Teun van den Dries/Shutterstock
- 環境関連銘柄は2020年に株価が倍増したが、今後さらに急騰する「10年の熱狂期」が到来すると見ているのは、運用残高11億ドルのヘッジファンドのストラテジスト、マルコ・パピッシュだ。
- パピッシュは今後10年で「ゼロへのレース(CO2排出量、輸入エネルギー、国外調達電力などをゼロにする国際間競争)」が世界規模で展開されると予測する。
- 本稿では、その詳しい理由や、環境関連株以外に投資家が戦略的にポートフォリオを組める2種類のアセットクラスについて、パピッシュに話を聞く。
マルコ・パピッシュはこれまで、控えめに言っても「ありとあらゆるところ」で暮らしてきた。
ユーロスラビア(現セルビア)のベオグラードで生まれ、ヨルダン、スイス、カナダ、アメリカのテキサス州で過ごした後、カリフォルニア州サンタモニカに腰を据え、現在はクロックワーク・グループでチーフ・ストラテジストを務めている。クロックワークはオルタナティブ資産管理とヘッジファンドの運用を行う会社で、2019年の資産運用残高は11億ドルだ(直近のファンド登録書類より)。
クロックタワー・グループのチーフ・ストラテジスト、マルコ・パピッシュ。
ClockTower Group
都会育ちのパピッシュにとって、マクロ地政学分析と実用的な市場予測の双方を必要とする仕事はうってつけだ。とりわけ、いくつもの都市で暮らしてきた経験から、どこも大きな違いはないと学んできたからだ。
取材に応じたパピッシュは話す。「つまり、さまざまな状況にあるさまざまな社会を比較する必要があるということ。これが本当に仕事に役立ちます。というのも、歴史面での比較にせよ国際面での比較にせよ、相対的な視点を持つことが非常に大切だからです。この視点を持つことで、持続可能でないものもあるんだと理解できるようになります」
パピッシュに言わせると、持続可能でないものは必ずリバランスされる。これが分かっている投資家は、単眼的な考え方に根差した人たちよりも、迅速かつ確実にパラダイムシフトやレジームチェンジ(体制転換)が分かるようになる。
「ゼロへのレース」はすでに始まっている
世界の強国は産業革命以降、自国の地理学的資源、天然資源、人口統計学的資源の拡大に務めてきた。しかし今後10年間は、こうした国々は「ありとあらゆるもののゼロ」——つまり、外部不経済、二酸化炭素排出量、非効率性、輸入エネルギー、国外調達電力、これらすべての「ゼロ」を追求するようになるだろうと、新たに執筆した調査レポートの中でパピッシュは述べている。
パピッシュに言わせれば、いわゆる「拡大へのレース」が「ゼロへのレース」に変わる、次のパラダイムシフトはすでに起きている。
その国際競争の中、パピッシュ自身は環境テクノロジー銘柄に照準を合わせている。2020年には株価が急騰したが、今後さらに「10年の熱狂期」に突入すると考えているのだ。
具体的に見てみよう。2020年、MSCI世界代替エネルギー指数は109%、S&Pグローバル・クリーン・エネルギー指数は143%、それぞれ上昇した。一方モーニングスターのデータによると、インベスコ・ソーラーETF(資産運用残高45億ドル。グリーン・エネルギー関連銘柄のパフォーマンス評価で投資家がよく使用するETF)のリターンはなんと234%も上昇したのだ。
環境関連株は10年の熱狂期へ
パピッシュが環境関連株を強気に見る理由は、2つある。
まず、インフラへの財政支出を通じて国内総生産(GDP)を伸ばすという各国政府の計画が、環境関連テクノロジーを同時に押し上げると考えているためだ。
中国、EU、日本はすでに、環境プログラムやテクノロジーに今後10年間で約22兆ドル(約2300兆円)を投じる計画を発表している。さらにジョー・バイデン米大統領は、気候変動への取り組みとして、今後4年間にわたり2兆ドル(約207兆円)を支出する予定だ。
パピッシュは次のように話す。
「法律面で、人類史上かつてなかった大きな追い風になる。アメリカの州間高速道路やマンハッタン計画、宇宙へのアポロ計画のような巨大なプロジェクトでさえ、政府が代替エネルギーにつぎ込む金額と比べたら小さなものです」
2つ目の理由は、世界最強国同士の地政学的な競争に関わるものだ。
「中国はEV(電気自動車)やバッテリー開発への支出を強化したことで、競争が起きています。これはESGの話でもなければ、ESGインデックスへの投資を取締役会で意思決定しろという話でもない。何が言いたいかというと、こうしたテクノロジーの背後には政策や地政学的な大きな後押しがあるということを、市場は嗅ぎつけるということです。
だから私は、誰かが『環境関連銘柄は2020年にすでに200%上昇した』と言ってきたら、『そうだね、でも今後20年で2000%アップするよ』と返しています」
新たなレジームへ
「ゼロへのレース」によって、世界の強国は効率性を高め、再生不可能資源の消費を減らすだろう。しかしその一方で、この過程そのものには多くのコモディティが必要となる。
それが逆にコモディティの新たな景気循環を刺激する可能性がある、とパピッシュは見ており、調査レポートに次のように書いている。
「中国はすでに、来たる『ゼロへのレース』に資金をつぎ込んでおり、いくつかの重要なコモディティ、とりわけレアアースの世界的な供給を独占している。それに続くのが、オーストラリア、ブラジル、チリ、ペルー、ロシア、アメリカ、コンゴ、カザフスタン、南アフリカだ。ゼロへのレースに必要な原料の供給を確保しようと強国が動いており、世界には新たな紛争地帯が出現するだろう」
コモディティだけでなく、パピッシュは新興市場の見通しにも強気な予測をしている。特に、近々起きるコモディティ・ブームから恩恵を受けると見られる国々だ。
「新興市場の中から選ぶとしたら、おそらくコモディティと密接につながっている国にするでしょうね。ラテンアメリカは2001〜2010年と同じような10年になるかもしれない。こうした全体的なトレンドからして、今後10年間も好調だと思います」
(翻訳・松丸さとみ、編集・常盤亜由子)