【ファッションで読むニュース】なぜプラダ、ミトン、紫か?大統領就任式の強烈なメッセージ

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アメリカ史上初の女性副大統領となったカマラ・ハリス氏の紫のコートドレス、22歳の詩人アマンダ・ゴーマンさんの黄色いプラダ。大統領就任式のファッションが伝えてくる新政権のメッセージとは。

GettyImagesからBusiness Insider 作成

アメリカ史上初の女性副大統領となったカマラ・ハリス氏の鮮やかな紫色のコートドレス、22歳の若き詩人アマンダ・ゴーマンさんが身にまとったプラダの黄色いコート ——。ジョー・バイデン大統領の就任式では、彩り豊かな装いに身を包んだ、出席者のファッションも世界中に配信された。

ハリス氏のコードレスは、ニューヨークを拠点に活動する26歳の黒人デザイナーが手掛けたもの。ミウッチャ・プラダ氏はジェンダーのステレオタイプに挑み続けてきたデザイナーとして知られる。

スーツのブランドからネクタイの色まで、政治家たちは自らをどう見せるかを意識している。

特に世界中の注目が集まる政治的な式典では「どのデザイナーを起用するのか、何色を選ぶか、どの国のブランドを選ぶのかで、強烈なメッセージを伝えている」。そう語るのは、ファッションエディターの軍地彩弓さんだ。

テレビドラマのヒロインから首相夫人まで、著名人のスタイリングも手がけてきた軍地さんに、就任式のファッションから見えてくるバイデン政権について解説してもらった。

黒人の新人デザイナー起用の意味することは多い

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ニューヨークの若手黒人デザイナーのブランドをまとったカマラ・ハリス副大統領。右は夫のダグ・エムホフ氏。

Reuters

「“多様性”をキーワードとするバイデン政権において、アフリカ・アジア系かつ女性であるハリス氏の副大統領起用はまさにその象徴。まだまだ少ない黒人の新人デザイナーを(就任式の衣装に)選んだことは、政権が今後、マイノリティを重視していくことをはっきりと伝えています」

非白人かつ女性初の副大統領で、大統領の座に最も近いとされるハリス氏のコートドレスを手がけたのは、クリストファー・ジョン・ロジャーズ氏。ニューヨークを拠点に活動する26歳の黒人デザイナーだ。ボリュームのあるシルエットやシャープなカッティング、ワントーンの大胆な原色を用いるデザインなどが特徴だ。

ロジャーズ氏は若手デザイナーの登竜門として知られる「CFDA/ヴォーグファッション基金アワード」などのアワードを2019年、2020年と連続受賞している。権威ある新人賞を取ったとはいえ、キャリアはこれからという若きマイノリティは、一夜にして世界にその名を知られることとなった。

「世界中に配信される大統領就任式での装いは、ブランドにとって大きな宣伝になる。新政権にとっても、二ューヨークを拠点に活動する若い才能を起用することは、自国のブランド、新しい世代を応援していくというメッセージに他なりません」

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ニューヨーク出身の新進気鋭のデザイナー、クリストファー・ジョン・ロジャーズ氏。大統領就任式のハリス氏のコートドレスで一気に注目を集めた。

GettyImage

ハリス氏が身にまとった鮮やかなパープル(紫)という「色」にも、重要な意味が込められているという。

「パープルを選んだのは、民主党のイメージカラーである“青”、共和党の“赤”を融合させた色だからと言われています。バイデン大統領は就任式のスピーチで繰り返し“unity(連帯)”を唱えていましたね。民主党、共和党の対立に始まり、トランプ政権下で深まった分断を乗り越えて行くのだというメッセージを示しているのでしょう」

「紫」は、赤と青を混ぜ合わせることで表れる色。就任演説で「民主党の勝利」ではなく「民主主義の勝利だ」と強調したバイデン氏の言葉と符合する

もう一つ。「紫」には、ある女性へのオマージュも込められている。1968年、黒人女性として初めて下院議員に当選したシャーリー・チザム氏だ。チザム氏は1972年、民主党の大統領候補者を争う予備選挙に黒人として、また女性としても初めて立候補した人物だ。

「チザム氏のテーマカラーもまた“紫”でした。その紫をまとうことで、人種差別や女性差別と戦う道を切り開いてきたチザム氏への敬意が示されています。アフリカとアジアにルーツをもつ有色人種の女性であるハリス氏が、多様性を体現していく決意が込められていると言える」

プラダが問い続けてきたフェミニズム

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プラダを選んだアマンダ・ゴーマン氏と2020年秋のプラダコレクション。

