2回目の緊急事態宣言は、1回目と比べて経済にどのような影響を与えたのか(写真は2021年1月撮影)。
撮影:小林優多郎
年が明けても新型コロナウイルスの感染拡大は収まらず、遂には1月7日に特措法第32条第1項に基づき、緊急事態宣言が発出された。
翌8日から1カ月、埼玉、千葉、東京、神奈川の関東の1都3県が対象であったが、13日には大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木の7府県も追加。
2020年12月時点で年明けにも緊急事態宣言が発出されるという話は出ていたが、2020年の緊急事態宣言時と2020年12月時点での消費行動に違いがあるのか?
この観点からオルタナティブデータを用いて分析していく。
スーパーは辛うじてプラス成長、今後も消費者の財布の紐は固い
網掛け部分は第1波~第3波を表現。
出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」、厚生労働省のデータを基に著者作成。
現金を含む消費全体を捉えた消費動向指数「JCB消費NOW」※1における「スーパー」、「コンビニ」、「百貨店」の3項目の消費指数と、PCR検査における陽性者数の推移を重ねたのが上のグラフだ。
※1 JCB消費NOW:JCBグループ会員のうち、匿名加工された約100万会員のクレジットカード決済情報をもとにJCBとナウキャストが算出した消費動向指数。
前回の緊急事態宣言の際に顕著であったのが、百貨店が大きく減少する一方でスーパーが大きく上昇していたということだ。
百貨店が大きく減少した理由はいくつかある。そもそも一時休館や時短営業、デパ地下の食料品(主に総菜やデザート)売場のみ営業など、営業自体が縮小したこと。
また、百貨店の主要顧客層が新型コロナウイルスの重篤化リスクの高い高齢者が多かったことなどが挙げられる。
前回の緊急事態宣言では、百貨店に大きく影響が出た(写真はイメージです、2020年4月撮影)。
撮影:竹井俊晴
一方で、スーパーは外出自粛によって追い風を受けた。特に大きく伸びたのは住宅街にあるスーパーだ。
ショッピングモールのような大型スーパーは、どうしても「密」な環境が避けられない。そのため、自宅から徒歩や自転車で行けるスーパーに買い物客があふれた。
筆者が現地の様子を確かめるべく、当時さまざまな店舗に足を運んだが、コンビニもスーパー同様に盛況であり、店員にヒアリングしても忙しくなったということだったが、上図だとコンビニはそこまで大きく伸びていない。
そのカラクリはこうだ。確かに「住宅街にある店舗」は盛況であった。しかし、コンビニの場合は住宅街にある店舗以外にも、オフィス街や行楽地にも多く店舗がある。
住宅街にある店舗が盛況である一方で、外出自粛やリモートワークの普及によって、オフィス街や行楽地の店舗は開店休業状態になり、結果として「コンビニという業態で一括りにするとそこまで伸びていない」ということだ。
オフィス街などのコンビニは大きな影響を受けた(写真はイメージです、2020年4月撮影)
撮影:竹井俊晴
さて、当時の振り返りをした上で、2020年12月の状況を見てみよう。
スーパーはかろうじて前年同月比でプラスを維持しているものの、3項目すべてが減速傾向にある。百貨店が大きく減少していないのは、2020年の緊急事態宣言時に比べ、感染リスクを抑制しながらのオペレーションが確立されたことで、休館や一部店舗以外の営業停止などをしなくて済んだからだろう。
しかし、全体として小売業界での消費が減っているのは、報道でも連日、変異種の発見や医療崩壊の話が報じられることで外出を自主的に控えていたり、消費の原資である収入などにも不安があるからだろう。
厚生労働省が発表した11月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、1人あたりの現金給与総額は27万9095円と前年同月比で2.2%減った。
これで8カ月連続の減少であり、今後もしばらくはこのトレンドが転換する期待感も持てないことから、財布のヒモが固くなっているのだろう。
実は今回も「買い占め」は起きていた?
2020年3月26日午前の都内のスーパーマーケット。食品を買い求める人の行列が都内各所で見られた。2回目の緊急事態宣言下ではどうだったのか。
撮影:高阪のぞみ
感染リスクを抑えながら運営できるように百貨店が営業をしているように、私たちの家計も新型コロナウイルスの感染リスクを抑えながら消費行動を変容させているのだろうか?
前回の緊急事態宣言に前後して大きく消費行動に変化が見られた例としては、「発出」の噂が出始めた2020年3月下旬、買い占めが問題視されていたマスク以外にも、緊急事態宣言に備えて幅広い商品に買いが殺到した。
その代表格は冷凍惣菜やカップ麺・ふくろ麺、水だろう。当時の「買い占め」を伝える写真はさながら天変地異に備えるようであった。
一方で、今回も年明けから緊急事態宣言が発出されるという噂は2020年12月下旬から出回っていた。しかし、買い占めに関する報道は一切なかった。
実際、私が買い物に出かけても、整理券が配られていたり、「おひとり様1点」といった貼り紙もなかった。しかし、データでは今回も緊急事態宣言に備えた消費行動は確認されている。
下のグラフは「日経CPI Now」※2における、買い占めの対象となりやすい4品目の日次売上高(前年比)の推移だ。
網掛け部分は緊急事態宣言が発出されていた期間。
出所:ナウキャスト「日経CPI Now」のデータを基に著者作成。
※2 日経CPI Now:ナウキャスト社が提供している「日経CPI Now」は全国の食品スーパー1200店舗のPOSデータをもとに日次の物価や売上高を算出している。
グラフを見る限り2020年末に各品目で買い占め的な動きが確認できるが、混乱状態で店舗に殺到するような買い方をしなくなっている。冷静に普段より多目に買う程度の消費行動が起きた結果、実店舗での印象とデータの乖離が発生したのだろう。
私たちも少しずつ情報が蓄積されていくことで、冷静な消費行動へと変容できたことが確認できる。
「Zoom飲み」ブームはひと段落した
網掛け部分は第1波~第3波を表現。
出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」、厚生労働省のデータを基に著者作成。
最後に、もう1つ大きな行動変容を紹介しよう。前回の緊急事態宣言時、居酒屋での消費指数が大きく下落する一方で、酒屋での消費指数は大きく上昇した。
これは一般的に「宅飲み」という呼称で定着しているように、居酒屋が営業していないので酒屋でお酒を買ってきて自宅で飲んだり、または「Zoom飲み」のように各自が酒屋で買ってきたお酒を片手に、オンラインでつながりながら飲むという新しい行動様式が背景にある。
しかし、2020年後半からはその逆相関は見られなくなってきた。
誰かの家に集まること自体も密な環境が発生したり、その間の移動でも感染リスクがあると思う人が増えたり、流行っているからオンライン飲み会をやってみたものの、やはりコミュニケーションがしにくいなどの理由で一過性のブームで終わってしまった……ということもあるのかもしれない。
今回の緊急事態宣言は現時点では2月7日までとなっている。それまでの1カ月も同じくオルタナティブデータでリアルタイムに行動変容を確認しつつ、その後発表される公式統計で仮説を固めていけば、危機時における消費行動の変容に対して1つの知見が生まれることが期待される。
このような積み重ねがいずれくる新たな危機時に有用な判断材料となるだろう。
(文・森永康平)
森永康平:証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。著書に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)や『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。日本証券アナリスト協会検定会員。