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【独占】Sansan寺田社長「ここ20年で初めて“追い風”感じる」……21日に東証一部に“鞍替え”コロナ下でも順調の理由

Sansan寺田親弘氏

Sansan社長の寺田親弘氏。東証一部への鞍替えを発表した当日の取材となった。

撮影:伊藤有

クラウド名刺管理サービス「Sansan」やビジネスSNS「Eight」などを展開するSansanが1月21日、東証マザーズから東証一部へと市場変更する。

東証マザーズに上場した2019年6月から、実に1年7カ月での「鞍替え」だ。同時に公表した2021年5月期第2四半期決算がコロナ下の影響を含んでも好調だったことが好材料となり、発表翌日の1月15日の株価は上場来高値を更新し、ストップ高となった。

同社を率いる創業社長の寺田親弘氏に好調の背景や、新規事業への自信、年頭所感で掲げた「ビジネスインフラになる」という言葉の真意を聞く。

「オンライン名刺」はSansanの価値を伝える大きな武器

Sansan寺田親弘氏

撮影:伊藤有

2021年の最初の月のインタビューということで、「どういう年になると思うか」と聞くと、意外にも「今年は“ビジョンを掲げる”というのが目標」だという答えが返ってきた。

なぜ意外かと言えば、これまで寺田氏は「会社にビジョンは必要ない」と言い続けてきたからだ。

さらに寺田氏はこう続けた。

「これまで僕らはずっとミッションドリブンでありたいと思ってきた。会社はミッションを達成するためのプロジェクトだから、目的は必要だけどビジョンはいらないと言ってきました。

ただ一部上場まで行って、そんな少年みたいなことも言ってられない。

自分たちがどんな存在なのかをステークホルダーに示すために、“ビジネスインフラになる”ことを本当に覚悟を持って、ビジョンに掲げると決めました」

寺田氏は、インタビューに先立つ2021年の年頭所感で、「ビジネスインフラになる」をビジョンに掲げることを宣言している。この言葉自体は寺田氏が以前から口にしていたものだが、改めてビジョンとして掲げたのは、自身の覚悟を表明したかったからだとする。

コロナによって社会は大きく変わった。競争環境の激変で苦しむ企業は国内外を問わず数多い。

一方のSansanは、第2四半期の累計(6カ月実績)連結決算は、売上高が前年同期比21.3%増の76億3600万円、営業利益は同525.4%増の6億8600万円と、「名刺の交換が減った」とも言われるコロナ下の決算としては上出来に見える。

sansan01

Sansanの2021年5月期第2四半期の決算資料より。Sansan事業とEight事業それぞれの状況がよくわかる。

Sansanの2021年5月期第2四半期の決算資料

しかし、寺田氏にとって四半期決算の内容は必ずしも満足のいくものではなかったようだ。

「コロナ禍を踏まえたガイダンス(今期の業績見通し)の範囲の中では、一定の結果を出せたとは思いますが、僕自身は正直なところ良かったという感覚はあまりないです。本来はもっと高く、トップライングロース(売上高の成長)をもっともっと伸ばさなきゃいけないと肝に銘じている。ただ、2022年5月期にもう一度売り上げ成長率30%を目指すにあたって、そこに向けた仕組みはできつつあるかなという手応えはあります」

コロナ禍で名刺交換の機会が減る中でも結果を出せた背景には、とはいっても「名刺に置き換えられる手段がない」ということがある。Sansanのデータの動きを見る限り、少なくとも「最初の緊急事態宣言後の数カ月は普通に名刺交換が行われていた」(寺田氏)というし、オンラインで名刺が交換できないことを、むしろ不便に感じていた人も少なくないはずだ。

何だかんだ言っても、人は名刺を使い続けているのだ。

「名刺なしに顧客管理とかコンタクト管理をどうやってやるのかという問いに、答えがないというのが大きいと思います。会社として接点情報とか出会いの情報をデータベース化しようというときに、

他に方法がありますか?ということです」

Sansanは2020年3月に、オンラインで名刺交換ができる「オンライン名刺」を発表。名刺のオンライン化はまだ黎明期で、これがあるからサービスを使いたいというところまでは道のりは長そうだが、「オンライン時代にあってもSansanが必要なツールだということを理解してもらうためには、非常に大きな武器になっている」(寺田氏)という。

コロナ禍でリモートワークがなかば強制された結果、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が一気に加速し、「情報がクラウドにあり、共有できる価値」に対する理解が格段に進んだことも、追い風となった。

だが、一方でSansanの営業手法については、あまり変わっていないとも言う。

「DXやオンライン名刺が前面に出がちですが、我々のサービスをどういう形で提案したら一番刺さるかということは、時代やその時々の色々な変化をとらえて、訴求のポイントを変えるなど、これまでも当たり前にやってきたことです」

寺田氏は今後の見通しについて、「ポストコロナになっても、名刺交換の機会はコロナ前より2~3割は減るだろう」と冷静に分析する一方で「Sansanの価値は名刺というものの具象ではなく、人と人が出会った記録をつけていく場所というところにある」と話す。

