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「総書記」就任の金正恩氏は核・ミサイル実験を再開するのか。党大会「9時間演説」が示す北朝鮮の行く先

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北朝鮮の首都・平壌で開催された朝鮮労働党の第8回党大会で演説する金正恩総書記(1月10日より就任)。コロナ感染拡大後には「重篤説」も流れたが、写真で見る限り健康そうだ。

North Korea's Central News Agency(KCNA) via REUTERS

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長(1月10日から総書記に就任、後述)は、1月5日〜12日に開いた第8回党大会で「最大の主敵であるアメリカを制圧、屈服させる」と発言し、対決姿勢を鮮明にした。

核・ミサイル戦力を増強する従来の路線に後戻りしたように見えるが、その本音は、バイデン次期大統領を対話の場に引き出すための「瀬戸際外交」と見るべきだ。

金正恩氏は同大会で中国・ロシアとの連携も強調。米朝対話の再開に向け、中ロ朝の3国「枢軸」を利用しようとする思惑もちらつく。

金正恩氏の「戦力増強」発言が意味するもの

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2021年1月上旬に開催された朝鮮労働党第8回党大会の様子。

North Korea's Central News Agency(KCNA) via REUTERS

金正恩氏は党大会の活動報告で計9時間にもおよぶ演説を行い、アメリカとの対決姿勢を強調。

アメリカ本土を射程に入れる固体燃料の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、原子力潜水艦、極超音速弾頭、多弾頭化、戦術核、偵察衛星などの開発を挙げ、核・ミサイル戦力増強を打ち出した。

この点だけを見ると、2018年4月の党中央委員会総会で確認された、

  1. アメリカとの直接対話は、核・長距離ミサイルと経済改革の「並進」戦略の成果
  2. 金正日・前総書記が1995年以来進めてきた「先軍」政治の終了宣言
  3. 経済建設に専念する路線への転換

というスタンスをリセットしたようにも感じられる。

とくに、経済建設に専念する路線への転換は、2018年5月のシンガポールでの歴史的な米朝首脳会談を前にした目玉政策だったにもかかわらず、だ。

バイデン次期大統領が、トランプ流の「トップ会談」に批判的な姿勢を示していることを踏まえると、今回金正恩氏が打ち出した戦力増強の方針に、再び軍事路線に回帰するかのような「印象を生み出す」意味合いがあったことは否めない。

米朝対話を進める北朝鮮の政策に変化なし

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2011年9月、平壌の軍事パレードに出席した金正日氏(右)と金正恩氏(左)。2021年1月、金正恩氏は父の肩書きである「総書記」を継承した。

North Korea's Central News Agency(KCNA) via REUTERS

党大会で金正恩氏は、父親である故・金正日氏の肩書きだった「総書記」に就任した。

それは、父親も成し遂げなかった米朝首脳会談を実現し、「総合的国力と地位を最上の境地に高めた」(党大会決議)ことを誇示するためだ。

つまりは金正恩氏の自信の表れであり、同時に、37歳と若くいまだ十分ではない自らの権威を強化する狙いもあるだろう。

北朝鮮の対外政策のプライオリティは、何より対米関係にある。

朝鮮戦争の休戦協定(1953年7月)を「平和協定」に変え、アメリカから体制保証を得て、最終的には米朝関係正常化を実現すること。これが最終目標だ。

今回の党大会において、金正恩氏がアメリカを厳しく非難したのは事実としても、バイデン次期大統領を名指しで批判したわけではない。

活動報告では「新たな米朝関係樹立のカギは、アメリカ側の敵視政策の撤回にある」と強調したように、バイデン氏に敵視政策を放棄させ、首脳会談を含む対話の場に引き出そうとする北朝鮮の政策に変化はない。

金正恩氏が2018年の米朝首脳会談を実現させたのは、「国家核戦力の完成を実現し、北朝鮮を世界的な軍事大国に変えた」(党大会決議)からであり、核・ミサイル戦力の増強はあくまで対話・交渉能力を高めるためのツールと言っていいだろう。

米民主党内に「北朝鮮の核保有を認めよ」との意見

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1月20日の就任式で宣誓し、第46代アメリカ大統領となるバイデン氏。対北朝鮮政策に注目が集まる。

REUTERS/Kevin Lamarque

一方、バイデン次期大統領の「北朝鮮観」はどんなものか。

バイデン氏は大統領選挙中に「私は中国を国際ルールに従わせる。トランプは北朝鮮の悪党や、中・ロの首脳らを受け入れた」(2020年10月22日、候補者討論会)と、厳しい見方を示した。

トランプ外交をやり玉に挙げるための選挙中の発言とはいえ、中・ロ・朝を同じカテゴリーに入れて論じるのは、バイデン氏も「新冷戦思考」から抜け出ていないことをうかがわせる。

ひとつ前のオバマ政権は、北朝鮮に圧力をかけつつ態度変化を待つ「戦略的忍耐」をとった。

しかし、それが北朝鮮の核・ミサイル開発を大きく前進させる結果を生んだ。したがって、その路線には戻れない。

アメリカ政治を専門とする上智大学の前嶋和弘教授は、共同通信(1月9日配信)の取材に対し、アメリカ側の議論の現状を、以下のように説明している。

「軍事的な圧力は米民主党内の左派から反対される。民主党の一部では、北朝鮮の核保有を認めた上で、核軍縮に向かうべきだという考えも出てきている

北朝鮮の経済「三重苦」

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2021年1月1日、花火で新年を祝う平壌市民。ただ、北朝鮮の経済状況は見かけほど芳しくない。

