起業すれば、事業がうまくいかず資金難に陥ったり、仲間が離れていったりという答えのない難問、深刻な危機が次々と襲ってくる。シリコンバレー最強の投資家ベン・ホロウィッツは、起業家たちに向け、こうした窮地やつらい経験、「HARD THINGS」にどう立ち向かい、乗り越えていくのかを著書に書いた。
しかし、ビースポーク社長の綱川明美(34)と話していると、この「乗り越えた感」、つまり悲壮感や苦労を感じさせない。ピンチがなかった訳ではない。むしろ話を聞くと、思わず聞き返してしまうほどの大ピンチに何度も見舞われているのに、その経験をゲームの中で次々と敵を倒してレベルを上げていくのを楽しむかのように話すのだ。
「嫌われても、死ぬ訳じゃない」
2年前の冬。クリスマスで街には仕事納めの雰囲気も漂っていたのに、綱川たちは社員総出でパソコンに張り付いていた。システムをアップデートしたら不具合が生じてしまったのだ。AIによる自動応答がウリなのに、社員が人力で外国人観光客らの質問に対して回答を打ち込んだ。足りない人手は、クラウドソーシングのFreelancer.comなどで集め、1週間サービスを止めず人力ボットで乗り切った。
「でもあの経験があって、余裕を持ってスケジュールを組むとか学んだんですよね」
資金が尽きかけたことも5、6回。
「その時は、投資家の方に『あと◯️日でなくなります』『あと2日です』とメッセージを送り続けて……。その方には人が採用できない時も、『人が足りないからお腹が空いてもランチに行けません』って。1日数回連絡する、って予定に入れているんです」
—— そんなしつこくして嫌われませんか?