日本法人ボルボ・カージャパンの代表マーティン・パーソン氏。自動車の電動化に関するボルボの取り組みについて聞いた。
撮影:三ツ村崇志
スウェーデンに本社を置く自動車メーカー「VOLVO」(ボルボ)。高級SUVをはじめ、そのラインナップは日本国内でも高い人気を誇る。
同社は2017年、他の自動車メーカーに先駆けて、全車種の電動化を目指すことを宣言。日本で販売される車種についても、2020年11月末までにすべての車種において、少なくともマイルドハイブリッド(※)による電動化を実現した。
※マイルドハイブリッド:減速時に発電した電力を使ってモーターを動かし、エンジンによる加速をサポートするタイプのハイブリッド車。
こうした取り組みを背景に、2020年下半期の国内での受注台数は前年同期比8.5%増と、コロナ禍の不調から大幅な回復を見せている。
2020年10月1日に日本法人ボルボ・カージャパンの代表に着任した、マーティン・パーソン氏に、コロナ禍でのボルボの歩みと、今後世界中で進んでいく自動車の電動化に関する同社の取り組み、そして自動車の未来について話を聞いた。
コロナ禍で高まったモビリティへの関心
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—— まず、新型コロナウイルスの世界的大流行がボルボにおよぼした影響について教えて下さい。
マーティン・パーソン代表(以下、パーソン):自動車業界全体にとって、コロナはものすごい衝撃でした。2020年のプランについて、すべて変更せざるを得ない状況に陥りました。
ボルボはコロナ以前、2020年に大きな期待を持っていました。過去数年間で、世界セールスが40万台規模から70万台規模にまで伸びていたんです。2020年、何もなければ同様に成長できると思っていました。
ただ、残念ながらコロナで状況が変わり、それは期待できなくなりました。
—— コロナによって、直接的にどんな問題が起きたのでしょうか。
パーソン:2つのポイントがありました。
1つは、お客様自身がある時期、とくにロックダウン(都市封鎖)が行われていた時期に、車を購入する雰囲気ではなくなったことが大きかった。ただこれは、長引くことはありませんでした。
もう1つ、業界全体が受けた影響として、工場を閉鎖したことによる生産上の影響があります。こちらはまだ続いている状態です。ほとんどのブランドはいま、生産を元に戻すことにエネルギーを使っています。
—— ボルボも同様ということでしょうか?
パーソン:そういう意味で言えば、ボルボは良い位置にいます。工場のシャットダウン期間が短くて済みました。ロックダウンのあと、比較的すぐに元の生産状況に戻すことができ、2020年の夏以降は供給の問題がほとんどなくなっています。
—— なぜ、ボルボは問題をすぐに解決できたのでしょうか?
パーソン:理由はたくさんありますが、ボルボはサプライヤーも含めて、うまく協力して製品を安定供給する状態を作れていたことが大きいと思います。コロナの流行で1クォーター(四半期)程度は確かに影響が出てしまいましたが、(うまく協力ができた)おかげで、ロングタームでの戦略に大きな影響は出ませんでした。
撮影:三ツ村崇志
—— コロナの影響で人々の生活は大きく変化しました。車の使われ方、求められ方は変わりましたか?
パーソン:興味深い質問です。個人的な感覚ですが、以前よりもモビリティに対する関心は高まったのではないかと思っています。
いままで車を所有しようと思わなかった人たちが、興味を持ちはじめたように感じています。そしてそういった人たちは、必ずしも車を「購入したい」と思っているわけではないのです。
—— ボルボはサブスクリプションサービス「スマボ」を展開されていますが、そういった需要が高まっているということでしょうか?
