アクセンチュアのプロ集団「インダストリーX」が2021年、注目する分野とは?
かつて日本企業のお家芸だった「ものづくり」。しかしいま日本の製造業の勢いは削がれ、グローバルマーケットで遅れを取る部分も出てきている。そんな製造業をはじめとするさまざまな業界をデジタルテクノロジーの力で変革していくのが、アクセンチュアのインダストリーXグループだ。組織を統括する河野 真一郎氏に、日本のものづくり産業の強みと課題、そして2021年以降の重要テーマを聞いた。
「インダストリーX」に込めた思い
河野 真一郎 (こうの・しんいちろう)氏。アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括、ビジネス コンサルティング本部 インダストリーXグループ日本統括 マネジング・ディレクター。日系広告代理店勤務を経て、1993年アクセンチュアに入社。自動車業界を中心に、製造業向けのコンサルティングに長年従事。アジア・パシフィック地域インダストリアルグループ(自動車・産業機械・物流)統括などを経て、2017年より製造業のデジタル変革を推進・支援するインダストリーXグループの日本統括を務める。
提供:アクセンチュア
アクセンチュアにはさまざまなセクションがあるが、主に“産業とものづくりを根本から変える”ことをミッションとしているのが「インダストリーX」だ。
「インダストリーXの“X”は、ドイツの国家プロジェクトである『インダストリー4.0(第4次産業革命)』のさらなる進化系を表しています。既存産業の変化だけではなく、産業がクロスしたり融合したりし、思ってもいない新しいサービスや業務プロセスへと進化を遂げていく。それを我々がリードするという、未来の予見とともに立ち上がった組織です」(河野氏)
具体的には、IoTやロボティクスなどデジタル技術を活用したビジネス戦略の提案や、新製品の開発、サービスデザイン設計といった入り口の部分から、試作、生産、導入まで請け負う。さらには商品を物流に乗せて、消費者に届けるまでの一連のサプライチェーンの管理や、アフターサービスの構築まですべてがインダストリーXの支援対象だ。
その各ステップにおいて、アクセンチュアが持つデジタルテクノロジーやグローバルネットワークを活用したさまざまな知見が注ぎ込まれる。近年、アクセンチュアは多くのソフトウェア企業を買収し、社内にノウハウと人材を蓄積している。インダストリーXでは、これらの資産を使って、ものづくり企業の変革をサポートしているのだ。
世界に遅れをとった日本の「2つの弱み」
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日本は長く、自動車や家電など、製造業による“ものづくり”を得意分野としてきた。しかし、産業や製品のデジタル化、さらには製造拠点のグローバル化が進んだことにより、そのアドバンテージは現在失われてしまっている。
「日本は20世紀のものづくりにおいて、世界トップクラスの品質水準でした。しかし、21世紀に入りデジタルテクノロジーが進み、機能や品質など“モノ”のブラッシュアップの観点ではなく、消費者の意向を取り入れて柔軟に変化対応していくようなサービス開発の必要性が高まりました。その部分は日本メーカーの課題であると感じています」 (河野氏)
さらに、かつて強みだったエンジニアリングの部分にも問題があると河野氏は続ける。
日本の製造業は現場の能力が高く、設計時からズレがあっても現場で修正対応することができ、それが品質の高さにつながっていた。しかし、製造拠点がグローバル化した今、その匠の技ゆえのやり方が、逆に足かせになるという。
「欧米や中韓のメーカーは、元来、設計初期の段階に重きを置き、120%の完成度になるまで緻密な設計を行った後に実行に移すやり方が主流でした。そうでないと製品が完成しないからです。このやり方がデジタル時代にマッチしました。IoTやAR、ロボティクスなどの先端テクノロジーを活用して、複雑化するものづくりにいち早く対応したのが欧米や中韓の企業だったのです。
ただ、日本のやり方が全て通用しないわけではありません。これまでのノウハウを活かしながら、マインドセットや仕組みを含めて支援していくのが私たちの役割です」 (河野氏)
2021年以降の重要テーマは「強いサプライチェーン」
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そして2020年、新型コロナウイルスの蔓延は、日本だけではなく世界中のものづくり企業に大きな影響を与えた。中国がロックダウンした際に物流が止まり、さまざまな製品や部品の供給が停止したことは記憶にも新しい。
「コロナ禍を経験した産業界の今後の課題は、“サプライチェーンの強靭さ”をどう保っていくか、です。一つの拠点ややり方に依存していると、そこが崩れると全て崩れてしまう。日々移り変わる状況に対して常にサプライチェーンを見直し続けなくてはいけない、と痛感しました。
しかし、それを人の力で行うのは非効率です。労働者不足が顕著になる今後、サプライチェーンをいかに自動化し、持続可能性と強さを保っていけるかがこれからのものづくり企業の最重要テーマだと感じています」(河野氏)
日本企業ならではの課題、そしてものづくり企業としての課題など、進化させるべきところや見直すべきところは山積みだ。
「我々の組織には、前職で自動車の設計をしていたメンバーや、ロボットエンジニア、事業会社のIoT事業企画など、さまざまな経験を有するメンバーが在籍しています。
共通しているのは、日本の産業界やものづくりに対して、誇りとともに“さらにこうしたい”というビジョンを持っていること。日本のものづくりを世界で再び競争力の高い状態に持っていきたいと、本気で思っている集団です」(河野氏)
インダストリーXには、専門領域を持つメンバーが数百人規模で在籍。横断型のプロジェクトも多く、知識や経験をかけ合わせて独自のソリューションにつなげている。日本のものづくり企業を再び世界トップクラスの存在へ。インダストリーXから産業を革新する新たなアイデアが生まれている。