個人・法人で利用できる海外送金。安価な手数料と早く安全な着金が可能。
出典:TransferWise
イギリスのフィンテック企業であるTransferWise(トランスファーワイズ)が、日本でデビットカードの発行を開始した。
同社は記者発表のなかで、海外旅行や海外通貨でオンラインショッピングする際に、今まで支払っていた外貨取扱手数料などの「隠れコスト」を削減し、おトクに買い物などができるデビットカードだと紹介した。
こうした隠れコストは、2019年には日本全体で167億円に達し、そうした手数料を5分の1に削減できる、とTransferWiseはアピールしている。
高い“海外送金手数料”への不満から生まれたTransferWise
TransferWiseの共同創業者でCEOのクリスト・カーマン氏。
出典:TransferWise
TransferWiseは、従来の銀行間の海外送金の高さという不満からイギリスで生まれた国際送金サービスだ。
銀行を経由した国際送金は、「高価で不便だし、遅い」(同社CEOのクリスト・カーマン氏)とする。複数の銀行を経由する仕組みのため、着金まで数日かかることもあり、手数料が高額になりがちだった。
こうしたことから海外ではTransferWiseだけでなく、RevolutやRippleなど、さまざまな国際送金サービスが登場している。新しい国際送金サービスは、すぐさま送金できてコストも最小化できるというのがメリットだ。
すでに複数の国際送金サービスが日本にも進出しており、TransferWiseは2016年から日本向けの国際送金サービスを展開。
日本では外国人労働者も増えており、自国への送金ニーズが高まっている。一方、海外に比べても手数料が高いと言われており、そうした手数料を削減できることから順調に拡大してきたという。現在、57カ国の送金元から、86カ国への送金に対応している。
複数の国の通貨に対応、現地口座番号を取得できる
複数の通貨に対応したマルチカレンシー口座は、現地の口座番号が取得できる。デビットカードを併用すれば現地通貨でオフライン・オンラインの決済が可能。
出典:TransferWise
当初は国際送金が中心だった同社だが、グローバルでは2017年に新機能として「マルチカレンシー口座」を追加した。これは、複数の通貨の預金口座を開設できるという機能だ。
特徴的なのが「現地の口座番号を取得できる」という点。
アメリカドルなら米国、ユーロなら英ポンドなら英国といった具合に、現地の口座番号が割り当てられるため、その通貨での支払いは現地口座からの支払いになり、海外決済にならずに余計な手数料がかからない。
例えば、海外と取引のある個人事業主や中小企業だったら、現地通貨で現地口座への振り込みや入金になるため手数料が削減できる。そのまま日本円に両替もできる。
対応する口座情報はアメリカ・ドル、ユーロ、イギリス・ポンド、オーストラリア・ドル、ニュージーランド・ドル、ハンガリー・フォリント、シンガポール・ドル、トルコ・リラの8通貨。日本円は預金口座ではなく、資金決済法に基づく資金として保持される。
日本でもMastercard加盟店で利用可能に
発行されるデビットカード。国際ブランドはMastercard。クレジットカードのタッチ決済にも対応する。
出典:TrasnferWise
もともとマルチカレンシー口座は海外での給与受取を想定していたとカーマン氏は言うが、こうした口座の預金を直接決済に利用したいという要望に応え、2018年に欧州・英国で発行を開始したのがデビットカードだ。
預金をそのまま支払いに使えるが、特に現地通貨でそのまま支払えるため、一般的なクレジットカードでの支払いのようにその都度、外貨取扱手数料のような手数料が発生しない。
2020年には日本でもマルチカレンシー口座の提供を開始。2021年に入ってデビットカードの発行にも対応した形だ。発行は同社アプリから行い、eKYCを使った本人確認をしたうえで1200円で発行できる。
国際ブランドとしてMastercardに対応しており、国内外のMastercard加盟店で利用できる。
隠れコストは1年で“167億円”
マルチカレンシー口座は8カ国の口座情報に対応。
出典:TransferWise
日本人が2019年に支払った海外送金や海外での決済におけるる手数料は、総額970億円に達しているとTrasferWiseは言う。そのうちの760億円は外貨取扱手数料だが、さらに167億円という「隠れコスト」が存在していると同社は主張する。
この隠れコストは、最大で6%になるという「為替レートのマークアップ」だ。これはいわゆる事務手数料などと呼ばれるもので、外貨取扱手数料とは別に請求されていることが多い。
例えば、200ドルの決済をした場合、その時の為替レートが1ドル104円で、実際の決済時には1ドル110円で計算されていたら、1ドルあたり6円が手数料。計1200円の余計なコストがかかっていることになる。
TransferWiseでは、現地通貨を入金しておけば決済時に外貨取扱手数料などはなく、マークアップもない。現地通貨がない場合も、「通貨選択機能」によって保有する通貨の中で最も為替レートが有利な通貨が自動選択され、両替と決済が行われるという。
同社では、デビットカードを使ったアメリカ・ドルの支払いで、1万5000円が日本円から支払われる時、日本の他社に比べて手数料が最大で1/5まで削減できるとアピール。両替時の手数料は0.4~3%にとどまるとしている。
同社が推計する、海外送金やマルチカレンシー口座のニーズがある国内のユーザー数。
出典:TrasnferWise
海外では1000万人以上のユーザー数を抱え、毎月45億ポンドが送金されているというTransferWise。日本での現状に関して具体的な数字は回答されなかったが、順調にビジネスは伸びているそうだ。
国内でのマルチカレンシー口座の提供以降、法人アカウントの提供も開始して、さらに今回のデビットカードの提供でさらに事業を拡大したい考えだ。
カーマン氏「(日本は)アジアの中でも最大の顧客ベースを持っている重要な市場」
複数の通貨に対応したデビット/プリペイドカードは国内にも複数存在する。
撮影:小林優多郎
同様のサービスは日本では、ソニー銀行が複数通貨の外貨預金に対応し、デビットカードとして複数通貨対応の「Sony Bank WALLET」を提供。日本航空も複数通貨対応のプリペイドカード「JAL Global WALLET」を発行している。他社に対して手数料の低さをアピールするTransferWiseだが、それぞれ条件が異なるため一概には比較しづらい。
ただ、例えばソニー銀行は海外送金が銀行経由のため先述の課題があり、マルチカレンシー口座として現地の口座番号が取得できるわけでもない。
マルチカレンシー口座に入金した現地通貨を現地ATMで引き出す際の手数料も、毎月2回、合計3万円まで無料となっており、そうした点でもTransferWiseを使うメリットはある(3万円超は1.75%、3回目からは70円の手数料がかかる)。
同社による国内各社の手数料比較。条件がそろえられていないため、一概にこれだけの差があるわけではないようだ。
出典:TrasnferWise
TransferWiseは、イギリスで小口決済向けの決済システムであるFaster Payments Service (FPS)に参加しており、これはいわば小口決済向けの全銀システムだが、決済システムに直接接続することで送金コスト削減などのメリットがある。
日本でもコード決済事業者やFinTech企業などの小口決済向けに全銀システム開放が議論されているほか、資金決済法の改正で100万円以上の送金も可能になるなど、規制緩和が進んでいる。
カーマン氏は、「(金融では)世界中に規制は存在する。日本の規制当局をこの1年~1年半ほど見ているが、変化のスピードが上がってきている」と指摘。「日本は、アジアの中でも最大の顧客ベースを持っている重要な市場」と同氏は述べ、日本市場におけるさらなるサービス展開に意欲を示していた。
(文・小山安博)
小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける