テスラのCEO、イーロン・マスクは2021年1月21日、最も優れた二酸化炭素回収技術への賞金として1億ドル(約103億円)を寄付すると、わずか11文字のTwitter投稿で発表した。影響力を行使してこの新興産業を支援するビリオネアがまた一人増えたことになる。
二酸化炭素回収技術とは、空気中や、製鋼所のような二酸化炭素排出源から温室効果ガスを取り除くもので、気候変動に対処する注目の技術の一つだ。回収された二酸化炭素は、持続可能な燃料など新しい製品にリサイクルされることが多い。
過去にもマスクは、ロケット燃料に二酸化炭素回収技術を活用するというアイデアをほのめかしたことがある。この技術を活用すればロケット飛行は将来ネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)になる、と2019年にTwitterで述べた。その後も彼は、自分の富をどう使えば世の中を変えられるかフォロワーにアドバイスを求めていた。
マスクに限らず、二酸化炭素回収技術に投資する大口投資家は増える一方だ。
1月には、ビル・ゲイツ率いる気候関連ベンチャーファンドのブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ(Breakthrough Energy Ventures)が、2つ目となる10億ドル規模の基金を設立したと発表。この基金は、二酸化炭素を大気中から直接取り除く技術(直接回収技術)なども視野に、気候変動をめぐる難題に使われる予定だ。またマイクロソフトは2020年初め、二酸化炭素回収技術に10億ドルを投じると述べている。
この技術はパリ協定の目標達成に必要不可欠なものだと専門家は言うが、規模を拡大するにはコストを下げることが課題となっている。特に直接回収技術の場合、1トンの二酸化炭素を回収するのに600ドルものコストがかかる場合もある。
多くのスタートアップ企業が、コスト削減を目指して比較的安価なテクノロジーや新たな施設を試しているが、マスクが資金を投じる今回の競争に参加できるかどうかは定かでない。
2020年12月、十数社のベンチャーキャピタルに対し、2021年に注目すべきスタートアップ企業を聞いてみた。そこで挙げられた企業のうち、二酸化炭素回収技術に注力する4社を紹介しよう。
カーボン・エンジニアリング(Carbon Engineering)
大気中の二酸化炭素を回収するカーボン・エンジニアリングの試験プラント。
Carbon Engineering
創業:2009年
概要:大気中の二酸化炭素の回収技術を開発する注目のスタートアップ企業。回収された二酸化炭素は、燃料など違う製品に形を変える。
総資金:約9500万ドル(約98億円)※政府による出資額1100万ドル(約11億3000万円)を含む
著名な出資者:ビル・ゲイツ、BHP、シェブロン・テクノロジー・ベンチャーズ(Chevron Technology Ventures)、オキシー・ロー・カーボン・ベンチャーズ(Oxy Low Carbon Ventures)
推薦者:クリサリックス・ベンチャー・キャピタル(Chrysalix Venture Capital)の共同創業者で会長でもあるワル・ヴァン・リロップ
「世界の未来に大きな影響を与えられる企業に注目しています。中でも、カーボン・エンジニアリングは気候変動に重大な影響を及ぼしています」
ランザ・テック(LanzaTech)
ランザ・テック初の中国プラント。
LanzaTech
創業:2005年
概要:製鋼所などから出る排ガスを、燃料や化学物質に転換する技術を開発。同社のスピンオフ企業として、持続可能なジェット燃料を製造するランザ・ジェットも設立。
総資金:約4億ドル(約412億円)
著名な出資者:コスラ・ベンチャーズ(Khosla Ventures)、BASF、サンコー・エナジー(Suncor Energy)、ペトロナス(Petronas)、インディアン・オイル(Indian Oil)、三井物産
推薦者:コスラ・ベンチャーズの創業者ビノッド・コスラ(コスラ・ベンチャーズは出資者でもある)
「再生可能な電源で走る電気自動車や電気トラックというのは実用化が可能ですが、旅客機となると今あるジェット機に対応できる液体燃料が必要です。ランザ・ジェットは100%再生可能なバイオジェット燃料を製造する1つ目の試験プラントをすでに建設済みです。その技術は、規模が大きくなれば既存のジェット燃料と比べても競争力のある価格になるでしょう。この技術1つで、空の旅を変えることができるのです」
オーパス12(Opus 12)
オーパス12の創業者たち。左から、ケンドラ・クール、ニコラス・フランダース、エトーシャ・ケイブ。
Opus 12
創業:2015年
概要:二酸化炭素を化学物質や燃料に転換する技術を開発中。創業者の一人、エトーシャ・ケイブは、Insiderが選ぶ「クリーンエネルギー分野における次世代スター」の一人。
総資金:調達額は非開示(同社によると、一般に知られている金額は不正確とのこと)
著名な出資者:ブレイクアウト・ベンチャーズ(Breakout Ventures)、シェル(Shell)のインキュベーター事業・ゲームチェンジャー(GameChanger)、テックスターズ(Techstars)
推薦者:プラグ・アンド・プレイ・テック・センター(Plug and Play Tech Center)でエネルギー担当ベンチャー・アソシエイトを務めるミラッド・マリク
スバンテ(Svante)
スバンテの試験プラント。
Svante
創業:2007年
概要:製鋼所を含むさまざまな産業から排出される二酸化炭素の回収技術を開発。2020年2月には、大手石油関連企業であるシェブロンと協力してスバンテの技術がシェブロンでも活用可能かどうか研究を開始すると発表。
総資金:7500万ドル(約77億2000万円)
著名な出資者:シェブロン・テクノロジー・ベンチャーズ(Chevron Technology Ventures)、ハスキー・エナジー(Husky Energy)、クリサリックス(Chrysalix)、三井物産(ベンチャーデータベースCrunchbase発表)
推薦者:クリサリックス・ベンチャー・キャピタルの共同創業者で会長でもあるワル・ヴァン・リロップ
(翻訳・玉城弘子、編集・野田翔)