GettyImages (左)とReuters

就任式でもう一人の「主役」となったのが、自作の詩の朗読で観衆の胸を打った若き詩人のアマンダ・ゴーマン氏だ。ゴーマン氏の鮮やかな黄色のコートがプラダのものであることも話題になった。

「赤いヘッドバンドも、イエローのコートもプラダで、すごくミレニアルらしい選択だと思いました。というのも、デザイナーであるミウッチャ・プラダ氏は毎シーズン、ジェンダーのステレオタイプなイメージを超えたコレクションを発表している。ゴーマンさんはガーリーな上半身に対し、足元は “ サフィアーノ”シリーズのマニッシュ(男性的)なブーツ。ガーリーなものにハードミックスさせるギャップにも、強い意思を感じさせます」

アメリカンドリーム象徴するラルフローレン

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バイデン大統領はナショナルブランドのラルフローレンで安定感。

Reuters

新たな大統領となったバイデン氏はラルフローレンのスーツだった。ラルフ・ローレンはニューヨーク出身のデザイナーで御年81歳。オリンピックでアメリカ代表のユニフォームを手掛けるなど、国民にも馴染みのあるブランドだ。

「ラルフローレンはブルックス ブラザーズと並んでアメリカにおけるスーツの2大巨頭ともいえるナショナルブランドです。ただしブルックス ブラザーズが英国調の正統派なスーツであるのに対し、ラルフローレンは アメリカン・トラッドをベースにしており、アメリカン・ドリームの象徴。

伝統的な英国調ではなく、アメリカの文化を象徴するナショナルブランドの誇りを体現するという、バイデン氏の意図もあるかと思います」

国際舞台で活動する政治家には一人ひとりスタイリストが付き、イメージコンサルタントの役割を担う 。

何を着るか。デザイナーは誰を起用するか。TPOにどう答えるか。それによって彼女・彼らの政治家としての考え方が分かります

あえて洗練しないのもトランプ氏の戦略だった?

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トランプ前大統領といえば大きめのシルエットのスーツに赤を基調としたロングネクタイ。

REUTERS/Carlos Barria

例えば、前大統領のドナルド・トランプ氏は、1980年代に流行したような肩パッドにオーバーサイズのシルエットのスーツ、長い赤いネクタイが定番だった。

「まさに不動産会社社長のスーツといったテイストで、1980年代に巨額の富を得て成功した頃のまま。しかしあの泥くささが、レッドネック(白人貧困層を指すスラング)と呼ばれたりラストベルトに住んでいる白人労働者階級には、安心感を与えるという狙いがあるのでしょう」

それによってオバマ大統領やヒラリー・クリントンのような、洗練されたエリートやエスタブリッシュメント(支配階級)のイメージに、反感をもつ層の支持を取り込んでいく。

「トランプにとっては自分のスタイルを曲げないことが支持を作ったと言えますが、ファッションはそれほどまでにその人の生き方まで表します

「機能的で派手ではない」サンダース氏のミトン

ちなみに、就任式ではバーニー・サンダース上院議員のクラシックな茶色と白のミトンもテレビ中継を通じて、SNSを中心に話題を集めた。これはバーモント州出身のサンダース氏に、同州の教師から贈られたもので、セーターをリサイクルして作られているという。

華やかなブランドがそろう政治シーンのファッションの中で「機能的で派手ではないというサンダースらしい」とSNS上は好意的な意見であふれ、アメリカ人の心をわしづかみにしたようだ。

政治とブランドはこれまでになく近くなっている

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世界が注目する政治シーンでファッションが伝えてくることは少なくない。

AP Photo/Andrew Harnik, Pool

4年間のトランプ政権は、暴徒化した支持者らによる連邦議会議事堂の襲撃という衝撃的な顛末を迎えた。 バイデン政権は民主主義の再生という重い課題を背負う。

「多様性や分断を超えた融合、新しい希望を作っていこうというバイデン政権の姿勢はファッションがもの語っています。ファッションは政治家にとって強烈な公式メッセージなのです」

歴史的に政治シーンにおけるファッションは重要な意味をもつが、軍地さんは「かつてないほどブランドと政治は近くなっている」ことも指摘する。

消費が選ぶ人の意思表示へと変わりつつある時代に、どんなブランド、どんなメーカーを選ぶかが、これまで以上に政治家にも問われています。労働搾取や人種差別を経営者がするようなブランドを選べば大きな問題になる。

ブランド側にしても、(黒人に対する人種差別撤廃を訴える)Black Lives Matterが盛り上がった時、むしろ政治的なことに対し声をあげない企業が批判されました。

これからは道義性をもち、それを示していけるブランドしか、生き残れない時代が来るとも言えるでしょう」

(聞き手・文、滝川麻衣子

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