Airpeakとソニーの吉田憲一郎会長兼社長。Airpeakの大きさがよくわかる。
出典:ソニー
CES2021でソニーは、自社開発ドローン「Airpeak」のデザインと飛行風景の映像を公開した。
2020年11月に開発計画とティザー映像だけが公開されていたが、その正体は「一眼カメラ・αを搭載して撮影に使えるプロ仕様のドローン」だった。どういうものかは、映像を見るのが一番の近道だろう。
Airpeak 撮影映像。
出典:ソニー
ソニー・執行役員 AIロボティクスビジネス担当の川西泉氏。写真は2020年8月取材時のもの。
撮影:西田宗千佳
ドローンというと、もう世の中にありふれた存在のようにも思える。けれども、開発責任者でソニー・執行役員 AIロボティクスビジネス担当の川西泉氏は「我々の技術的見解としては、コモディティではない。ソニーが出すべき、ソニーの持つ技術を活かせる分野だ」と言い切る。
なぜソニーがあらためてドローンを作ることになったのか? どのような狙いがあるのかを聞いた。
電気自動車「VISION-S」とも密接な関係があった
Airpeakは本体に直接一眼カメラ「α7III」を取り付けて飛行し、撮影する。
出典:ソニー
冒頭で紹介したビデオを見るとわかるように、Airpeakは、本格的な映像撮影を一つの目的としたドローンだ。デモでは、同社の一眼カメラ「α7III」にレンズをセットし、それを本体下部に吊り下げて高速飛行している。
撮影対象は、ソニーが開発中の電気自動車「VISION-S」。VISION-SもAirpeakも、同じ「AIロボティクス」開発チームが担当している。
「極論ですが、自動車でもドローンでも、もっといえばaiboでも、扱っている技術は“周囲の状況を認識して移動”する『ロボティクス』。障害物があれば止まる・避けるという自律的な制御が必要になります。もちろん、求められるスペックはまったく異なるのですが、概念は近い部分があります」(川西氏)
お披露目映像が「VISION-Sの走行撮影」になったのも狙ってのことだ。計画開始の経緯や時期は異なるが、並行して開発が進められており、途中から「VISION-Sの公道走行を撮ることを完全に狙っていた」(川西氏)と笑う。
VISION-S 公道走行試験映像。
VISION-S公道走行の映像はAirpeakで撮影されている。
出典:ソニー
VISION-Sは、ソニーが技術開発・ノウハウ習得などを目的に開発を進めている電気自動車だ。2020年中に、ヨーロッパで公道走行試験を実施した。
そのVISION-Sの公道走行試験のお披露目映像をダイナミックなものにすることが、Airpeakの初仕事だった。これは、Airpeakの開発の狙いそのものとも合致する。
「Airpeakを作る狙いは『よりダイナミックな映像を作る』ためです。ドローンは今も撮影に多く使われていますが、端的に言うなら、こういう製品はソニーが出すべきなんじゃないか、と考えました。ドローンは、ホビーユースのものはたくさんありますが、プロ向けはそうはない」(川西氏)
川西氏のいう「プロ向け」とは、具体的には「高画質のカメラを搭載して安全かつ高速に飛行できる」もののことを指す。
スマホや小型のアクションカメラを使うドローンは多いが、一眼カメラのαシリーズのような、フルサイズのカメラを搭載できるものは限られる。
今回使われたα7IIIの場合、レンズとボディー、ドローンとの接続に使うジンバルのセットでの重量は2キロを超えている。それだけのものを搭載し、しかも自動車と併走できるだけの速度で、安全に飛行するのは大変だ。よく映像を見ると、Airpeakが、走行する車のすぐ近くまで近づいて撮影されたカットもある。
精密な制御を生かし、高速走行するVISION-SにAirpeakが飛行しつつ近づいて撮影が行われた。
出典:ソニー
「どのくらいVISION-Sに近づけるかは、相当議論しました。車内からのオンボード映像とも違う、走行する車に近づいて撮った迫力のあるものを撮影したかったからです。そのくらいの映像が撮れるものを作るべきなんじゃないかと考え、サンプルとしてVISION-Sを使った、ということなのですが」(川西氏)
ソニーの特技は「回るもの」。モーターやプロペラを独自開発
Airpeakの詳しい性能などは公開されていない。今回α7IIIを搭載して撮影したのも、Airpeakにはαしか搭載することができない、という話ではない。「品質の高い映像を撮影するには相応の撮影性能が必要で、ソニーの場合にはそこでαがあったから」(川西氏)という理由だ。
では、ソニーがドローンを作る上での独自性はどこにあるのだろうか?
