- 天文学者は、遠くの銀河が冷たいガスを宇宙空間に放出して死にかけているのを発見した。
- このようなガスは、星を形成するために必要不可欠なもので、銀河はそれがなくなると死んでしまう。
- この銀河は、2つの銀河が衝突して1つになったものだ。その結果、毎年太陽1万個分のガスを排出している「尻尾」がある。
天文学者たちは初めて、死にかけている銀河を観測した。
90億光年の距離にある銀河「ID2299」は、新しい星を作るのに重要な冷たいガスを失いつつある。毎年、太陽1万個分のガスを排出していて、すでに半分近くが失われている。残りは新しい星を作るために使われ、ガスの消耗の速度は天の川銀河の何百倍も早い。このままでは、この銀河はすぐにガスを使い果たしてしまい、新しい星を作ることができなくなってしまうだろう。銀河にとっては、それは死を意味する。
ID2299を発見した研究者チームは、1月11日、ネイチャー・アストロノミー誌にその成果を発表した。
研究チームは、ID2299は2つの銀河が衝突して合体し、形成されたと考えている。そして、この銀河には星や星間物質が宇宙空間に流れ出ている「潮汐の尾(Tidal tail)」があることがわかっている。
潮汐の尾は、銀河が合体する際に、銀河の外層が剥ぎ取られることでできることが多い。これまでに何百もの銀河で潮汐の尾が検出されているが、遠くの銀河では通常、地球の天文学者が見ることができないほどの薄暗さだ。研究者たちは、銀河からガスが宇宙空間に広がり始めたところで観測することができた。
ハッブル宇宙望遠鏡は、銀河から噴出するガスの長い尾のために「マウス」と呼ばれている銀河の衝突を捉えた。
今回の発見は、大規模な衝突によって銀河が宇宙空間に重要なガスをすべて放出してしまい、最終的には星を失い、その形成も阻害されて、死んでしまうプロセスの存在を示唆している。
「遠方の宇宙で典型的な大質量の星形成の過程にある銀河が、大規模なガス放出のために『死』を迎えようとしているのを初めて観測したことになる」と、この研究の主著者であり、イギリスのダラム大学の研究者でもあるアナガラジア・プグリシ(Annagrazia Puglisi)はプレスリリースで述べてる。
銀河が「死ぬ」プロセスはいくつかある
星が形成されると風が発生する。科学者たちは、すべての巨大銀河の中心にはブラックホールがあると考えているが、ブラックホールもまた、その重力に引っ張られて落ちてくる物質を飲み込みながら風を出している。天文学者たちは、星やブラックホールからのこれらの風が、星を形成する物質を遠くの宇宙に運び、最終的には銀河を滅ぼす原因になると考えている。
しかし、ID2299のガスの尾の発見は、銀河の死への新たな道筋を明らかにした。
この研究の共著者であり、フランスのサクレー原子力研究センターの宇宙物理学者であるエマニュエル・ダディ(Emanuele Daddi)は、リリースの中で次のように述べている。
「銀河がどのようにして『死』を迎えるのかについての我々の理解を見直すことにつながるかもしれない」
この発見は、我々の銀河系の運命についてのヒントを提供してくれる可能性もある。天の川銀河は冷たいガスを宇宙空間に放出しており、約40億年後にアンドロメダ銀河と衝突すると見られている。
「このような大規模な混乱のイベントを目撃することは、銀河の進化の複雑なパズルに重要なピースを追加するだろう」と研究の共著者であり、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者、キアラ・シルコスタ(Chiara Circosta)はリリースの中で述べている。
研究者たちは、チリにあるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA:アルマ望遠鏡)を使って、100個の遠く離れた銀河のガスの研究をしているときに、この銀河を発見した。
「この奇妙な天体についてもっと知りたいと思ったのは、そこに銀河の進化について学ぶべき重要な教訓があると確信したからだ」とプグリシは述べている。
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)