パーソン:そうですね。所有せずに使用するタイプの新しいモビリティ商品については、日本でもヨーロッパでも関心が高まっていると感じます。
シェアリングについては、(コロナ感染に対する)若干の恐怖心があると思います。だからシェアリングより、サブスクリプションへの関心が高まっているのではと。
ただ、カーシェアリングもいずれ絶対に来ると思います。ただし、それは未来の話でしょうね。
ボルボのDNAが促した電動化への取り組み
撮影:三ツ村崇志
—— ボルボは2017年の段階で、全車種の電動化に取り組むことを宣言しています。実際、日本国内については、2020年11月までに全車種で最低限マイルドハイブリッド化を達成しています。ボルボが電動化を進める理由はなんでしょうか?
パーソン:まず、スウェーデン本国のCEOが全車電動化を目指すと発言したのが、業界の中でもかなり早かった。サステナブルな移動手段が必要で、化石燃料だけで走っている自動車を売り続けるわけにはいかないと。
また「人をケアする」というボルボのDNAも影響しています。
この観点から、ボルボはもともと安全性に対する意識が高かった。サステナビリティやクライメートニュートラルなども、それと同様です。
ボルボとしてはその第一歩として、すべての車種で最低でも48Vハイブリッド(マイルドハイブリッド化)を実現して、その上にプラグインハイブリッド車も用意しています。
すべてのモデルで、48Vハイブリッドかプラグインハイブリッド車を選べるようにした上で、2021年度には電気自動車を導入(受注開始)していく予定です。
—— ボルボはグローバルの目標として、2025年までに販売車の50%を電気自動車、それ以外をプラグインハイブリッドかマイルドハイブリッドにする方針を示しています。日本でもそこまで普及が進むでしょうか?
パーソン:明らかなことですが、日本はヨーロッパに比べてこういった取り組みが遅れています。
2025年に日本での販売車の50%を電気自動車にすることはできないと思っています。
スウェーデン、ストックホルムの電気チャージステーションの様子。
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—— 普及の鍵は、どういったことだと思われますか?
パーソン:例えば、充電環境の問題があります。政府や社会全体が充電できる場所を一気に作っていけば、グッと普及していくと思いますが、遅々として進まないと、やはり電気自動車も普及していきません。
ボルボがどうこうというより、日本がいかに変わっていくかという問題が大きいです。
—— そういった意味で、2050年に二酸化炭素(CO2)排出をゼロにするという菅首相の宣言は大きかったのでは?
パーソン:良い兆候ではあります。でも、もっとスピードアップしないと間に合わないと思います。
「サステナブルをバズワードにしてはいけない」
菅義偉首相は10月26日に行った所信表明演説で、2050年までに「温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言した。
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—— 自動車産業でも、SDGsに対する取り組みが重要視されてきていると思います。ボルボは電動化の取り組みなどを見ても、SDGsに対する意識が非常に高い印象があります。なぜなのでしょうか?
パーソン:まず、最近「サステナビリティ」という言葉が流行っていますが、私たちは流行しているからやっているわけではなく、もっとずっと前からサステナビリティについて考えてきました。
—— やっと時代がボルボに追いついてきたと。
パーソン:そうかもしれないですね(笑)。
ただ、ボルボだけでなく、スカンジナビアにはもともとそういう思想があったのです。そして次のジェネレーションとしていま、「電動化」がポイントになっているわけです。
また、考え方として、ディーゼル車やガソリン車などがたくさんあるなかで電気自動車を1車種だけ出したとして、「それでサステナブルか」と言われるとそうではないはずです。
トータルで見たときに、どういうポートフォリオにするのが環境に良いのか、あるいはそれで向かいたいところに近づいていると言えるのか、自ら問うことが重要です。
そう考えると、我々の段階的に全車種に電動化を進めていく考え方は、非常にマッチしているのではないかと思っています。
撮影:三ツ村崇志
—— 電動化もサステナブルな取り組みの一端ではありますが、自動車産業は関連するサプライヤーなども非常に多く、そういったところも含めた取り組みが期待されているのではないでしょうか?
パーソン:例として、バッテリーの話をさせてください。バッテリーを作るにはさまざまな金属が必要です。私たちはこういったものの「責任」を明確にしています。
電極に使用される「コバルト」は、子どもを劣悪な環境で違法に働かせて採掘している場合がある、問題のある素材です。ボルボではいま、自社で使っているコバルトがどこから得られたものなのか、違法労働によって得られたものではないか、ブロックチェーン技術を使ってすべて確認できるようにしています。
—— 適正な取り引きを行っていることを保証しているわけですね。ちなみに、バッテリーの「使用後」はどうでしょうか?
パーソン:使用後の過程については、実は私が(スウェーデンの)本社にいた際に直接携わっていた部分です。
バッテリーも最後まで責任を持って処理しています。たとえば、焼却処理は一番簡単な方法ですが、環境にフレンドリーな手法ではありません。
当然、再利用するのが正解です。お客様がボルボの電気自動車を購入しようとしたときに、それに搭載されているバッテリーがどう作られ、自分が使ったあとどうなるのかまで見えるようになっています。
—— 本当にそれがサステナブルなものなのか「見える化」することは、自動車業界以外でも重要なポイントですね。
パーソン:気をつけないと、ただのバズワードになるだけですからね。それはボルボの考え方ではありません。
電気自動車を充電する際、火力発電で作られた電気を使ってしまうと結局サステナブルではなくなってしまう。エネルギー政策とどう組み合わせるかも重要になってくる(写真は中国・青海省の火力発電所)。
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—— ただ、サステナブルな取り組みは、得てしていままでのものよりもコストが高くなってしまうものです。販売への影響はありますか?
パーソン:スカンジナビアでは、お客様はその部分のコストを了解してくださっていると思います。
エネルギーを見ているとそう感じます。電気自動車を充電するときに、火力発電で作られた電気を使ってしまうと、結局サステナブルではなくなってしまいます。
ヨーロッパ、少なくともスカンジナビアの方々は、少し高いお金を出しても自然エネルギーで発電された電力を選びます。日本でもいずれ、そういう選択が増えてくるのではないでしょうか。
—— 正直、日本とスカンジナビアでは、意識の差がものすごく大きいと感じます。
パーソン:そういったことを考えないと、菅首相の宣言されたような、2050年までにカーボンニュートラルを実現するのは難しいと思います。
2025年よりも「先」の自動車の未来
世界中で自動運転の試験が行われている。
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—— 自動車業界にはいま電動化の波が押し寄せています。その「先」の展開として、自動車業界にはどういった変化がおきると思いますか?
パーソン:2025年よりもさらに「先」を見るとすれば、技術的にちょっと違うことが起きると思っています。1つは「自動運転」でしょうね。
自動運転が本格化すると、例えば「ハンドルがいるのか?」といったところから始まり、大きな技術的変化があると思われます。
—— ボルボの自動運転技術の開発は、どういった考えのもとで進められているのでしょうか?
パーソン:「人に対してケアをする」というボルボの基本的な考えは変わりません。ここで言う「人」とは、ボルボに乗っている人はもちろん、乗っていない人も含まれます。
そういった意味で、ボルボは自動運転について非常に明確な考えを持っています。
例えば、人かコンピューターか、どちらが責任を負う状態なのかわからないような状況が発生することを避けようとしています。ボルボは自動運転のレベル(※)を考えるのをやめたんです。
我々が「自動運転で人や物を運ぶ車」を販売するときは、事故が起きたときに完全に車に問題(責任)があるということになります。
※自動運転技術は、米自動車技術者協会(SAE)などの定義した基準に基づき、自動ブレーキなど運転支援程度のものから、完全に自律的に動くものまで、レベル0〜5の6段階に区分されている。レベルに応じて、運転の主体が人にあるか、システムにあるか、切り分けて考えることが多い。
—— 実現は少し先の話になりそうですね。
パーソン:ですので、私たちが完全自動運転を最初に実現する会社になるということはないと思います。いずれ自動運転を実装するときが来ても、「すごく安全である」というところにしっかりと線を引いたものが出ることになります。
(文・三ツ村崇志)