North Korea's Central News Agency(KCNA) via REUTERS

北朝鮮の経済状況は、制裁の長期化にコロナ禍、自然災害という「三重苦」に見舞われている。

アメリカの民間格付け会社によると、2020年の経済成長率は1997年に記録したマイナス6.5%をさらに下回り、マイナス8.5%まで落ち込むと予想されている。

コロナ対策として2019年1月末から中国・ロシアとの国境を封鎖し、1年近く「鎖国」を続けてきた北朝鮮は、これまで「国内に新型コロナ感染者は1人もいない」と主張。

今回の党大会でも、開会の辞で防疫活動の成功を強調し、会場を埋めた5000人の参加者は1人もマスクを着けていなかった。

しかし、東京の北朝鮮関係筋は、実際の感染者数は数千~数万人単位にのぼるとみる

2020年4月~5月にかけては金正恩氏の動静が3週間伝えられず、アメリカのメディアが「重篤説」を流したことがあったが、当時の状況について同関係筋は「金氏と行動をともにしている側近が感染したため、隔離していたのでは」と推測する。

経済再建に向けては、2020年10月・11月に前年同月比で1%未満にまで激減した中国との貿易正常化と、同国からの経済支援確保が不可欠だ。

金正恩氏は党大会で、貿易の95%を依存する中国との関係は「切っても切れない運命で結ばれている」と発言。

一方でロシアとは「伝統的な関係の新たな発展」を進めると語り、中ロとの緊密な関係をアピールした。

米朝首脳会談の実現と並行して、中国の習近平国家主席と4回にわたり会談し、一時は非難合戦までした中国との関係修復にこぎ着けた金正恩氏。

アメリカとの関係改善を図って体制保証を求めながら、一方では中国との緊密な関係を維持して生き残りを図るというのは、一見矛盾した動きに思える。

しかし、平壌を主語にすれば、とくに矛盾はない。対立の深まる米中関係の狭間でバランスをとりながら、生存空間を広げようとする、単純な外交論理だ。

その根底には、中国という強力な磁場から離れ、「衛星国」にならないことを目指す金日成氏の主体(チュチェ)思想がある

主体思想には、中ロ韓に挟まれた北朝鮮の地政学的位置と歴史、さらには儒教的な家父長制度という文化的伝統も反映されている。

ロシア・北朝鮮との条約更新を迎える中国の「本音」

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2013年10月、オバマ政権の副大統領時代のバイデン氏(左)と中国の習近平国家主席(右)。どう変化するか不透明な米中関係、その狭間で北朝鮮はどんな行動に出るのか。

REUTERS/Lintao Zhang

さて、中国は2021年、ロシアと北朝鮮それぞれとの条約更改を迎える。

ロシアとは2001年7月16日に調印した「中ロ善隣友好協力条約」。北朝鮮とは米ソ冷戦時代の1961年7月に調印した「中朝友好協力相互援助条約」が、6月末に3度目の更新期を迎える。

北朝鮮との中朝条約は、一方の国が攻撃された場合に他方が軍事支援する「参戦条項」のある軍事同盟だが、隣りの韓国とも良好な関係を維持したい中国にしてみれば、北朝鮮との軍事条項は「名存実亡」(=名ばかりで実体がない)だ。

いずれにしても、両条約は一方が異議を唱えなければ自動更新されるため、そのまま延長されるだろう。

ゆえに、今回条約が更新されたからといって、アメリカに対抗するための中ロ朝「枢軸」が復活したなどとみなすべきではない。中国・ロシアともに軍事同盟の復活は明確に否定している。

3月の「米韓軍事合同演習」がポイントに

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バイデン氏がもし、金正恩総書記の「対話のサイン」を無視し続ければ、北朝鮮は核・ミサイル実験を再開するおそれもある(写真は2019年10月のミサイル発射実験時、韓国のTVニュース)。

REUTERS/Kim Hong-Ji

バイデン次期大統領が朝鮮半島問題で判断を迫られるのは、3月の「米韓軍事合同演習」が最初になるだろう。

トランプ政権は演習を凍結してきたが、バイデン氏は外交の基調に「同盟関係修復」をうたっている。

とくに東アジアについては、日韓関係の悪化で機能不全に陥っている「日米韓三国同盟」の修復に高いプライオリティを与えている。

実際のところ、バイデン政権はコロナ対策をはじめとする内政に手足をとられ、本格的な外交の展開までには時間がかかりそうだ。

だが、バイデン氏があらためて同盟修復を重視して中ロ朝への敵視姿勢を続ければ、中朝ロを「対米枢軸」復活に向かわせる誘因になる可能性は否定できない。

同時に、バイデン氏がもし金正恩総書記の「対話のサイン」を無視し続ければ、北朝鮮は核・ミサイル実験を再開するだろう

実験は中・短距離ミサイルから始まり、日本を含めた東アジアで緊張局面が再現されるおそれがある。

中国の習近平国家主席は、北朝鮮の核・ミサイル実験に反対し、朝鮮半島の非核化を支持してきた。今後も核実験の再開には反対し、バイデン政権に米朝対話の再開を促すはずだ。ロシアもおそらく同様のポジションをとるだろう。

とはいえ、アメリカを対話の席に引き戻すために、北朝鮮があえて中国・ロシアとの「対米枢軸」を利用しようとする可能性は十分考えられる。

北朝鮮にとって中ロの支援は必要だが、それもあくまで対話の実現という戦略目標に従属する“補完物”の位置づけなのだ。

(文:岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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