「今回、モーターはソニーが独自開発したものを使っています。パワーも重要ですが、制御に対して機敏に反応する性能も重要。制御は耐風性能にも効いてくるんです。単に速く回せばいいわけではなく、いかにきめ細やかに制御できるか。それが安全性にも効いてきます。
その上で重量と揚力の戦い。ある程度のペイロード(搭載可能重量)を実現できれば、αを積んで飛べるだろう、とは考えていました。プロペラも独自設計で、空力特性、推進力でも安定性にも、非常に大きな影響があります」(川西氏)
制御の要となるプロペラやモーターはソニーが独自開発している。
出典:ソニー
「昔から、ソニーは『回るもの』は得意ですから」と川西氏は笑う。開発は2年半ほど前からスタートし、社内のドローン好き・メカ好きが集まって作り上げてきた。
ソニーは過去に、ドローンを他社と合弁で進める道を選んだことがある。2015年、ソニーモバイルコミュニケーションズとZMPが合弁で作った「エアロセンス」がそれだ。
こちらとの違いは「ハードかサービスか」。Airpeakはハード開発+制御が主軸だ。一方のエアロセンスは自律型ドローンによる監視などの「サービス」部分が主軸。そのため、(ドローンを扱う点は共通でも)やることは異なっている。
現状、Airpeakは目視でリモコンを使って操作することを前提に開発されているが、「許諾が得られ次第」(川西氏)“目視外”での自律飛行も進めていく予定だという。
現状はカメラ映像を見つつ、コントローラーからの操作で操作するが、将来的には完全自律飛行も進めていく。
出典:ソニー
空撮以外に「Airpeak転用」の可能性は?
一眼カメラという重量物を、そのままぶら下げて自在に飛ぶことは大変だ。これができるということは、カメラ以外の重量物への対応も可能になる、ということでもある。
そうした用途についても、もちろん対応を前提に開発が進んでいる。「撮影にはクアッドコプター(プロペラが4つの形状)がベストと判断」(川西氏)し、今の形状になっているが、用途を変える場合には、別デザイン・別形状のものを開発することも視野に入れているという。
「測量・点検はまず、大きなマーケットでしょう。物流向けなども考えられます。許諾やルールがあってのことですが、物流の場合、場合によっては市街地の上を飛ばすことにもなります。だとすれば高い安全性が求められますから、αを積むのは(精密機器で重量もあるカメラを載せても安心できるという意味で)『やるべき課題』だったんです」(川西氏)
責任者も「公道走行を見ていない」リモートで進む開発
現在ソニー内では、複数の「AIロボティクス」関連研究が進んでいる。VISION-SやAirpeakはもちろんだが「他のネタも進行している」と川西氏は認める。
その中で、Airpeakは比較的製品化に近いものの一つだ。「さほど遠くない時期にご提供できると期待している」と川西氏もいう。
ただ、課題もある。
「問題は新型コロナウィルスの感染拡大です。これによってどうなるかはわからない部分があります。ちゃんと外で飛ばさないと開発が進まないので、コロナ禍では難しい面もあるんです」(川西氏)
川西氏は一連の計画の責任者だが、VISION-Sの公道走行とそのAirpeakでの撮影を「実際には見ていない」という。日本から出ることができないからだ。全ての開発はリモートで進められている。その中でも「実際に動くもの」についてのテストに制約があるのが、現在の難しさではあるようだ。
(文・西田宗千佳)