撮影:鈴木愛子
今回は読者の方からいただいたご相談にお答えします。テーマは「出戻り転職」。
「転職したけれど、やっぱり前の会社のほうがよかったな……って思ってるんです」
時々、そんな声をお聞きします。特に大手企業を辞めてベンチャー企業に入社したものの、「前の会社に戻りたい」と考える人は少なくないようです。
Aさんがどんな経緯で転職したのかまでは分かりませんが、入社して間もなくの頃からずっとモヤモヤを感じていたということですから、そろそろこの状況にしっかり向き合って悩みを解消したいですよね。
出戻り転職のメリット・デメリットは?
では、「出戻り」を希望した場合、前の会社に受け入れられるのでしょうか。
結論から言えば、前向きに検討する企業は多いと思います。
一昔前、終身雇用が当たり前だった時代には、途中で辞めていく人に対して裏切られたような感覚を持つ企業は少なくありませんでした。そのため「出戻り」には難色を示されることが多かったのですが、近年は大手上場会社であっても多様な人材を活用していく意識が高まっていますので、それほど抵抗はないでしょう。むしろ、以下の点はメリットと捉えられます。
- 自社の仕事を経験しているので即戦力になる。導入研修が不要
- 入社後にカルチャーギャップが生じる心配がない
- 採用コストをかけずに人員を確保できる
一方、「出戻り」にはデメリットがあることも覚悟する必要があります。
すべての人に当てはまるわけではありませんが、次のようなリスクをはらんでいます。
- 一度退職したことで、同僚からネガティブな印象を持たれている可能性がある。手放しでは歓迎されず、もとのような信頼関係を取り戻すのに苦労するかもしれない
- 「辞めたのにわざわざ戻ってきたということは、外で得た新しい知見やノウハウを持ち帰って活かしてくれるはず」と期待を寄せられ、過度のプレッシャーがかかる
- 出戻りを受け入れてくれたり後押ししてくれたりした人への恩義から、次に辞めづらくなる
このように、前の会社に戻ればすべてが元通り……というわけにはいかないこともあります。
再入社を受け入れられたとしても、前と同じ部署・職種に戻れるとは限りません。再入社後に配属された職場には以前のような快適さはなかった、ということだってあり得るのです。まずはその点を心得ておいてください。
「逃げ帰りたい」という気持ちなら、ちょっと待って
前の会社への再入社を図るなら、行動を起こす前に、次のことを自分に問いかけてみてください。
「今の環境から逃げたくて、手っ取り早い逃げ場所を求めているだけではないか?」
「前の会社に戻る以外に、状況を改善する選択肢はないのか?」
前の会社を辞めたことを後悔している方々の話をよくよくお聴きしてみると、前職にマンネリ感を抱き、ベンチャー企業のチャレンジングな風土とスピード感に魅力を感じて転職したものの、思ったように活躍できない……というパターンが多いように見受けられます。
大手企業出身なだけに高評価を得て入社したけれど、なかなか成果を挙げられず、周囲から「期待外れ」と落胆される。自分自身、前職で業績を挙げられていたのは、会社の看板と豊かなリソース(予算・人材など)があったからこそだと気づく——そうした状況に置かれて、「恵まれていた前職の環境に戻りたい」と考えるわけです。
厳しいことを言いますが、これは「逃げ」なのではないでしょうか。
居心地の悪い環境から逃げて、居心地が良かった環境に戻りたいと考えるのは、安易と言わざるを得ません。せっかく転職したのに、成長がないままでは、前の会社も喜んで迎えたいとはならないでしょう。
この場合、前の会社での成功体験を引きずらず、過去のノウハウに頼らず、まずは発想を転換して今の仕事に取り組んでみてはいかがでしょうか。
何か1つでも成果を挙げて、そのうえで、「自分にはやはり前の会社のほうが合う」と思えば、その時に改めて再入社の道を探ってみてください。
本来の目的を見据えれば別の選択肢が見えてくる
では、別の理由から「前の会社に戻りたい」と考えているケースはどうでしょうか。
例えば、「入社前に聞いていた話と実態が異なっていた」「入社前に描いていたイメージと異なっていた」など。
外からは魅力的に見えた企業が、入社してみると「あれ?」とギャップを抱くのはよくあることです。やりたいと思っていたことができない、目指したかったことを実現できない……と気づくこともあるでしょう。
「こんなことなら前の会社のほうがまだ良かった!」と、出戻りを考えるわけです。
撮影:鈴木愛子
このパターンの場合、「逃げ」とは言いませんが、「視野が狭まっている」のではないでしょうか。
「これがやりたい」という意思を持って転職に踏み切ったはず。であれば、選択肢は「出戻り」だけではないはずです。
もしかすると、今の会社の上長と話し合うことで、ミッションや仕事の進め方などを変えてもらえるかもしれません。他部署への異動を願い出れば、もともとイメージしていた仕事ができる可能性もあります。
また、今度は会社を見誤らないように気をつけて、別の会社への転職を図る方法もあるでしょう。
このように、「ダメだったから戻る」ではなく、本来の転職の目的・目標に立ち返ってみてください。そして、それを実現できる方法を、視野を広げて探してみることをお勧めします。
冒頭にお伝えしたとおり、前の会社に再入社が叶ってもすべて元通りになるとは限らないのですから。
自分をより良く活かせるなら、出戻り転職もアリ
一方、「ぜひ出戻りを目指してください」と背中を押したくなるケースもあります。
一つは、「前の会社の風土や仲間が、自分のモチベーションの源だったと気づいた」場合。
1社目の会社であれば、その風土や価値観が合う仲間たちは「ごく当たり前にあったもの」。しかし、別の会社に移ってみて「こんなにも違うのか」と大きなギャップを感じることもあります。
「事業内容・仕事内容に魅力を感じて転職したけれど、実は自分にとって一番大切なモチベーションの源は、前の会社の風土や仲間だった」――そう気づいたのであれば、前の会社に戻るのも有効な選択肢の1つでしょう。
もう一つ、「転職先で身につけた知見・ノウハウを活かして、前の会社に貢献できる」という自信があるなら、出戻る価値があると思います。
以前勤務していた会社であれば、内部の課題をつかんでいるはず。前の会社に再入社を願い出る際、「外部での経験を活かして、あの課題解決に取り組みたい」などとアピールすれば、歓迎されるでしょうし、実際に活躍できるのではないでしょうか。
出戻ることが最善の選択なのか、出戻って活躍できるのか——前の会社に今も勤務している、信頼できる人物にも相談しながら、じっくり考えてみてください。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第45回は、2月15日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。