ベンチャーキャピタリスト(VC)は、新しく生み出されたテクノロジーの可能性を見極め、それらが社会をどう変えていくかをいち早く見極めることに長けている。
そこでBusiness Insiderは、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家20人に、今ウォッチしている投資テーマや2021年に注目すべきトレンドを尋ねた。
その結果得られたのは16のテーマ。前編ではそのうち8つを紹介したが、本稿では残る8つのテーマを発表する。
コロナ禍によって大きく変容するビジネスの趨勢を、VCはどのように見ているのだろうか?
Slackのようなソフトウェアが増える
Slackのスチュワート・バターフィールド共同創業者兼CEO。
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仕事効率化のためのソフトウェアもあれば、同僚とのコミュニケーションに使うソフトウェアもある。ツールが多すぎると、アプリを切り替えるのに時間がとられてしまい忍耐が必要なのがデメリットだ、と言うのは、エマージェンスキャピタルのゼネラルパートナー、ジェイク・セーパーだ。
生産性とコラボレーションをワンストップで行えるような製品が増えるとセーパーは考えており、このカテゴリーを「ディープコラボレーション」と呼んでいる。
「例えばモバイルアプリの設計ならフィグマ(Figma)、業務契約書の作成ならアイロンクラッド(Ironclad)というように、こうしたツールは特定の業務を行うために設計されています。携わっている全社員が同じソフトウェアで業務を遂行できるようなものです」
セールスフォース(Salesforce)の営業生産性ツールとSlackのチャットアプリの統合は「ディープコラボレーションの到来」だとセーパーは言う。
人事担当役員の需要がかつてなく高まる
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創業者や投資家であれば、従業員数を増やすということは、単に頭数を増やすということではなく「適切な」人材を見つけることだと知っている。そのため急成長中の企業にとっては、採用や従業員の定着を専門とする人材の重要性がかつてなく高まっている。
メンロ・ベンチャーズの人事担当役員、ジョーダン・オーモントは語る。
「2021年には『人事担当役員(head of people)』という役職が重要性を増すことは間違いありません。
採用活動が改めて本格化し、分散型組織に確実に一体感を持たせることが非常に重要です。創業者たちが人事担当役員を真のビジネスパートナーとして活用する事例が見受けられます。ロックスター並みに腕のいい人事担当役員がいない会社は、ぜひ採用するべきでしょう」
セブン・セブン・シックスのパートナー、ケイトリン・ホロウェイは、この10年で人事のプロは「舞台裏から表舞台へと出て」きて重役室を割り当てられるようになった、と言う。
ちなみにホロウェイは、元上司のアレクシス・オハニアンとともにスタートアップ投資家になる前は、レディット(Reddit)の人事担当役員だった人物である。
他の人事担当役員経験者も大きく飛躍するだろうとホロウェイは考えている。「今後10年で、人事経験者がベンチャー業界、政策、その他重要産業で大きな役割を果たしていくと考えます。初めから人事や文化のプロを巻き込めば、将来的に大きな違いとなって表れるでしょう」
気候テックに注目が集まり、多くのVCの投資先となる
気候テックのスタートアップ、アントラエネルギー(Antora Energy)は熱という形でエネルギーを貯蔵する電池を開発している。
提供:アントラエネルギー
気候テック(climate tech)業界は再び急上昇中だ。
データ会社のピッチブックによると、政府や主だった企業がCO2の排出量削減を約束するなか、投資家は毎年何十億ドルも気候テックセクターに投資しており、環境に優しいソリューションを扱うスタートアップに注目する者もいる。
Z世代と、排出量増加に罪悪感を持つZ世代の親世代が推進力となってこのトレンドが加速すると見るのは、モキシー・ベンチャーズの創業者ケイティ・ジェイコブス・スタントンだ。
「気候テックのスタートアップが時機に合わせて急増すると思います。地球温暖化を緩和し、温暖化に順応するためのソリューションを開発してくれるでしょう」
スタートアップの数が増えるにつれて、気候に特化したファンドや投資家も増えていくだろう。スタントンはこう付け加える。
「そのようなソリューションに出資するうえでは、金銭的なチャンスをより強く求めていくことになるでしょう。もちろんモラルが絶対条件なのは言うまでもありません。
気候テックはもはや投機的なニッチ市場ではなく、ベンチャーというエコシステムの中心に位置づけられていますから、あとは死ぬ気で取り組むのみです」
エドテックは学校再開後も教育現場で存在感を発揮
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2020年、エドテック(edtech)は「あればいいな」程度から「絶対必要」なものになった。学期中に休校を余儀なくされ、遠隔授業を行うためのソリューションを使わざるを得なくなったからだ。
