「変わり続けること」でしか生き残れない、ビズリーチ創業者が人材の次に挑むもの。

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ビズリーチ創業者で、ビジョナルグループ社長の南壮一郎氏。BizReach投資ファンドが出資を決めた、アートテックのbetween the artsの大城崇聡CEO。

撮影:竹井俊晴

HRテックの創業者が、アートテックに投資する——その真意とは?

ビジョナル傘下のBizReach(ビズリーチ)創業者ファンドは1月27日、テクノロジーを使ってアートを管理するbetween the arts社へ出資することを明らかにした。金額は非公表。7.6兆円とも試算される現代アート市場のうち、市場占有率がわずか1%未満という日本で、コロナ下での成長を見込む。

ビズリーチといえば、広告宣伝に投資し創業10年超で強烈に知名度を上げた人材プラットフォームだが、2020年2月に経営体制を刷新。人材特化を脱し、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を柱とする「Visional(ビジョナル)グループ」体制に移行した。

人材とは全く異なるアートテックへの出資は、その変化の象徴と言える。

「ゼロから全て作り替える『リセット』でしか、予想もつかない未来は作れない」と語るビズリーチ創業者で、ビジョナルグループ社長の南壮一郎氏に聞いた。

ビズリーチブランド看板にしなかった

「ふと思ったんですが、今日の話にはあの場所がベストなんです」

取材日当日、開始時刻の約5分前。

南氏自らの提案で急遽、もともとインタビュー場所としてセッティングされていた東京・渋谷のビジョナル本社から、別館への移動が決まった。

共に取材を受けてもらう、出資先のbetween the artsの大城崇聡CEOや広報担当者、記者やカメラマンも含む一同が、ビジョナル本社のある渋谷クロスタワーから、六本木通りを渋谷警察署方面へと横切り、別館へと歩く。その道すがら、この日の取材は始まった。

「長い付き合いの山田進太郎(メルカリ社長)ともよく話すのですが、ベンチャーの役割は社会に新しい仕組みを提供すること。(ダイレクトリクルーティングで事業を成長させた)ビズリーチでは一つ、それができたと思います。それを別業界でも横展開していく」

1月の寒風が吹き荒(すさ)ぶ中、コートも羽織らず足早に歩く南氏は、快活に話を続ける。外資系金融やメガベンチャー志望の熱心な学生が「会ってみたい日本の経営者」の筆頭として、その名前をあげる南氏。

アメリカのタフツ大学を卒業後、外資系投資銀行のモルガン・スタンレー証券、楽天イーグルス創業メンバーを経て、2009年にビズリーチを創業。今では売上高200億円超規模、社員約1400人の企業に成長させている。

しかし、1年前の2020年2月、南氏はビズリーチ社長を後継に譲り、新たに持ち株会社として立ち上げたビジョナル社長に就いた。知名度の高いビズリーチブランドを外し「ビジョナルグループ」を打ち出した狙いは、アートテックのスタートアップ、between the artsのへの出資にも連なっている。

聞いた瞬間からビビッときた

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「聞いた瞬間からビビッときた」と、出資の理由を話す、ビジョナルグループ南壮一郎氏。

「会社としてクリエイターを応援する取り組みを通じて大城さんを知りました。オンラインで初めて話をしたのが2カ月前の2020年11月。聞いた瞬間からビビッときて。この事業領域でこのビジネスモデル、この人なら応援したいなと。もう、瞬間ですよね」

ビズリーチ創業者ファンドとしては2社目。ビジョナルグループ体制になってからは初となる出資は、瞬時に決めたと南氏は言う。

移動先の別館で案内されたのは、国内外で活躍する日本人作家の現代アート20点あまりが、贅沢に壁に配置されたアートギャラリーだ。

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ビル・ゲイツ氏も作品を所有する松山智一氏(中央上)など、国内外のアーティストの作品が壁を彩る。

「クリエイターを応援する」という考えの下、会社としてアートコレクションを所有しているという。

併設のワークスペースは、エンジニアのための作業空間というが、社内はコロナ禍でリモートワークが主流になっているため、人気(ひとけ)はない。静寂のなかに浮かび上がる現代アートが並ぶ一角は、さながらアートミュージアムだ。

「これまで大城さんがやってきたトラックレコード(実績)がBtoBで、まず我々と一致している。さらにDXが遅れているアートとロジスティクス(物流)という、我々としては面白い領域でした。大城さんにはそこへの戦略があった」

ニューリッチ層がアートを買い出している

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アートコレクターとしての体験をベースにbetween the arts を創業した、大城氏。

南氏が瞬時に出資を決めたという大城氏は、どんなビジネスモデルを描くのか。

「今、働き方や稼ぎ方も変わっている中で、コロナを契機にニューリッチ層がアートを買い出しているのは事実なんです。今後、日本人の資産ポートフォリオの中に、アートが入ってくると思っています」

そう語る大城氏は、不動産のデジタル資産管理をするテックカンパニーの創業に携わり、東証一部上場を経験。経営者としては15年の実績をもつ。2020年1月、自身のアートコレクターとしての体験をベースにbetween the arts を創業した。

