火力発電へのファイナンスは原則停止するとしていたが、2020年10月には、さらに融資残高を2040年度までにゼロにする方針を決定した。
2020年7月、ついに日本政府は、石炭火力発電の輸出は「支援しないことを原則とする」とする方針を打ち出した。しかし、輸出に関する政策方針では、日本が「相手国のエネルギーを取り巻く状況・課題や脱炭素化に向けた方針を知悉」していれば、支援が可能となる解釈の余地を残しているほか、既存の案件は継続が可能だ。
今回の動画で言及された「ブンアン2」は、日本とベトナム両政府の経済協力が既に確認されている国策案件として進んでいるが、反対圧力は強まっている。2020年10月には、欧州を中心とする21の投資家連合が、三菱商事などに「ブンアン2」からの撤退を要求した。参画予定だった英スタンダード・チャータード銀行は、既に撤退を決定している。
気候危機への対応なくして生き残れず
Z世代は環境問題に高い関心を持ち、さまざまなムーブメントを起こしている。2019年9月に世界中で展開された気候危機デモも若い世代が中心だった。
REUTERS/Shannon Stapleton
1990年代後半から2000年代にかけて生まれた「ジェネレーションZ(Z世代)」の9割は、企業は環境・社会問題に取り組むべきだとも考えている。デジタルネイティブゆえに企業やブランドについての調査力が優れていることが指摘されている。若い世代は、気候危機においても、個人の消費に直接的にかかわる企業の対応に限らず、脱炭素化に向けたダイベストメントの動きもしっかり見極めている。
Fridays For Future Japanは冒頭の動画投稿に際して、こう呼びかけている。
この問題をおかしいと思ったみなさんにもできることがあります。
(1)この事実を周りの人へ拡散し、より多くの方へ現状を知らせる
(2)化石燃料や原子力に融資している銀行からクリーンな銀行へ口座を移す
(3)化石燃料や原子力に融資している銀行/企業への投資をやめる
私たちと一緒に声を上げてください。
気候危機への対応なくして、企業は生き残れない —— 。そんな時代は既に始まっている。
※記事は個人の見解で、所属組織のものではありません。
(文・大倉瑶子)
大倉瑶子:米系国際NGOのMercy Corpsで、官民学の洪水防災プロジェクト(Zurich Flood Resilience Alliance)のアジア統括。職員6000人のうち唯一の日本人として、防災や気候変動の問題に取り組む。慶應義塾大学法学部卒業、テレビ朝日報道局に勤務。東日本大震災の取材を通して、防災分野に興味を持ち、ハーバード大学大学院で公共政策修士号取得。UNICEFネパール事務所、マサチューセッツ工科大学(MIT)のUrban Risk Lab、ミャンマーの防災専門NGOを経て、現職。インドネシア・ジャカルタ在住。