「名刺では連絡先や互いの情報を瞬時に交換できるだけでなく、交換する行為がコミュニケーションになる。オンライン名刺でそれが全部代替できるとは思っていません。が、それをやるのが我々のミッションだと思って取り組んでいるし、他方ではメールのやりとりから、名刺的なものを再現する研究開発も進めています」

事業の新たな柱をめざす「Bill One」

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Bill Oneのサービスイメージ。

Sansanの2021年5月期第2四半期の決算資料

Sansanは1回目の緊急事態宣言下の2020年4月、紙の請求書をデジタル化するクラウド請求書受領サービス「Bill One」を立ち上げた。Sansan、Eightに続く第3の主力サービスとして取り組み、2020年12月には事業部も新設した。現在、契約件数は2020年6月末の10.6倍となるなど順調な立ち上がりを見せているという。

同事業部長にはSaaSビジネスに精通した人材をアサインし、人材採用もマーケティングも「(投資の)アクセルベタ踏み」(寺田氏)で進めているという。

「請求書は名刺と似ている。名刺が人と人の繋がりだとしたしたら、請求書は企業の企業との繋がり」(寺田氏)。Bill OneはSansanと並ぶ主力事業になるかとの質問には、表情を変えることなく、「僕はそう思っています」と自信を覗かせた。

Sansan寺田親弘氏

東京・表参道のSansan本社オフィスにて。取材日にもほとんど社員は出社していなかった。それでも、Sansanのビジネスはまわっている。

撮影:伊藤有

まだまだ売り上げ規模は小さいとしながらも、Bill Oneへの自信は相当に高い。インタビューの中で「20年、ビジネスをやってきてはじめて“追い風”を感じている」と口にするほどだ。

「追い風」の正体を深掘りすると、「紙の請求書のデジタル化」は、リモートワークが欠かせない今の時代に必要性が伝わりやすく、顧客獲得が(Sansanの立ち上げ当初に比べて)想像以上にスムーズに進んでいる、という背景があるようだ。

Bill Oneは現時点では売り上げ規模などの状況を開示していないが、そう遠くない先にも決算などで開示できるタイミングがくるのでは、と寺田氏。

「来期(2022年5月期)には成長率を嵩上げする武器になるんじゃないかというスピード感で立ち上がっている。2022年5月期に売り上げ成長率30%以上を目指す中でも、大きな柱になると思っています」

急速な立ち上がりを見せている背景には、Sansanがこれまでに培ってきた文字情報のデジタル化のノウハウ、営業力、マーケティング力、市場などから調達した資金を、Sansan自身が「一気に投下できるフェーズ」(寺田氏)にあることも大きい。

「(Sansanの立ち上げ当初は)利用企業が増えればパンクするし、少なければコストが上がるという難しい課題を、セキュリティも保ちながら、自在にスケールアウト、スケールインできるまでに10年かかりました。請求書のデータ化にも名刺と同じ課題があって、それは僕らにしか解決できない」

さらに寺田氏は言葉を続ける。

「今なら培ってきたものを一気呵成にバンと突っ込んで、愚直なように見えてスピードが出る戦い方ができる。実際に(Bill Oneは)Sansanとはまったく違うスピード感で立ち上がっている手応え、実感があります」

「上場ストーリーにおいて、やり残した宿題」

sansan03

Sansanはイベントテック事業も立ち上げている。現時点の売り上げ規模としては、BIll Oneよりこちらの方が大きいという。

Sansanの2021年5月期第2四半期の決算資料

東証マザーズから一部への鞍替え承認は、もちろん市場変更の条件を満たしたからではある。それでも「なぜ今なのか」というのは誰しも気になる。

寺田氏の回答はこうだ。

「一部上場は株式上場ストーリーにおいて、やり残した宿題」

「(一部上場になることで、宿題は果たした。あとは)本質的な企業価値の向上へと向かっていくのみ」

起業家、経営者にはさまざまなタイプがいるが、寺田氏はどちらかと言えば淡々とビジネスの仕組みを設計し、ひたすら実直にやり切るタイプの経営者という印象が強い。

特にかしこまることなく答えたのも、実直な寺田氏らしい回答とも言える。

それにしても、会社のビジョンに「ビジネスインフラになる」という強い言葉を掲げるのは、人によっては、壮大すぎると感じる気もする。

何をもってビジネスインフラとなったと言えるのか?

寺田氏は、これができたらというものがあるわけではないが、新しいイノベーションだったものを、文化として根付かせる……そういうことを重ね続けていくことでしか、「テクノロジーカンパニーとしてインフラは名乗れない」とも話す。

インタビューの最後を寺田氏はこういう言葉でしめくくった。

「そもそもビジネスインフラになるなんて、なかなか口にできないこと。今それを真っ正面から言える位置にいること自体が誇りだし、だからこそ覚悟を持ってちゃんと掲げたい」

(聞き手・伊藤有、文・太田百合子

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