「資産の総額として見ると、アートが占める割合は実は大きい。不動産と同等の価値あるものがたくさんあるのに、日本のアート市場には不動産のようなアセットマネジメント(資産運用管理)の考え方がない。アートの資産管理会社がビジネスチャンスだと考えました」(大城氏)

さらにコロナ以降、現代アートの企画展を開けば、SNSで作品購入申し込みが殺到。はっきりした追い風を感じている。

between the arts のサービスはアートコレクションを無料でクラウド上で整理。自宅に保管できないものを預かり、温度湿度が徹底された環境に月500円で管理するほか、購入時期や金額などの資産価値がポートフォリオがスマホ上で整理される。

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ビジョナルグループがアートを所有することには「クリエイター支援」の意味があるという。

世界の現代アート市場の87%をアメリカ、中国、イギリスが占めており、日本市場はわずか0.4%程度。膨大な伸び代がある。

南氏は「僕はアートは全く素人です」と断りつつも、大城氏の着眼点に注目する。

「不動産のデジタルな資産管理から、アートのデジタルな資産管理へ。まさにそういう考え方の創業者が好きなんです。違う領域で、今まで成功してきたモデルを転用してやっていく。大城さんであれば新しい未来を加速させる仕組みを作れるんじゃないかと」

そこには、ビズリーチがビジョナルグループ体制に移行した仕組みに通じるものがある。

10年後に想像もつかない姿になっていたい

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次の10年をと聞かれて考えたのは「10年後にまた、想像もできない姿になっていたい」。

「創業10年を迎えるのを前に、次の10年どうなりたいか?を考えたのですが、もともと10年前に『今こうなっている』なんて想像できなかった。だから答えはシンプルで、10年後にまた想像もできない姿になっていたい、でした」

では「想像もできない姿になっている」ためにはどうしたらいいか。

南氏の答えは明解だ。

「またゼロから始めればいい。もう一度ゼロから創業するつもりでやらない限り、ただ積み上げていくだけになってしまう」

それこそが2020年2月、ビズリーチを傘下にもつ新しい持ち株会社「ビジョナルグループ」を設立し、新たな企業構造を作り出した理由だ。ビズリーチの創業からは11年が経っていた。

ビジョナルグループが柱として掲げるのは「産業のDX」。人材業界をDXしてHRテックを確立したビズリーチのモデルを、他業界へ展開するのが目的だ。

「構造から全部変える。一度、捨てる。何かの上に何かを作っても、本当のトランスフォメーションは起こらないと思っている」

そのことを自らが体現する必要があった。2018年の秋ごろにはすでに次の企業体への刷新を構想し、信頼するクリエイターに相談。ビズリーチ社長の後継は取締役だった多田洋祐氏と決めており、着々と体制を整えていた。

「むしろ我々らしいんじゃないか」

ビズリーチブランドをグループ名には入れずに、新体制へ移行する。この発表に世間からは「ブランディングを分かっていないのでは?」という反応があったのも事実だ。

しかし、そこも理解した上での決断に「社内から反対の声はなかった。むしろ我々らしいんじゃないか、と」(南氏)。

人材サービスのビズリーチを傘下に、そのイメージが先行するビジョナルだが、実はM&Aを経てグループ会社には物流DXのトラボックス。新規事業として事業承継M&Aのビズリーチ・サクシード、セールステックのBizHintなどDXを軸とした事業が取りそろっている。

「向こう5年は、地味だったり文化的だったり、新しい技術が活用されていない分野が面白いんじゃないかと思っている」(南氏)

必ず経済は悪化するという仮説の上でやっている

変わり続けられる会社と、変われない会社。新しい自分を作り出せる人と、過去の実績にしがみつく人。

Gettyimages/Vladimir Zakharov

体制変更とほぼ時を同じくして2020年初頭から世界はコロナ禍に見舞われ、そこからは経済も日常生活も、誰も想像の及ばなかった変化が起きている。

ただ、そこに南氏は拘泥(こうでい)しない。

「もともとコロナがあってもなくても、負の局面はやってきたと思います。我々は12年前のリーマンショック直後に生まれた会社で、必ず経済は悪化する時があるという仮説の上でやっている。その上で会社全体も常に黒字を達成してきましたから」

次の10年に産業DXを据えたのは、人材領域で起業した南氏にとっては必然だった。

「ビズリーチの事業を通じて見てきたのは、これからの時代の働き方が二極化していくことです。変わり続けられる会社と、変われない会社。新しい自分を作り出せる人と、過去の実績にしがみつく人。

会社も選ばれる時代になっていく。『常に挑戦し続けない限り選ばれなくなってしまう』。クライアント企業からもその危機感をひしひしと感じてきました」

そうして見ていくと、ビジョナルグループが次の10年で、HR(人材)テック領域に止まらなかった理由は、明白だ。

「変わり続けることが、これからの時代の経営もしくは個人のキャリアのキーワードだと思うんです。

今回のアートテックへの出資もそうですが、学びたいんですよ。未知な領域を、創業者を、応援することによって我々も学びたい。

変わり続けるために、学び続ける。それこそが現代の経営の一つの手法なんです

(文・滝川麻衣子、写真・竹井俊晴、取材協力・戸田彩香)

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