「メディアや極左と戦う」トランプ政権の大統領報道官が州知事に立候補。もう4年続くアメリカ“新たな分断”

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1月20日、米フロリダ州のパームビーチ国際空港で、トランプ前大統領の到着を歓迎する支持者ら。

REUTERS/Carlos Barria

「45代大統領のドナルド・J・トランプは本日正式に、前大統領オフィスを開設しました」

こんな声明が1月25日(米東部時間)、メールで届いた。トランプ氏が、フロリダ州に新たなオフィスを構えたという。

トランプ前大統領はTwitterのアカウントを凍結され、大統領を退任してからは沈黙を続けていた。以来初めての情報発信が冒頭の声明だ。退任からわずか5日後に、前大統領がオフィスを開くなどというのは聞いたことがない。

バイデン大統領の就任(1月20日)から1週間ほど経ったが、首都ワシントンをはじめアメリカ全体にトランプ氏がもたらした「分断」という社会的現象が、いまも影を落とし続けている。

それはおそらく2024年以降にまで及ぶ。なぜか。

トランプ弾劾賛成の「造反」共和党議員に脅迫

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1月25日、トランプ前大統領が「議事堂乱入事件を扇動した」責任を追及する弾劾訴追決議を上院に提出した下院の民主党議員たち。

Melina Mara/Pool via REUTERS

トランプ氏の影を強く感じるのは、2022年の中間選挙と、さらにその2年後の2024年に行われる大統領選挙に向けた(主に)共和党の政治家の動きだ。

大統領就任式を終えた米政界は、すでに次の選挙に向けて動き出している。その新たな動きは、熱狂的なファンを抱えるトランプ氏が過去4年間に行使してきた影響力と、切り離して考えることはできない。

共和党内部の状況は、トランプ政権に唯々諾々としてきた過去とは異なり、いまや「トランプ派」と「反トランプ派」にすっかり分断されている。それを如実に示したのが、以下の2つのイベントだ。

  • 1月13日、下院で行われたトランプ氏弾劾訴追手続きの採決で、共和党議員211人のうち10人が賛成票を投じ、可決。上院における弾劾裁判への道筋をつけた。
  • 1月26日、上院におけるトランプ氏の弾劾裁判は「違憲」として停止を求めた動議について、共和党議員5人が反対票を投じ、否決。上院の構成は民主党50議席、共和党50議席だが、動議の採決結果は賛成45、反対55だった。

つまり、少なくとも下院で10人、上院で5人の共和党議員が、トランプ氏の弾劾訴追手続きに賛成し、「トランプ時代」に反旗を翻したわけだ。

ただ、話は単純ではない。

共和党「造反」議員の自宅住所や携帯電話など、個人情報がトランプ支持者の間でシェアされ、すでにその家族にまで脅迫が及んでいる

米国土安全保障省は1月27日、政治家や政府機関を狙った「国内テロ」の可能性を警告した。連邦議会議事堂乱入事件に刺激された、あるいはバイデン氏の大統領就任に不満を持つ人たちが、暴力を扇動したり犯行に及ぶというものだ。

下院で可決されたトランプ氏の弾劾訴追決議は1月25日、上院に送られ、2月9日から弾劾裁判が始まる。年初(1月6日)の連邦議会議事堂乱入事件を引き起こしたというのが罪状で、弾劾手続きを2回受ける大統領はトランプ氏が初めてだ。

「メディアや極左と戦う」元大統領報道官が出馬表明

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トランプ前大統領と報道官時代のサラ・ハッカビー・サンダース氏。2024年の州知事選挙に早くも立候補を表明(2020年1月撮影)。

REUTERS/Jonathan Ernst

一方、トランプ前政権で大統領報道官を務めたサラ・ハッカビー・サンダース氏は1月25日、出身の南部アーカンソー州で、2024年の州知事選挙への出馬を表明した。トランプ政権の政策を踏襲し、「メディアや極左と戦う」という。

トランプ氏は即座に彼女への「支持」を発表。それに対しサンダース氏は「私を信じてくれてありがとう」とツイートした。

サンダース氏の父親マイク・ハッカビー氏は、アーカンソー州知事を12年務め、共和党の大統領予備選挙の候補でもあったため、全国ブランドである。彼女には、父親の地盤を継ぐという利がある。

それ以上に、サラ・ハッカビー・サンダース氏の最大の強みは、トランプ氏に忠実であったことだ。トランプ氏が相次いで発信するウソやニセ情報、ミスリーディングとなる情報を、大統領報道官としてまるで事実であるかのように擁護し続けた

