「息子はわたしの全てでした」新型コロナウイルスに命を奪われた21歳の若者たち、家族が明かした悲しみ

コーディ・リスター、ブライアント・ボアイエ・キリオン

左からコーディ・リスターさんとブライアント・ ボアイエ・キリオンさん。新型コロナウイルス感染症で、2人は21歳で亡くなった。

Courtesy of Lea Ann Lyster and Sarah Boyer

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症化や死亡のリスクは高齢者が最も高いものの、ウイルスは多くの若いアメリカ人の命も奪っている。
  • 2020年3月1日~7月31日の25~44歳のアメリカ人の死亡者数は、例年に比べて約1万2000人多かった。このうち約40%の直接の死因はCOVID-19だった。
  • 21歳の息子をCOVID-19で亡くした2つの家族は、彼らがいかに急激に重症化していったかを語った。

アナ・ボアイエ・キリオンさんは、彼女の息子ブライアントさん(21)が息を引き取った時、息子を抱きしめていた。

2020年12月19日の深夜、イリノイ州シャンペーンの自宅でブライアントさんは家族を起こした。喘息のコントロールができず、病院に連れて行ってほしいと頼んだのだ。だが、家を出る前にブライアントさんは心停止に陥った。

「息子はわたしに腕を回し、わたしの腕の中で亡くなったんです」とアナさんはBusiness Insiderに語った。

ブライアントさんは慢性喘息で入院したこともあったが、新型コロナウイルスが彼の状態を悪化させた。アナさんは911に通報した後、心肺蘇生(CPR)を始め、ブライアントさんはなんとか病院へと搬送された。しかし、12月21日に搬送先の病院で死亡が確認された。

「あの子はこれまで必ず回復してこられました。でも、今回は違ったんです」とブライアントさんのおばのサラ・ボアイエさんは語った。

ブライアントさん

ブライアント・ボアイエ・キリオンさん(左上)。自身の3人のきょうだいと姪っ子と。

Courtesy of Sarah Boyer

もちろん、ブライアントさんはCOVID-19で亡くなった唯一の若いアメリカ人ではない。

医学誌『Journal of the American Medical Association(JAMA)』に掲載された12月のある研究論文では、3~7月の25~44歳のアメリカ人の超過死亡の約40%の死因はCOVID-19だったことが分かった。5カ月の間にこの年齢層の人々が過去のデータをもとにした予想より約1万2000人多く死亡したのだ。このうち4535人の直接の死因はCOVID-19だった。

直近の数カ月だけでも、カリフォルニア州ノースリッジ在住の6人の子を持つ30歳の母親がCOVID-19で亡くなっていて、ミシガン州デトロイト在住の33歳の母親は息子を出産した数日後、一度も子どもを抱くことなく死亡した28歳の父親は84日間を病院で過ごした後に亡くなり、34歳の母親は病院で娘を出産した際に新型コロナウイルスに感染し、その後死亡した。

こうした若者たちの大半は、ブライアントさんが持っていたような持病を持っていなかった。若いからといって、ウイルスの最悪の影響を受ける恐れはないとは限らないことが、徐々に明らかになってきている。

「彼を引きずり下ろした」

コーディ・リスター

高校の野球チームでは、ファーストを守っていたコーディ・リスターさん。

Courtesy of Lea Ann Lyster

コロラド大学アンシュッツ・メディカルキャンパスで警察官として働いているケビン・リスターさんがCOVID-19の検査で陽性となった時、コロラド・メサ大学に通う息子のコーディさんは春休みでコロラド州オーロラにある実家に帰省中だった。ケビンさんは家庭内隔離をしたものの、まもなくコーディさんは咳をし始め、40度の熱が出た。

コーディさんは3月30日、病院へ搬送された。彼の両親ときょうだいが生きているコーディさんを直接見たのはこれが最後だった。

「息子は全くもって健康な21歳の大学生アスリートでした。彼は健康を維持するためにあらゆることをしていましたが、(COVID-19が)彼を引きずり下ろしたんです」とケビンさんは語った。

野球をしていたコーディさんは4月8日、病院の集中治療室(ICU)で人工呼吸器につながれて死亡した。両親は看護師がつないでくれたフェイスブックのライブストリームを通じて、息子と最後のコミュニケーションを取ったという。

