エジプトの首都カイロの南のあるサッカラで発見された棺。2021年1月17日。
REUTERS
- エジプトのサッカラで、4200年前の女王の葬祭殿が発見された。
- 50個の封印された木製の棺や、「死者の書」を抜粋した巻物も発見された。
- 研究者らは2020年9月以降、サッカラで200個以上の棺を発掘している。
エジプト、カイロの南にある砂漠の中の「死者の町」サッカラ。古代エジプト人は何千年もの間、ここの地下に埋葬されてきた。
一方、4200年以上前の統治者であるテティ王のような王族は、妻たちとともにピラミッドに埋葬されている。2010年には、サッカラでテティ王の妻の1人のものと見られるピラミッドが発見されたが、内部の壁に彼女の名前は刻まれていなかった。
古代エジプト王族の一員であるこの女性の正体は謎だったが、新たな発見がその答えをもたらした。エジプト考古省が2021年1月17日に発表したところによると、テティ王とその妻たちが埋葬されたピラミッド近くで、「ニアリット女王」という名前が刻まれた壁がある葬儀用の神殿が発掘されたという。
「私は今までこの女王について聞いたことがなかった。これでエジプトの歴史にこの女王に関する重要な項目が追加される」とサッカラの発掘作業を率いる考古学者のザヒ・ハワス(Zahi Hawass)はCBSニュースに語った。
新発見があったサッカラの発掘現場。
REUTERS/Hanaa Habib
ニアリット(スペルはNearitあるいはNeit)女王は、この葬祭殿に埋葬されているわけではないと考えられる。というのも、そこは司祭が亡くなった王族を称える礼拝所だからだ。また、他の人々も、故人に食べ物や贈り物を供えるために訪問することができた。
同国考古省によると、葬祭殿の一部は以前から発掘が進められていたが、今回の発見によりその主のが明らかになったという。
砂漠の地下12メートルに埋葬された棺が歴史を書き換える
ニアリット女王の葬祭殿近くでは、テティ王と女王への供物が納められた3棟のレンガ造りの倉庫と、葬祭殿を建設するために使用された道具も発見された。さらに、52の埋葬用の縦穴も見つかり、そこには少なくとも3000年前のものである50個以上の棺が納められていた。
考古省によると、これほど古い棺がサッカラで発見されたのは初めてのことであり、これらは現在までにこの地で発見された最古の棺よりも約500年古いものだという。
この発見により、紀元前16世紀から同11世紀の新王国時代に、エジプト人が死者をネクロポリス(大規模墓地)に埋葬していたことが確認された。それはエジプト研究者がこれまで考えていたよりもはるかに早い時期だ。
今回の発見は「この地域の歴史を書き換えるものだ」とハワスは声明で述べた。
サッカラでは一連の発掘が行われており、今回の発見はその最新の成果だ。
2020年9月以降、砂の下の深さ12メートルの縦穴から、少なくとも160個の棺が発見されている。今回の発見と合わせると、棺の総数は210個以上だ。考古学者によると、新たに発見された棺の多くは、エジプトの神々を描いた絵や、死後の世界で魂を導くための古代の巻物「死者の書」を抜粋したもので飾り付けられていた。
発見されたすべての棺には、埋葬前に内臓が取り除かれ、亜麻布で包まれたミイラが納められていると思われる。これらのミイラは何千年もの間、棺の中に封印されていた。
カイロの南にあるサッカラの発掘現場。2021年1月17日。
REUTERS/Hanaa Habib
研究者らはそのうちのいくつかを開いてみた。2020年11月には、サッカラで発掘された棺の1つを、考古学者が観客の前で開く小規模なライブイベントが開催された。そして棺に入っていたミイラがその場でX線検査にかけられ、40歳か45歳で亡くなる頃まで健康だった小柄な古代エジプト人男性だったことが分かった。エジプト当局は2020年10月に行われた記者会見の際にも、ステージ上で棺を開いた。
ハワスと考古省当局者は1月17日、最近の発見を発表した。そこでも今回発見された50個の棺のうちのいくつかが開けられ、展示された。
発見されたのは、ミイラだけではない
ハワスのチームは棺の他にも多くの遺物を発見した。葬儀用の仮面、ファラオ軍のリーダーが持っていた青銅製の斧、鳥の彫刻、石灰岩の石碑、ジャッカルの頭を持つ死者の神アヌビスを祀った祠などだ。
サッカラで発掘された遺物。2021年1月17日。
REUTERS/Hanaa Habib
また、いくつかのボードゲームも発見された。その中には「セネット」と呼ばれるチェスのようなゲームもあり、これに勝てば死後の世界に行けると信じられていたという。
ある縦穴からは、長さ4メートル、幅90センチメートルのパピルスの巻物も見つかった。
この巻物には、「死者の書」の1つの章がすべて含まれ、死後の世界への道案内について説明されていた。埋葬用の縦穴からこれほど大きなパピルスの巻物が発見されたのは初めてだと、ハワスは述べた。
サッカラで発掘された棺。2021年1月17日。
REUTERS/Hanaa Habib
サッカラでの新たな発見は、これが最後ではないだろう。発掘が進むごとに、新しい埋葬用縦穴と遺物が発見されている。
「実際、今朝も別の縦穴を発見したところだ」とハワスは1月18日、CBSニュースに語った。
「そこで大きな石灰岩の棺が見つかった。縦穴から石灰岩の棺が見つかったのは初めてのことだ。さらにもう1つ発見されたので、1週間後には開封する予定だ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)