なぜ大塚愛『さくらんぼ』が韓国で再ヒットしているのか?「日本音楽開放」世代が広める懐メロJ-POP

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2003年にリリースされた『さくらんぼ』。高校野球の応援ソングとしても人気だ。

画像:西崎圭一

「さくらんぼを発売してから、ちょうど17年たったとこで、「今韓国でさくらんぼが流行ってるよ!」と連日色んな人から教えていただき、감사합니다(カムサハムニダ)」

2003年の大ヒット曲『さくらんぼ』で知られるシンガーソングライター、大塚愛さんは2020年12月、このようにTwitterにつづった。というのも、2021年1月時点で同楽曲が、韓国を中心に世界でヒットしているからだ。

TikTokでは『さくらんぼ』の音源で35万件以上の動画投稿が確認でき、YouTubeでは12月上旬、公式の音楽ランキング「韓国:YouTube Music Charts」で10位に。「さくらんぼ、韓国」で検索すると、韓国のユーザーが投稿したカバー動画や、ダンス動画で、100万回以上再生されている動画がいくつもヒットする。韓国でのブームを受け、タイなど東南アジア圏でもTikTok投稿が行われており、ジワジワと世界に広がりを見せている状況だ。

なぜ、2003年にリリースされた『さくらんぼ』が20年近くの時を超えて再度注目を集めているのか?まずは、2020年に起こったリバイバルヒットを振り返ろう。

ブームの元をたどっていくと、複雑な変遷を経ていることが分かる。

2017〜2018年:韓国で火を点けた『にゃんこスター』ネタ

@nyancostar_angora

私たちのネタを韓国の方々がマネしてくださってるようなので撮りました!本家!나는 이 움직임을 만든 사람입니다.일본의 연예인입니다.한국의 여러분 흉내내 주어 고마워요.##にゃんこスター##なわとび##さくらんぼ

♬ Sakurambo - ai otsuka

最初のきっかけは、2017年に結成された日本のお笑い芸人、にゃんこスターが自身のネタに同曲を使ったことだ。にゃんこスターは「スーパー3助」と「アンゴラ村長」のコンビで、村長が『さくらんぼ』に合わせて踊り、3助がハイテンションにツッコミを入れるネタでブレイク。このネタは2017年にテレビや舞台など、いたる場所で披露された。

韓国で流行るきっかけを作ったのは韓国の人気俳優イ・ジョンソクさんが、2018年2月に、にゃんこスターのネタを真似した動画をTikTokに投稿したことだ

イ・ジョンソク

にゃんこスターの『さくらんぼ』ネタを真似したイ・ジョンソクさん。

TikTokより

TikTokに220万人のフォロワーを擁するジョンソクさんの動画は75万件以上の「いいね」が集まり大人気に。

思いがけず韓国で「にゃんこスター」の踊りと『さくらんぼ』は注目されることになった。

2019年:JYJ・ジュンスのカバー動画が250万回再生

このバズ現象をトレンドに押し上げたのが、元東方神起でJYJのキム・ジュンスさんだった。2019年4月、来日した際に開催したコンサートで『さくらんぼ』のカバーを日本のファンに向けて披露したのだ

いままで披露したことはなかったが、ジュンスさん自らがファンに届けたいと提案して実現したカバーソングだったという。『さくらんぼ』の被りモノをして楽曲に合わせたダンスも披露し、YouTubeにカバー動画(通称「歌ってみた」)を投稿、現在250万回以上、再生されている。

動画:김준수 XIA

2020年:韓国版ニコ生で「さくらんぼリアクション」がブームに

それまでは「にゃんこスター」の踊りを真似たTikTokでの投稿が中心だったのが「JYJ・ジュンスさんの振り付け」という、曲の全編にわたる新たな表現方法が加わる。2020年には、韓国版ニコニコ生放送とも呼ばれているライブストリーミング配信サービス「アフリカTV(Afreeca TV)」でブームが広がっていく

この配信サービスで人気の配信者は「BJ(ビージェー)」と呼ばれているが、BJの間でライブ配信中に『さくらんぼ』の曲に合わせて、ジュンスさんを真似したダンスを踊る「さくらんぼリアクション」というトレンドが生まれた。「さくらんぼリアクション」ダンスが広まると、次には、YouTubeでジュンスさんのカバー動画を真似するように、人気歌い手が楽曲のカバー投稿を行うようになった。

動画: Raon Lee

それに続くように再びTikTokでの投稿が活発に行われるようになり、2020年12月、韓国の人気アイドルWayV(ウェイブイ)のTikTok投稿は96万件の「いいね」を集め、2021年1月には、日本の人気アイドルグループ・JO1(ジェイオーワン)も、TikTokでハッシュタグ 「#さくらんぼチャレンジ」を行い、話題となっている。

にゃんこスターのネタを真似したイ・ジョンソクさんのTikTok投稿から約3年が経過しても、TikTok、ライブ配信サービス「アフリカTV(Afreeca TV)」、YouTubeと、韓国でプラットフォームを越えて『さくらんぼ』の人気動画は生み出され続けている。

2004年“日本音楽開放”と同時にヒットした曲

チョコビ

『さくらんぼ』再ヒットの背景には韓国の文化政策が隠されていた?(写真は韓国・釜山の街中にある店の様子)

撮影:西山里緒

ではなぜ、2020年の今になって『さくらんぼ』なのか?その背景には、日韓関係の変化における重要なポイントが隠されている。

今回のヒットの引き金を引いているのは、イ・ジョンソクさん(1989年生まれ)やJYJ・ジュンスさん(1986年生まれ)という、『さくらんぼ』をリアルタイムで聴いていた世代。さらには、BTSのJ-HOPEさんも同じくお気に入りの曲として『さくらんぼ』を挙げ、2018年に放送された音楽番組『MTV』内では、幼い頃にネットカフェで流れていたという思い出を語っている(J-HOPEさんは1994年生まれの26歳だ)。

つまり『さくらんぼ』を聴いていたのは20代から30代前半のミレニアル世代であり、それは言い換えれば韓国政府による「日本の文化開放政策」以降に育った世代ということでもある。

戦後、韓国では日本のアニメや映画、音楽などのポップカルチャーは長らく規制されていた。しかし、1998年に始まった金大中(キム・デジュン)政権から段階的に日本文化の開放が実施され、2004年には映画・音楽・ゲームが全面開放された

それ以前の時代から、J-POP音楽は闇市場で流通し、若者たちは隠れて楽しんでいたと言われている。

しかし解放後には、日本の大手レコード会社も現地法人を設立して積極的に韓国に進出するようになり、日本の音楽はより「日常的」なものとなった。社団法人日本レコード協会が2004年当時発行した機関誌によると、発売後1ヵ月で2万枚を売り上げたCDもあり、当時の日本の新聞報道でも音楽CDの売り上げは好調だったと伝えられている。

大塚愛

大塚愛さんの代表作『さくらんぼ』は、現在でもカラオケランキングにランクインしている。

Getty Images/Koichi Kamoshida

『さくらんぼ』のリリースは「文化開放」直前の2003年。発売時から日本でのCD売り上げは70万枚(アルバム売り上げ)を超え、大塚愛さんの代表的なヒット作となった。

韓国での詳細な売り上げ記録は確認できなかったものの、韓国でのリリース当時を知る人のSNSやブログには「街中でよく耳にした曲」だったと書かれている。

また韓国で2000年代前半に広く流行したブログ「ネイバーブログ」やコミュニティサービス「CyWorld(サイワールド)」でBGMとして広く使用されていた経緯もあり、当時の韓国の若者にとって『さくらんぼ』は、馴染みのある曲だった。

J-POPに影響されたK-POP世代

BTS

昨年にはグラミー賞にノミネートされたBTS。メンバーはJ-POPに影響を受けたと公言しているそうだ。

Getty Images/Frazer Harrison

火付け役のひとり、JYJ・ジュンスさんは、インタビューで大塚さんとは仕事で何度も会ったことがあり、よく曲を聴いていたと語っている。

ジュンスさんのように、2000年代のJ-POPに影響を受けたことを公言するK-POPアーティストは多い。同じくBTSのメンバー、パク・ジミンさんはお気に入りの曲としてYUIさんの『Good-bye days』を挙げ、テレビのインタビューで「幼い頃に映画(2006年の映画『タイヨウのうた』)で知って以来、落ち込んだ時によく聴いていた」との思い出を振り返っている。

大阪経済法科大学アジア太平洋研究センターの2015年の論考によると、韓国政府は日本文化開放と同時並行的に自国のポップカルチャー輸出に力を入れた。ドラマ、映画、音楽など、今日本を席巻している韓国カルチャーの独自の発展の元をたどると、その初期に文化開放政策の影響があったという見方をすることもできる。

今回のブームは「日本文化開放の影響を受けたK-POP世代」が発信拠点となり、それがTikTok、YouTube、ライブ配信と、現代のプラットフォームに乗ってあらゆる世代に広がったことが、SNSで表面化した現象ではないだろうか。

『さくらんぼ』リバイバルヒットのような、国境を超えた懐メロヒットが、今年もどこかで生まれる可能性は十分にありそうだ。

(文・西崎圭一、編集・西山里緒)

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