メディアが報じないアメリカ労働市場の「悲惨な現実」。最新統計が教えてくれること

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米ケンタッキー州、失業給付金や仕事を求めてキャリアセンターに行列をなす市民たち(2020年6月撮影)。

REUTERS/Bryan Woolston

アメリカ労働省が1月8日に発表した2020年12月の雇用統計は、非農業部門の雇用者数(※)が前月に比べて14万人減少した。8カ月ぶりの前月比減だ(以下、雇用者数は前月比)。

非農業部門の雇用者数……毎月第1金曜日(米国時間)に労働省が発表。農業部門を除いた就業者の数を示し、その前月比の増減はアメリカの雇用情勢を表す指標として注目される。

若干の増加を見込んでいた市場予想の中心(0.5万人増)を裏切ったものの、発表済みの10月分が61.0万人増から65.4万人増へ、同じく11月分が24.5万人増から33.6万人増へと、2カ月分の合計が58.1万人増に上方修正されたため、過去3カ月の雇用「量」という意味では、大きなダメージはない印象だった。

だが、新型コロナの感染拡大から1年が過ぎようとしているこの時期に、まだ雇用が減るという事実は、あまりに重いと言わざるを得ない【図表1】。

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【図表1】非農業部門雇用者数の変化。12月雇用統計では8カ月ぶりに前月比減(右端)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

平均時給が0.8%増へと急伸(前月は0.3%増)したのにも注目だ。時給の伸び幅がわずか1カ月で3倍弱というのは、どう考えても普通ではない。

これは、外食産業などを中心として、相対的に賃金の低い労働者が市場から退出したことが影響していると考えるべきだろう。時給の伸びに勢いが出てきたとかのハッピーなニュースではまったくない。

また、失業率は6.7%で横ばい、市場予想の6.8%をわずかに上回ったが、一方で労働参加率が61.5%と史上最低水準で推移していることを見落としてはならない。

つまり、就業をあきらめて労働市場から退場する人が増えているため、失業率こそ上昇していない(過去4週間以内に求職活動をしていなければ、失業者に数えられない)ものの、労働市場の状況が改善されたわけではないのだ。

「真の失業率」はもっと高い

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12月雇用統計に対する新型コロナの影響についての記述(一部スクリーンショット)。

Screenshot of Monthly Employment Situation news release, December 2020

今回発表された12月の雇用統計は、本文内のボックス(囲み)欄に「Coronavirus (COVID-19) Impact on December 2020 Establishment and Household Survey Data」と題した、同統計に対する新型コロナの影響に関する記述がある。

失業率などを計算する際の元データとなる「家計調査」は、2020年3月以降、新型コロナによる一時的な閉店や営業縮小を受けて休職している就業者を「一時的なレイオフに基づく失業者」としてカウントしてきた。

ところが、コロナ感染拡大の初期においては、一時的なレイオフに基づく失業者が「働いていないが、就業している者」に誤って分類されているケースが多かったという。言い換えれば、実態よりも就業者が多く、失業者が少なくカウントされていたことになる。公表されていた失業率の数字は実際より低かったわけだ。

2020年3~11月の間に上記のような誤分類は少なくなっていったようだが、公表値の「歪(ゆが)み」は放置されたままだったことに変わりはない。この歪みを是正した場合の12月失業率は、公表値より0.6%ポイントも高い7.3%になるとの分析も(ボックス欄に)記載されている。

雇用統計はもはや、ヘッドライン(見出し)に流れる雇用者数の変化幅や失業率、平均時給だけを見ていれば良いものではなくなったと言えるだろう。問題はもっと根深いと筆者は考える。

「外食産業」への甚大なダメージ

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アメリカ各地の雇用状況は深刻だ。とりわけ外食産業へのダメージは大きい(写真は2020年5月撮影)。

REUTERS/Seth Herald

12月の雇用統計にあえて明るい変化を見出そうとするなら、数字の悪化はあくまで「特定業種に引きずられた結果」だったと理解することは、不可能ではない。

民間部門全体の雇用者数を見ると、前月比9.5万人減と2020年4月以来の減少となった。前月は41.7万人増だったので、文字通り「様変わり」と言うべきだろう。

ただ、その中身をひも解いていくと、業種ごとのコントラストが目を引く。

まず、財生産部門全体では6.7万人増から9.3万人増へと、増勢が強まっている。建設業は2.9万人増から5.1万人増に増え、製造業も3.5万人増から3.8万人へと微増を維持した。