「コーディを見て、わたしたちが彼のことを思っていることを伝えました」とケビンさんは語った。

「数時間以内に彼が死んでしまうなんて、思ってもみませんでした」

その時点で、コーディさんは医療行為によって昏睡状態に置かれていた。

「息子にはわたしたちの声は聞こえていないと言われました。でも、わたしはそうは思いません。息子にはわたしたちの言ったことが全て聞こえていたと思います」

若いアメリカ人が命を落としている

米疾病予防管理センター(CDC)によると、新型コロナウイルスによって65歳以上が死亡する確率は20~29歳の90倍だという。2020年5~8月までのアメリカの新型コロナウイルスによる死亡者の78%は65歳以上だった。

だが、この"一般常識"はもう1つの真実を隠している —— COVID-19はかつてないほど多くの若いアメリカ人を入院させ、命を奪っているのだ。

「わたしの息子がその証しだ」とケビン・リスターさんは言う。

リスター家

コロラド国定公園を訪れたリスター家の人々。左からケビンさん、コーディさん、母親のリー・アンさん、妹のシエラさん。

Courtesy of Lea Ann Lyster

9月のある研究論文では、4~6月だけで18~34歳のアメリカ人3300人以上がCOVID-19で入院し、このうち21%が集中治療を要したことが分かった。約3%が死亡した。

12月の研究論文の筆頭著者で、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の医師でもあるジェレミー・ファウスト(Jeremy Faust)氏は、7月だけで25~44歳が1万6000人以上死亡したと指摘している。これはここ20年の7月の死亡者数の平均よりも約5000人多い。1週間の死亡率は、過去5年の7月の平均より約50%高かった

ファウスト氏によると、過去のデータは2020年1年間で25~44歳のアメリカ人約15万4000人が死ぬだろうと示していたという。だが、実際には同氏のチームが計算した死亡者数を上回る16万5000人の死亡が12月上旬までに報告された。2020年はまだ数週間残っているにもかかわらず、だ。

これらを踏まえ、ファウスト氏は「低く見積もって17万人。17万5000人が非常に妥当な数に見える」との考えを示した。

死亡した若者の半数以上は有色人種だったと同氏は言う。

救急車と霊柩車

病院に到着した救急車と病院を離れる霊柩車(2020年8月1日、フロリダ州マイアミ)。

Maria Alejandra Cardona/File Photo via Reuters

1週間あたりの死亡者数の比較からも、若者の死亡者数が大きく増加していることが分かる。2019年は1週間あたり2500~2900人の若年成人が死亡していた。

「2020年は3月14日以降、1週間の平均死亡者数が3000人を下回ることはなかった。これは大変なことだ」とファウスト氏は指摘した。

同氏は「死亡者数の増加は通常、より若く、より健康な人々までは浸透しないものだ」とした上で、「これは非常にまれなことだ」と語った。

ファウスト氏のデータは、若い人々にとってCOVID-19は比較的無害だとする社会通念の土台を壊すものだ。

「わたしたちはそのメッセージをひっくり返しはしないが、修正している」とファウスト氏は言う。同氏は、若い人々も自分たちが危険にさらされていと知らされる必要があり、最前線で働くエッセンシャルワーカーと呼ばれる人々をもっときちんと守る必要があると考えている。

ブライアントさんが死亡したのは、最も死亡者数の多い月だった

アメリカでは、2020年12月は新型コロナウイルスのパンデミックによる死亡者数がこれまでで最も多い月だった。6万5000人以上がCOVID-19で命を落とした。11月のサンクスギビング(感謝祭)や12月のクリスマスも手伝って、感染者数と入院患者数も急増した。12月1日から31日の間に、入院患者数は約9万9000人から12万5000人以上に増えた。これは27%の増加だ。同じく1日から31日で、約600万人の新規感染が確認された

ブライアントさん

おばのサラ・ボアイエさんとアイスクリームを食べるブライアント・ボアイエ・キリオンさん。

Courtesy of Sarah Boyer.

