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「こうあるべき」を捨てればいい。子ども抱きあげられなくても、母であり経営者であり私だ

portrait

元山文菜さん。外からは見えない下肢障害と向き合いつつ、コンサル会社経営、NPO理事、子育てをしてきた。

撮影:岡田清孝

新型コロナに見舞われた2020年、そして2021年は、働く時間や場所について、多くの人が否応なしに見直すことになった。働き方改革関連法(2019年4月施行)とはまた違った次元で、「どう働くか?」「働くとは何か?」の問い直しが進んでいる。

株式会社リビカル代表取締役・元山文菜(あやな)さん(40)は、業務コンサルタントであり、障害者支援NPO法人施無畏(せむい)の理事も務める。プライベートでは一児の母だ。

3つの軸を持つ経験から元山さんが提唱する「かくあるべきを捨てる」について聞いた(以下、談話)。


子どもを抱きあげられない身体

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元山さんとその長女。子どもを抱きあげることができない現実を受け入れながら、子育てをしてきた。「ずっと『乗っちゃダメ』と言い聞かせてきたが、この時は初めて自分から乗っかってきた」。忘れられない一枚。

提供:元山文菜

成長過程で骨盤の「屋根」が育たず、股関節が変形する臼蓋(きゅうがい)形成不全症のため、21歳の時に手術をして以来、人工股関節を使用しています。私は重い物を持つことができません。人工股関節の消耗を早めてしまうためです。

この障がいのために、私は出産以来、これまでに一度も子どもを抱きあげることができませんでした。

病院や公園など、世間一般的に「母親が子どもを抱くべき」とされる場面で、自分だけそれができないと、周囲の視線が突き刺さるように感じて辛かった。私は、見た目で障害があることが分かりにくいため、何ができないのか、理解されづらいのです。

ですが今、これまでの子育てを振り返ってみて、子どもをたくさん抱きしめた自信はあります。私なりのやり方で、子どもに愛情を目一杯伝えてきました。

私は「普通」にできないことがある中で生きてきました。「母親とはかくあるべき」という固定観念に囚われていては、子育てはできなかった。

そうした経験は、いくつかの仕事を経てたどり着いた、業務改善コンサルタントという今の仕事にもつながっています。

業務改善は「かくあるべき」を捨てることから始まる

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元山さんがコンサルの仕事で使用しているノート。業務プロセスをフローチャートにして書き起こし、課題を洗い出す。

提供:元山文菜

美容師、文房具メーカーでの商品企画、富士通での業務改善を経て、業務コンサルタントとして独立しました。

富士通に転職した時からバックオフィスのBPR(業務改革)などに携わるようになり、9年半勤務。2018年にNPO理事の活動との両立を考えて、退社してリビカルを立ち上げたのです。主に中小企業や病院をクライアントに、業務コンサルティングや講演活動を行っています。

職場の人がイキイキ働くために大事なことは「個を活かしたビジネスプロセス」「個を活かした効率化」だと思っています。

個人の特性に合った仕事を割り当てるように業務改善をすると、誰もが働くを楽しめるようになります。

例えば、私は走ったり長時間歩いたりすることができませんし、体力もあまりありません。

ですが、かつて文房具メーカーの商品企画部で働いていた時には、立ち仕事や外回りの仕事をすることも求められていました。そのため、仕事を続けていくのが難しくなったことも。今なら体力的にきつい仕事は、無理にしなくていいような業務改善ができるはずだと、分かります。

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撮影:岡田清孝

富士通時代には、出産で股関節が壊れてしまい、新たに人工股関節を入れる手術が必要になりました。休職している間、自分は取り残されたような気持ちになりました。今なら、テレワークを導入していれば、休職する必要がなかった、と言えるでしょう。

今、私は「業務改善は『かくあるべき』を捨てるところが出発点」と常に言っています。

「ビジネスメールは『お世話になっております』の一文から始めるもの」

「会議は対面でするもの」

そうした「かくあるべき」は山ほどあります。ですが、常にそう囚われていては、働き方改革は進みません。

働くとは「役割を与えられること」

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元山さん(写真右)が活動するNPOでのフリーペーパー「Co-Co Life☆女子部」校正作業。障害のないスタッフとあるスタッフが混じって働く。

撮影:長谷ゆう

「働く」とは「ある一定のコミュニティで何かしらの役割を与えられること」と、私は定義しています。どんな人でも、役割を与えられることで、いきいきできると考えています。

私は病気で美容師を断念し、手術のために入院した頃、お茶を飲む動作一つにしても他人に頼まなければなりませんでした。自分が「ただ生きているだけで、何者でもない」ように感じられて、つらかった。

ですがある日、病室の冷蔵庫の中を整理する当番を任されました。賞味期限切れの食べ物が入っていないかを確認するだけの仕事でしたが、やってみると、途端にいきいきとしてきた自分に気付きました。

これが、現在経営するリビカルの経営理念でもある「誰もが『働く』を楽しめる」の原体験となっています。そもそもの起業や障害者支援NPO活動にもつながっています。

今、私が活動している障害者支援NPOでも、日常動作や言語に困難があるがゆえに、それまでお世話されるばかりだった脳性まひの女性が、「事務局長」のような役割を与えられた途端に、「私が仕事しなければフリーペーパーが読者に届かない」という責任感を持って動くようになったのを見ています。

既存のシステムに合わなければシステムを変える

interview

コロナの今ほど「かくあるべき」を捨てるのに適した時期はない。

撮影:岡田清孝

今の企業のシステムはまだまだ、健常者男性、それも子育てをせずバリバリ働ける人によって考えられています。それ以外の人々は、何とかして既存のシステムに合わせようと必死に頑張っているのが現状です。

特に私は見えない障害ゆえに、「本当はもっとできるのに、サボっているのでは」というまなざしで見られることもあり、そのたびに悔しさを味わってきました。

私は女性や障害者など、この既存のシステムに合わない人が「仕事ができない人」と思われていることに大きな問題意識を持っています。バリバリ働ける人にあてはまらない、体力のない人、子育てをしている人などは、「仕事ができない人」に分類されてしまうかのような仕組みに。

人を責めるのではなく、仕組みを疑う。

それこそが「既存の仕組みが働いている人に合っていなければ、それを変えていくのがいい」と考え、業務改善が私のライフワークになった理由です

私は一度も子どもを抱きあげることはできませんでしたが、できないことを受け入れました。「母親とはかくあるべき」という考えを捨て、仕事と子育てを両立してきた事実が私の根幹にあります。業務改善も「かくあるべき」を捨てるところが出発点です。

日本は人口減少時代に入り、「多様な人材を活かした新しい働き方」への変化が求められるようになっています。さらに「人に会う」という行動に制約をかけたコロナ禍で、「もはやコロナ以前には戻れない」という意識は高まっています。

「かくあるべき」を捨てるのに、2021年の今ほど適した時期はないのです

(文・長谷ゆう、写真・岡田清孝)


元山文菜(もとやま・あやな):株式会社リビカル社長、業務コンサルタント。特定非営利活動法人施無畏理事。1980年生まれ。美容師、文房具メーカー商品企画、富士通を経て、2018年に株式会社リビカルを設立。2020年11月に沢渡あまね氏との共著『業務改善の問題地図~『で、どこから変える?』~進まない、続かない、だれトク改善ごっこ』を出版。

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