一方、サービス部門全体に注目すると、前月の35.0万人増から18.8万人増へと急減している。小売業こそ2.1万人減から12.1万人増へと年末商戦に後押しされて急増したものの、余暇・娯楽業は7.5万人増から49.8万人減へと一気に落ち込み、これがサービス部門全体、もっと言えば12月の雇用統計全体を方向づけたことがわかる。

余暇・娯楽業をさらに細かく見てみると、宿泊・外食が39.6万人の大幅減であり、さらにそのほぼすべて(37.2万人)は外食における雇用者減だった。

結局、12月雇用統計のヘッドラインの弱さは、外食産業に起因するものと言って差し支えないだろう。日本でも外食産業への負担集中が耳目を集めているが、アメリカでも同様のことが起きているわけだ。

2020年の雇用喪失はやはり「過去最大」

2020年通年の雇用喪失は937.4万人となり、予想された通り過去最悪の結果となった。

【図表2】は、「景気の山」から何カ月後にどれくらいの雇用増(あるいは雇用減)が起きたのかという視点に注目して、過去の景気後退局面を比べたグラフだ。

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【図表2】非農業部門雇用者数の「景気の山」からの変化幅。濃いブルーの線がリーマン・ショックを含む2000年代後半の景気後退局面。コロナショックは経過期間が短く、左下に薄いブルーの線で示されている。

出所:Datastream資料より筆者作成

コロナショック前の「景気の山」は2020年2月なので、その後3〜12月の10カ月間の雇用減が、今回の景気後退で失われた雇用となる。その数は983.9万人に達し、2007年12月を「山」とするリーマンショック(2008年9月)を伴う景気後退局面で記録した869.4万人(最悪期は2010年2月)を大きく上回る。

当時の景気後退は、「山」の2007年12月から、最悪期である2010年2月まで、26カ月という期間があった。今回はその半分以下の10カ月間でさらに多くの雇用が失われており、実体経済が被ったショックは当時の比ではない。

こうした事実については、過去の寄稿『コロナ失業「残り1000万人」 雇用回復はいつまでかかるのか。長期失業者の増加で失われるアメリカの“地力”』や『米次期財務長官が重視する「9つの雇用指標」。ワクチン接種開始も労働市場の深刻さに変化なし』で詳しく書いたので、ぜひ参照されたい。

なお、前回の景気後退で失われた雇用者数869.4万人が完全に復元されたのは2014年5月、「景気の山」から77カ月目のことだった。今回は、10カ月経過しても依然として983.9万人の雇用が失われたままであり、これが復元されるのにいったいどれほどの時間が必要になるのかと考えると、暗澹(あんたん)たる気持ちになる。

完全に「ねじれて」しまった金融市場と実体経済

雇用統計については、やはり中長期的に考えて、労働参加率の低下やその遠因となっている長期失業者(=過去27週間以上にわたって職探しをしている失業者)割合の上昇に着目すべきだろう。

12月の長期失業者割合は、前月の36.6%から36.8%へと0.2%ポイント上昇しており、1年前(2019年12月末)の20.1%と比べると、実に15%ポイント以上も上昇している。

本稿でここまで解説したように、統計上の分類の誤りや労働参加率の低下のせいで、失業率は一見して改善傾向にあるものの、その傍らで長期失業者割合が上昇傾向にあることは忘れてはならない【図表3】。

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【図表3】長期失業者の割合と失業率の推移。長期失業者の定義は「失業期間が27週以上に達した者」。

出所:Macrobond資料より筆者作成

失業期間が長期化すれば労働意欲は低下し、求職活動自体を投げ出してしまう層が出てくる(労働参加率の低下はその結果だ)ことは、過去の寄稿でもとくに強調してきたところだ。

そうやってマクロ経済に対する労働投入量が減ることにより、潜在成長率は低下し、その経済に相応しい政策金利も低下することになる。

加えて指摘しておくなら、不況による失業者の増加もさることながら、コロナ禍で物理的な求職活動がさえぎられることにより、本来は長期的に失業しなくていいのにやむを得ず失業状態を強いられているケースも多々あるのではないか。

金融市場の目線はバイデン新政権の追加刺激策に注がれており、ここまで述べてきたような雇用の悲惨な実情はほとんど材料視されず、株価や金利だけが上がり始めている。

いや、もっと言えば「雇用が悲惨だから、財政・金融緩和は続く、だから株は買い」という解釈がまかり通っているようにすら見える

雇用は遅行指標なので、金融市場があえてその改善を待つ必要はないのだが、目の前ばかり見てその裏で起きている実体経済の悪化から目を背けることは慢心を招く。

実体経済は金融市場ほどジャンプして改善するものではない。必然的に、金融政策運営も遅々たる歩みが前提になることには留意したい。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文:唐鎌大輔


唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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