錯綜するワクチン情報に振り回される自治体。独自システム発注後にマイナンバー活用浮上

突然決まったワクチン担当大臣。そして浮上したマイナンバーの活用や16歳以上という年齢制限……新型コロナウイルスの感染収束に向けて期待されるワクチンだが、確保時期も含めて情報は二転三転している。

接種の主体となる自治体はすでに会場確保など接種体制の整備に動いているが、さまざまな課題が指摘されている。

積極的にワクチン接種に関する課題を発信している世田谷区の保坂展人区長に話を聞いた。

「国からなかなか必要な情報が届かない」

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REUTERS/Dado Ruvic/Illustration

「そもそもワクチンを選定し、購入契約をしたのは国ですが、接種主体は市町村などの自治体というところに、かなり無理が生じています。国からなかなか必要な情報が来ず、来ても週に2回も3回も変更が生じるなどし、現場の準備を進めづらい状況です」(保坂区長、以下同)

例えば1月20日前後に一斉に報じられた、接種の対象年齢。朝日新聞など複数のメディアはワクチンを開発した米製薬会社ファイザーとドイツのビオンテックの臨床試験で16歳未満のデータがそろっていないため、「政府は当面16歳以上を対象とする方向で検討」と報じた

「ただ、接種年齢はワクチンが正式に承認される時点にならないと明示できないと言われています。こうした基本情報は早め早めに自治体に示してもらわないと、国が求めている接種スケジュールには到底間に合いません。特に世田谷区のような人口の多い自治体では対象人数が大きく変われば、準備にも大きく影響してきます」

世田谷区の人口は、約92万人(2021年1月1日現在)。そのうち16歳未満は12万人程度。対象人数は接種会場や接種にかかわる医療関係者の人数にも関わってくる。

マイナンバーとの二重管理にならないか

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ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)の仕組み。

出典:厚生労働省 新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保に係る自治体説明会資料

さらに突然浮上した「接種へのマイナンバーの活用」にも困惑しているという。

国はワクチンの流通をスムーズにするために、接種実績を一元管理する「接種円滑化システム(V-SYS)」を構築するとしているが、このV-SYSには個人の「接種記録」は反映されない。

厚生労働省のホームページによると、ワクチン接種には接種券(クーポン券)を受け取った後、住民票がある居住地域で予約、医療機関か自治体が用意した会場で接種するとなっている。現在の案では、接種するとこのクーポン券にシールを貼って、自治体ごとの「台帳」で管理する。だが、この台帳は自治体独自でシステムを作らない限り、紙での管理。紙での管理が2020年、特別給付金の支払いで自治体に大混乱を及ぼしたことは記憶に新しい。

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世田谷区の保坂区長。接種後も一括で追跡できるデータベースをつくることが肝心と話す(写真は2018年5月撮影)。

撮影:今村拓馬

保坂さんは2020年から、国のV-SYSで一括して個人の接種記録まで管理するよう求めてきた。

「誰がいつどのワクチンを打ったのか、どのぐらいの人が打ったのか管理しやすくなるだけでなく、副反応が出る可能性もあるので、接種後も追跡できるデータベースをつくることが肝心です。全国共通であるはずのワクチン接種なので、国に整備を求めてきたものの、昨年末に出た結論は『国での整備は難しい。自治体の判断でやってほしい』と。

それでやむを得ず独自にシステムを発注したところに、マイナンバーを活用するという話が突然出たのです。段取りが悪すぎます。デジタル担当大臣は国のシステム設計の時に何か提案をしたのでしょうか。自治体のシステムと、マイナンバーを活用した国のシステムに二重に登録作業が発生することにならないか心配しています」

厚生労働省の予防接種対策推進室に問い合わせると、「接種後の管理はあくまでも自治体と予防接種法で定められており、国として個人情報を取り扱うことは難しい」という。となると、マイナンバーを活用しても、国が接種状況を一括して把握することは難しいということにならないか。

接種会場や医療従事者確保の難しさ

ワクチン

イギリスやアメリカなどではワクチン接種が始まっているが、感染対策、ワクチンの取り扱いの難しさもあり、予定通りには進んでいない。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

ただでさえ、ワクチン接種に関して自治体が負う仕事は山ほどある。接種前と接種後にソーシャルディスタンスが保てる会場や接種を担ってくれる医療従事者の確保に、保坂さんは毎日病院を回って協力を依頼しているという。

ワクチンはマイナス75度という超低温のディープフリーザーで1回約1000が届く予定だが、解凍後に希釈して接種しなければならない上、フリーザーの開閉は1日2回までという制約もあるといい、スムーズな接種体制の構築にはクリアしなければならない点は多い。

「そもそも国のワクチン接種に関する自治体向けマニュアルに基づいて、人口数千人の町村から政令指定都市まで同じやり方をするのは不可能です。自治体の規模によって、柔軟に対応を変えさせてほしい」

「不安に答えるコールセンターは国で設置を」

ワクチン接種担当に任命された河野太郎規制改革相。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

例えば国の指針では、接種票は同じ日に郵送しなければならない、となっているが、世田谷区の場合、16歳未満12万人、高齢者18万人を除いても、50万人以上にのぼる。50万人が同時に接種票を受け取った場合、一斉に問い合わせが自治体が用意したコールセンターに殺到する可能性もあるので、発送の方法、順番などは自治体に任せてほしい、という。

「さらに言えば、基礎疾患との関係や副反応への心配など、ワクチン選定にかかわっていない自治体が住民の抱える不安に正確に答えるのは無理です。コールセンターがつながらなければ、保健所などに問い合わせが殺到しかねない。ワクチンへの不安や詳細な情報について専門的に相談に答えるコールセンターは、国が開設してほしい」

こうした不安や不満を抱える自治体は世田谷区に限らないだろう。前出の厚労省予防接種対策推進室には、自治体からの問い合わせが集中しているという。

「コールセンターは国でも設置する方向で準備を進めていますし、自治体の規模によっては近接の自治体と協力して体制を組めるなど、柔軟に対応できるようにしたいとは思っています」(予防接種対策推進室)

保坂さんはこう話す。

「コロナ対策同様、司令塔が明確でないまま、前代未聞のワクチン大量接種に向かおうとしています。接種を自治体に丸投げするならば、せめて基本情報を早く明示してほしい。すでにワクチン確保時期という、最重要の情報発信で官房副長官とワクチン担当大臣の言うことがまるで違い、混乱が始まっています。」

(文・浜田敬子

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