- “ペイパル・マフィア”のマックス・レヴチンが創業したフィンテック企業、アファームが2021年1月13日にIPOを果たした。これにより、レヴチンの純資産額は25億ドル(約2500億円)となった。
- アファームは、オンライン・ショッピングにおける分割払いを可能にする「BNPL」型決済のスタートアップ大手。
- いま世界でBNPL企業が台頭しつつあることの背景には、コロナ禍におけるEコマースの爆発的な需要と経済不況が深く関係している。
ペイパル共同創業者マックス・レヴチンは、自ら起業したアファームのIPOにより億万長者となった。アファームはオンラインでの買い物を分割払で決済できるシステムを提供している。
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ペイパルの共同創業者・元CTOのマックス・レヴチンは、自ら起業したフィンテック企業アファーム(Affirm)を2021年1月13日にIPOさせたことで億万長者となった。
創業8年目のアファームは、オンライン・ショッピングにおける分割払いを可能にする、いわゆる「BNPL(Buy Now Pay Later:今買って、後で支払う)」型の決済システムを提供するスタートアップ企業の中で、最大手の一角を占めている。
コロナ禍が生んだ新たな決済需要
パンデミック中、Eコマースの興隆と経済不況を背景に、多くのBNPL企業が勃興した。現金不足に陥った消費者も、BNPLを利用することで買い物ができる。1000ドル(約10万円)もするパタゴニアのブランド・フリースであろうと、食料品であろうと、BNPLを利用することで購入できる。
モバイル上のキャッシュ還元プラットフォーム、ドロップ(Drop)のデータを利用するリサーチ会社カーディファイ(Cardify.ai)によると、BNPLユーザーの21%は、購入代金を全額支払えるだけの資金を持ち合わせていないという。
パンデミック前には、税引前所得5万ドル未満の納税者は61%だったが、パンデミック以降は70%に急上昇し、さらに6%は所得がゼロになった。BNPLによる支出が最も増えた層は、所得が減少あるいは消滅した層だ。
2020年6月期のアファームの売上高は5億950万ドル(約509.5億円)となり、前年の2億6440万ドル(約264.4億円)から大幅に増加した。そのうち、リモートフィットネス企業ペロトン(Peloton)との提携による売上高が28%を占める。
そのペロトンは、自宅でエクササイズをしたい消費者のおかげで、直近の四半期における売上高が172%増加した。この傾向が続くかどうかは不明だが、今のところ実店舗に赴くことに慎重になっている消費者が、ペロトンとアファームの売上を押し上げている。
2020年4月、レヴチンはBusiness Insiderに次のように語っている。
「これからは、店舗で検討した後に自宅からオンラインで注文するのではなく、オンラインで購入してから実店舗で受け取る形になるだろう。まさにBNPLの目指す方向と軌を一にする転換が起きている」
BNPL分野に億万長者が続々誕生
レヴチンが巨額の富を得るのは、今回が初めてではない。いわゆる“ペイパル・マフィア”の一味であるレヴチンは、ペイパルをイーベイに売却して間もなく同社を退職。その数年後に、請求システムを提供する企業、スライド(Slide)を創業した。スライドは2010年、推定1億8200万ドル(約182億円)でグーグルに買収された。
さらにレヴチンは、ローカルビジネスレビューサイトを運営するイェルプ(Yelp)に早期から出資している。SECへの直近の届け出(2016年9月)時点において、イェルプ株式を270万株保有しており、その価値は現在8700万ドル(約87億円)となっている。
そして、今回。アファームの上場申請書類(S-1)によると、レヴチンは同社株式を2750万株保有している。同株式の上場後初値90.90ドルに基づき計算すると、その価値は25億ドル(約2500億円)となる(レヴチンは本稿についてコメントを差し控えるとしている)。
アファームより一足先にIPOを果たしたアフターペイは、2014年にオーストラリアで創業。BNPL企業としては最もよく知られた存在だ。
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レヴチンは、パンデミック中に億万長者となったBNPL分野の起業家としては3人目だ。レヴチンに先立ち2020年7月にはアフターペイ(afterpay)の共同創業者ニック・モルナルとアンソニー・アイゼンが億万長者となった(モルナルは弱冠30歳にして億万長者となったが、これはオーストラリアでは最年少記録だ)。
スウェーデン発の融資プラットフォーム、クラーナ(Klana)の共同創業者兼CEOセバスチャン・シーミアトコウスキーも億万長者まであと一歩のところに近づいている。
クラーナは、シルバー・レイク、シンガポールのソブリンファンドGICなどから6億5000万ドル(約650億円)を調達した後、2020年9月時点で企業価値が106.5億ドル(約1兆650億円)に達した。
ITメディア「テッククランチ」の情報によると、シーミアトコウスキーが保有するクラーナ株式の持分は8.1%。シーミアトコウスキーは、1〜2年以内にクラーナの上場があり得ると発言している。
クラーナは、2020年11月時点において世界全体で9000万人の顧客を抱え、うちアメリカでは1100万人を超えている。パンデミック中、クラーナは多くの実店舗との提携を開始した。大手デパート、メイシーズ(Macy’s)とも5年契約を結んでいる。
2020年10月、シーミアトコウスキーはBusiness Insiderに次のように語っている。
「シアトルの人たち(アマゾン)が業界全体に与える脅威は、ある意味おもしろい。危機感が生まれ、オープンに新しいことを試そうという機運が高まっている」
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)