ブライアント・ボアイエ・キリオンさんのおばにあたるサラ・ボアイエさんは、パンデミックが悪化する中、あまりにも多くのアメリカ人が旅行や人との集まりを続けているのを目の当たりにし、苛立たしいと語った。

「意にも介していなさそうな人を見るのは辛いです。わたしたちは深い悲しみを経験しているのに」

ブライアントさんは、カール・ファウンデーション病院(この病院はブライアントさんが生まれた場所でもある)で警備員として働いていたため、ワクチンの順番は早く回ってくるはずだった。ブライアントさんが亡くなった翌日の12月22日には1回目のワクチン接種が予定されていたという。

「自分が発症しなければ、気にしないのかもしれません。でも、ウイルスを撃退できない誰かにうつすかもしれないんです。わたしの息子はその1人でした」と母親のアナ・ボアイエ・キリオンさんは語った。

アナさんは、ブライアントさんが職場で新型コロナウイルスに感染したと考えていて、病院がもっと定期的に従業員の検査をしてくれていたらと感じているという。ブライアントさんは自分の仕事にリスクがあると分かっていたものの、「常に堂々とした態度で、自分は怖がっていないとわたしに見せようとしていました」とアナさんは話している。

ブライアントさんは仕事をとても大事にしていて、4月の自分の21歳の誕生日も12時間シフトで働いていたという。ブライアントさんは常に一生懸命だったとアナさんは振り返った。父親のジョン・キリオンさんが2015年に職場で事故に遭って以来、ブライアントさんは妹のライリーさんの面倒を見るようになったという。

ブライアントさんの腕のタトゥーには「妹の庇護者」とある。

ブライアントさん

妹のライリーさんとブライアント・ボアイエ・キリオンさん。

Courtesy of Sarah Boyer

ブライアントさんの家族は、クリスマスの翌日に彼を埋葬した。

ブライアントさんが亡くなった数日後、アナさんは目を閉じないように努めていると語った。ブライアントさんが自分の腕の中で死んでいくのが見えるからだという。

「息子はわたしの全てでした」

COVID-19がアメリカの1番の死因に

最新のある分析によると、アメリカでは11月1日以降、新型コロナウイルスが心疾患やがんを上回り、1番の死因になっているという。1月7日には4000人以上がCOVID-19で死亡し、また記録を更新した。

コーディさん

飼い犬のジャクソンとコーディ・リスターさん。

Courtesy of Lea Ann Lyster

ただ、ケビン・リスターさんは息子の友人たちが自分たちは無敵じゃないと理解しているかどうか分からないと語った。12月には、コーディさんの友人の1人が大晦日にパーティーをやりたがっていると聞いたという。

「『今回のことから何も学ばなかったのか?』と思いました」

パンデミックが始まって以来、アメリカでは37万6000人以上がCOVID-19で命を落としていて、実際の数字は恐らくこれよりさらに多いと考えられている。ある予測では、4月1日までにアメリカでさらに20万人以上が新型コロナウイルスで死亡する可能性があるという。

コーディさんの死から9カ月以上が経つものの、両親と妹のシエラさんはコーディさんの不在をいまだ受け入れられずにいる。

「息子がこの家に活気を与えてくれていたんです」とケビンさんは語った。

コーディさんはシエラさんが所属するソフトボールチームのコーチもしていて、大学では日曜日になると動物保護団体Roice-Hurst Humane Societyで犬の散歩を手伝っていたという。

コーディさん

妹のシエラさんとコーディ・リスターさん。

Courtesy of Lea Ann Lyster

「Roice-Hurstからお悔やみのカードをもらうまで、わたしたちは息子がそんなことをしているとは知りませんでした」とケビンさんは話し、「全く認識されなくても、息子はこの世界をより良い場所にしようと努力していたんです」と付け加えた。

ホリデーシーズンは、リスター家の人々の悲しみを募らせた。

コーディさんはクリスマスの"しきたり"にうるさかった。クリスマスイブには、コーディさんとシエラさんがいつも家族の最初のプレゼントを交換していたと母親のリー・アンさんは語った。コーディさんは自分へのプレゼントが何かをすぐに当ててしまうので、家族はなんとかしてコーディさんを驚かせようとしていたという。

「あの子はクリスマスに魔法をかけてくれていました」とリー・アンさんは語った。

「大切な人と過ごす時間を当たり前だと思わないでください」

※一部表現を改めました(2021年1月14日8:00)。

[原文:COVID-19 has killed thousands of young Americans. This is not just a tragedy for the elderly.

(翻訳、編集:山口佳美)

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