同州知事選にはすでに、現職の副州知事、司法長官ら有力政治家が出馬を表明しているが、38歳のサンダース氏は現時点で最有力とみられている

実は、彼女が今もトランプ氏に忠実であるかどうかは、共和党政治家の将来を左右する大事なポイントになる。上下両院議員だけでなく、選挙で選ばれたあらゆる共和党の自治体幹部の(2022年と2024年に予定される)選挙結果に大きな影響を及ぼす。なぜか。

2022年の中間選挙では、上院(100議席)は民主党14議席、共和党20議席が改選の対象。下院は任期2年のため、全議席が改選となる。共和党は2020年の選挙でホワイトハウス、上院、下院と3点セットで民主党の支配を許してしまったため、2022年での巻き返しは至上命題だ。

しかし現実には、共和党の上院の改選議席数は民主党より6議席も多く、あらかじめ苦戦が予想される。そんな状況だからこそ、各州の有権者の中に熱狂的なトランプ支持者がどれだけいるかは、共和党議員の当落を左右する「踏み絵」となる。

「トランプ氏に忠実なサンダース氏」が前評判どおりアーカンソー州で支持者を集め、最有力ということになれば、他の共和党議員にもそれなりの追い風が吹くということになるだろう。

「2022年は不出馬」早くも決断した共和党議員

米FOXニュース(1月27日)にオンライン出演し、次期中間選挙への不出馬について説明したロブ・ポートマン上院議員(中央)。

Senator Rob Portman Official YouTube Channel

弾劾訴追に関する「造反」以外にも、共和党内の「分断」を糾弾する事件が起きている。ロブ・ポートマン上院議員(共和党、オハイオ州)が議会内の「分断」を理由に、2022年中間選挙で3選を目指さないことを発表した。

党派的な議論の行き詰まりで、重要な政策において進展を得ることが困難となり、私の不出馬の決断につながった」(ポートマン議員)

超党派的な歩み寄りによって、国民の利益となる法案の可決が実現していた過去に比べ、党利党則による「分断」で重要な法案が可決されないことに対する葛藤が、ポートマン議員の声明ににじみ出ている。

2022年に改選となる共和党上院議員の20議席のうち、1議席でも現職議員が再出馬しないというのは、共和党にとって大きな打撃となる。ポートマン議員はそれでも不出馬を選んだ。

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1月26日、連邦議会議事堂内を見回る州兵たち。大統領就任式前からの駐留は今後も数カ月間は続きそうだ。

REUTERS/Al Drago

なお、議事堂乱入事件の捜査も続いており、7500人の州兵が首都ワシントンに向こう数カ月は駐留するなど、事件の影もまだまだ尾を引いている。

トランプ・オフィスの「紋章」が意味するもの

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左がトランプ前大統領の新オフィス「紋章」、右がアメリカ大統領章。画像では小さく見にくいが、ラテン語「E PLURIBUS UNUM」も共通。

出所:筆者提供(L)/Ken Wolter / Shutterstock.com(R)

冒頭で触れた新たなトランプ・オフィスは、フロリダ州パームビーチの高級別荘「マールアラーゴ」に置かれたとみられる。

声明によると「支援活動や組織化、公の場での行動を通して、トランプ政権のアジェンダに取り組み続ける」というのが、新しいオフィスを設置した目的だという。トランプ支持者を満足させるには十分な文面だ。

声明の上に印刷されたトランプ・オフィスの「紋章」は、アメリカン・イーグル(白頭鷲)を中心に、「エ・プルリブス・ウヌム」(=「多数から一つに」、転じて多くの州から成るアメリカ合衆国))というラテン語まで同じで、アメリカ合衆国大統領章に限りなく近いデザインだ

「前大統領オフィス」という名称も含め、「トランプ氏の選挙の勝利が盗まれた」と信じているトランプ支持者たちがありがたがりそうな「大統領らしさ」を意識したものと、筆者には感じられた。

(文:津山恵子


津山恵子(つやま・けいこ):ジャーナリスト、元共同通信社記者。ニューヨーク在住。2007年から独立し、主にアエラに、米社会、政治、ビジネスについて執筆。近著は『教育超格差大国アメリカ』『現代アメリカ政治とメディア』(共著)。メディアだけでなく、ご近所や友人との話を行間に、アメリカの空気を伝えるスタイルを好む。

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