極右に人気のSNS「パーラー(Parler)」アプリ。表示されているのは、トランプ支持者が集う「Team Trump」のアカウント。
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- アメリカ議会議事堂への侵入事件の発生後、極右から支持を受けるSNS「パーラー(Parler)」は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)からアカウント停止措置を受け、グーグルとアップルのアプリストアから削除された。
- 外部から閲覧可能な記録データによると、パーラーは少なくとも1月13日(米国時間)までマイクロソフトの「エクスチェンジ・オンライン(Exchange Online)」をメール送受信に使っていた。
- Business Insiderが取材を通じて確認したマイクロソフト社内のやり取りによれば、パーラーは「Microsoft 365」のユーザーで、現在の状況にどう対応するかマイクロソフト社内で検討している模様だ。
- マイクロソフトには、「個人的には放置しておけばいいと思う」と、他社のやっているような利用停止措置は行き過ぎと考える従業員もいる。
- 一方で、率先してパーラーを利用停止にしたアマゾンに追随すべきと主張する従業員もいる。
トランプ大統領の支持者に人気のSNSアプリ「パーラー」が1月8日(米国時間)、連邦議会議事堂への乱入事件の発生から間もなく、アップルとグーグルのアプリストアから削除された。
それに続いて、サービスプロバイダ(最も大きいのはアマゾン・ウェブ・サービス)の多くがパーラーへのサービス提供を停止。オフラインを余儀なくされた同社は、新たなホスティング先を探して宙ぶらりんの状況が続く(最新の状況は後述)。
クラウドコミュニケーションのトゥイリオ(Twilio)、クラウドセキュリティのオクタ(Okta)、クラウドカスタマサービスのゼンデスク(Zendesk)も、各社のプラットフォームからパーラーを排除している。
サービス存続の危機にさらされたパーラーだが、マイクロソフトのグループウェア「Microsoft 365」については、少なくとも1月10日まで利用を継続している。
Business Insiderが取材を通じて確認したマイクロソフト社内のやり取りによれば、パーラーはメール送受信にエクスチェンジ・オンラインを使っている模様だ。
他社に追随してパーラーへのサービス提供を停止すべきか、マイクロソフトの従業員間では意見が分かれている。同社が停止措置をとれば、パーラーはアプリのホスト先だけでなく、メールプロバイダも新たに探さなくてはならなくなる。
社内メッセージボードで従業員が議論
極右に人気のSNS「パーラー(Parler)」への対応をめぐり、マイクロソフト社内ではさまざまな意見があがっている。
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マイクロソフトの社内メッセージボード「CEOコネクション」では、数十人の従業員がこの問題について議論をかわしている。
「CEOコネクション」……会社全体に関わる問題について、従業員がサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)と経営チームに質問を投げかけ、議論するためのメッセージボード。とくに議論の活発なスレッドを中心に、ナデラCEOと経営チームは毎日その内容をチェックする。
メッセージボードに投稿された数十人の意見は、必ずしもマイクロソフト16万6000人超の従業員の総意ではない。それでも、従業員の間に何らかの懸念が生まれていることはそこから垣間見える。
パーラーのジョン・マッツェCEOは1月10日、米FOXニュースの取材に対し、「弁護士によれば、テキストメッセージサービスからメールプロバイダまで、あらゆるベンダー(事業者)が同じ日に我々を見限ったようだ」と語っている。
しかし、外部から閲覧可能なドメイン(parler.com)のDNSレコードを見ると、少なくとも1月13日朝まではメールサーバーにエクスチェンジ・オンライン(アウトルック)がリストされている。
マイクロソフトのある従業員によれば、少なくとも1月10日まではパーラーのドメインが「アジュール(Azure)のアクティブディレクトリで有効(実行可能)な状態」だったという。
パーラーのドメイン「parler.com」のDNSレコード。中段左にメールサーバー(MXレコード)、右に権威サーバー(NSレコード)の記録が見える。1月16日時点のスクリーンショット。
Screenshot of SecurityTrails
複数の従業員たちは、パーラーに対する個人的な見解は別として、「Microsoft 365」の利用停止措置は行き過ぎだと語っている。そのうちの1人は、「個人的には放置しておくべきだと思う。行き過ぎた『テック界の巨人』として注目を浴びる必要はない」と社内メッセージボードに投稿している。
一方、AWSがパーラーのアカウントを停止してウェブサイトをオフラインに追い込んだ措置は正しく、マイクロソフトも追随すべきとする従業員もいる。従業員の1人は次のように書き込んでいる。
「アマゾンは誠実に、一貫性をもって顧客企業との契約を執行し、客観的にわれわれの社会の利益になるような行動を選択している。今回の問題について言えば、AWSの判断はわが社の経営陣もぜひ追随すべき前例ではないか」
パーラーはまだMicrosoft 365の利用を継続しているのか、アジュールでのホスティングを今後も認めるのか、マイクロソフトにコメントを求めたが、(1月14日までに)返答はなかった。
同社の広報担当は1月 11日に社内メッセージボードで複数の「参考になるリンク先」をシェアしたものの、パーラーとの現在の関係性と今後の計画については言及していない。
極右サイトが集う「エピック(Epik)」で再起図る?
パーラーがドメイン登録した「エピック(Epik)」。画面左に見える傘下のCDNネットワークプロバイダ「BitMitigate」は、人種差別コミュニティなどにもサービス提供することで知られる。
Screenshot of Epik website
パーラーがサーバーのホスティング問題をどう解決するのか、現時点でははっきりとしていない。
グーグルクラウドおよびIBMはBusiness Insiderの取材に対し、パーラーのホスティングを認めない方針と回答。オラクルについては、状況に詳しい人物によれば、他社同様に認めない方向だという。
一方のパーラー側は、「ギャブ(Gab)」含めた極右ウェブサイトのホスティングで知られる「エピック(Epik)」にドメインを登録している。
※「ギャブ」……極右のみならず、ヘイトグループや人種・宗教など偏見による差別思想を持つグループに支持されるSNS。2018年に米ユダヤ教礼拝所(ペンシルベニア州ピッツバーグ)で起きた銃乱射事件の際も、ホスティングサービスや決済サービスから遮断された。
なお、ロイター通信(1月14日付)によれば、同社のインタビューに際して、パーラーのマッツェCEOは「(SNSサービスを復活させることは)もう二度とできないかもしれない。いまはまだわからない」と語ったものの、記事配信後に「私は楽観主義者だ。何日、何週間かかるかわからないが、パーラーはさらに強くなって復活する」とのコメントが届いたという。
(翻訳・編集:川村力)