コロナ禍の影響は学校再開後も長く続くだろう、と言うのはエドテックを専門とするライトスピード・ベンチャーパートナーズのパートナー、メルセデス・ベントだ。
ベントは在宅授業、オンラインで学ぶ大学生の社会経験を実現するツールや、サブスクリプション型の家庭教師コンテンツなどの登場をつぶさにウォッチしている。
シード投資案件は大型化し、新しいアーリーステージ投資の形ができる
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データ会社のピッチブックによると、2020年に行われたシード投資は軟調に推移した。コロナ禍が発生するなか、ベンチャーファンド各社は既存の投資先に資金を投じたからだ。
しかし内部関係者によると、シード段階の案件の量は例年と同じくらいあったという。ただ、シードラウンドの規模が徐々に大きくなっていることから、シード段階をリブランドする動きが見られるそうだ。
「シード投資の意味合いが変わり始めていると思います」と言うのはCRVのゼネラルパートナー、マックス・ゲイザーだ。
ゲイザーはプレシード段階の活動や、ジャンボシード(「アボカドシード」「マンゴーシード」と称されることも)と呼ばれるラウンドでの活動の増加をウォッチしている。また、こうした投資段階にフォーカスするベンチャー企業やシングルパートナーファンド[訳注:パートナーが1人だけの投資ファンド]の勃興にも着目している。
「シード投資が停滞していると思われていますが、ある種のシステム的指標やスローダウンのせいというより、ラウンド名や投資段階の名称の再分類が進んでいるのだと思います」とゲイザーは語る。
これに対し、リーラー・ヒッポーのパートナー、グレアム・ブラウンは別の理由からシード投資の減少を説明する。第3・第4四半期に案件数が上昇したが、まだ報道されていないというのだ。
「現在アーリーステージを狙っている資本の量からすると、2021年のシード投資環境は相当活発になると思われます」とブラウンは言う。
次世代のエンジェル投資家が現れる
ニューヨークのタイムズスクエアで、ナスダックの電光掲示板に表示されるエアビーアンドビーのロゴ。
REUTERS/Carlo Allegri
2020年はエアビーアンドビー(Airbnb)、ドアダッシュ(DoorDash)、スノーフレーク(Snowflake)をはじめ、数多くのユニコーンが上場を果たした。こうした企業の社員は、まもなく株式市場で持ち株を売って現金化できるようになる。
「ここのところのIPOの影響で、2021年は流動性が高まるでしょう」と言うのはアレーVCの創業者、シュルティ・ガンディだ。現金を潤沢に持つスタートアップの従業員が、自ら投資を試みる可能性がある。
機関投資家は他人の資金を使って非上場企業の株式を購入するが、エンジェル投資家は自己資金を使う点が異なる。
オンラインイベントの形が変わる
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オンラインイベントを主催するためのテクノロジーに資金を投じる投資家もいるが、オンラインのライブイベントは予防接種を受けた人が増えれば先細りとなると見る者もいる。
「対面で安全に集まれるようにさえなれば、大規模なイベントや会議やコンサートにオンラインで参加するのはあまり魅力がなく、勢いが落ちるでしょう」と言うのは、先述のリーラー・ヒッポーのグレアム・ブラウンだ。
「大規模なリアルのイベントをある程度の規模でオンラインに移行しても、良いところが損なわれてしまうと思うんです」と言うのは、クライナー・パーキンスのパートナー、バッキー・ムーアだ。
「大きなカンファレンスなどは分割して、小規模でより親密なイベントの形で行い、参加者が学びを深め、意義あるつながりを持てるような形になっていくと思います。だから当社はウェルカム(Welcome)に投資しているのです」
ウェルカムはオンラインイベントを作成するソフトウェアをつくる会社だ。ステージやブレイクアウトルーム、それにラウンジまで備えて参加者が交流できるなどの機能を備え、実際に集まっているように感じられるプロダクトだ。
企業はメンタルヘルス対策予算を増やす
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バーチャルセラピーや瞑想を社員の福利厚生として販売するスタートアップにとって、コロナ禍は追い風だった。従業員がこの世界的な混乱期に対処できるようにと、契約企業数が増えたのだ。このトレンドは2021年も続くだろう。
「2020年の出来事はメンタルヘルスへの認知を高める警告の役割を果たしました」。セブン・セブン・シックスのパートナー、ケイトリン・ホロウェイはそう語る。
「社員の幸福度を高める方針を持つ会社が増えていることに加え、企業はより多くの予算を、福利志向の人材開発プログラムや社内のサポートグループ、人事経験のある幹部をトップレベルのポジションに採用する等の形で、メンタルヘルス対策を行うようになるでしょう」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)