大西洋が1年に4cm広がるメカニズムを解明

大西洋の海底地形図。白い矢印が大西洋中央海嶺を指している。

大西洋の海底地形図。白い矢印が大西洋中央海嶺を指している。

NASA Earth Observatory map by Joshua Stevens, using data from Sandwell, D. et al. (2014).

  • 大西洋は年々広がっていて、南北アメリカとヨーロッパ、アフリカの下にあるプレートは離れていっている。
  • 新たな研究によって、何がプレートを動かしているのかが明らかになった。地球の奥深くにあるマントルが大西洋の真ん中にある海底山脈から湧き出ているのだ。

大西洋は毎年4cmずつ広がっている。

これは、南北アメリカ大陸の下にあるプレートと、ヨーロッパ大陸、アフリカ大陸の下にあるプレートが離れていっているからだ。だが、プレートを引き離す地質学的な力が大西洋では見られないため、それがどのようにして起こっているのかは、科学者にとっては謎だった。

1月27日にネイチャー誌に発表された論文がその疑問に答えている。この論文では、大西洋が拡大している原因が、海底山脈の下にあることを示唆している。

この海底山脈は大西洋中央海嶺と呼ばれ、北アメリカプレートとユーラシアプレート、南アメリカプレートとアフリカプレートを隔てている。今回発表された論文の著者らは、地球の深部からのマントル物質が、大西洋中央海嶺の表面に湧き上がり、それがプレートを押し広げていることを発見した。

大西洋の海底が広がっている

「NASA Earth Observatory」が公開している海底地形図。濃いオレンジ色が大西洋中央海嶺。

「NASA Earth Observatory」が公開している海底地形図。濃いオレンジ色の部分が大西洋中央海嶺だ。

NASA Earth Observatory maps by Joshua Stevens, using data from Sandwell, D. et al. (2014)

地球をトリュフチョコレート(粘性のある内部が硬い殻で覆われている)に見立てて想像してみよう。

中心には高温の核があり、それを厚さ約2900kmの半固体のマントルが包み込んでいる。トリュフのいちばん外側の層は、厚さわずか34kmほどの地殻で、マントルの上にパズルのように配置されて「プレート」を構成している。マントルは半固体なので、地球中心部に近い高温で密度の低いマントルは地殻に向かって湧き上がる一方、冷えて密度の高くなったマントルは中心に向かって沈み込む。この対流によって、その上にあるプレート同士がぶつかったり、片方がもう片方の下に沈み込んだりする。

大西洋中央海嶺のようなプレートの境目からマントルの物質が湧き出ている場合、上部マントルからのことが多く、核に近い下部マントルから、マントル物質が地殻に向かって湧き出すことは一般的ではない。

だが、今回発表された論文によると、大西洋中央海嶺はホットスポット(下部マントルからの物質が噴出する場所)であることがわかった。

研究者らは1000kmごとの地質活動を測定した。2016年に39個の地震計を海に沈め、1年間にわたって世界中の地震データを収集したのだ。彼らは地球内部を伝播する地震波を観測することで、大西洋中央海嶺の下のマントルで何が起きているのかを垣間見ることができた。

2016年、サウサンプトン大学の研究者が、大西洋中央海嶺に地震計を設置した。

2016年、サウサンプトン大学の研究者が、大西洋中央海嶺に地震計を設置した。

University of Southampton

研究グループは、深さ660kmにあるマグマと岩石が、地殻に向かって湧き上がってくることを発見した。この上昇によって、プレートとその上の大陸は年に4cmずつ広がっている。

「下部マントルから上部マントルへ、さらには地殻表面までマントル物質が噴出することは、アイスランド、ハワイ、イエローストーンなど一部の地域で観測されてきたが、大西洋中央海嶺では観測されたことがなかった」と、ローマ・トレ大学の地震学者で、論文の共著者であるマシュー・アグイス(Matthew Aguis)はBusiness Insiderに語った。

「完全に予想外の結果であり、大変興奮している」

地下410kmから660kmにあたる下部と上部のマントルの間には、高密度の岩石から成るマントル遷移層があり、下部から上部へマントル物質が上昇しようとしても、この層に遮られることが多い。

しかし、大西洋中央海嶺の下の遷移層は、その最深部の温度が予想以上に高いため、薄くなっていると、アグイスらは推定した。薄くなっているため、地球の他の部分よりも下部マントルの物質が海底に向かって上昇しやすいというわけだ。

地質学の謎を解く

サウサンプトン大学の科学者が、遠隔操作可能な地震計を大西洋に配置する様子。

サウサンプトン大学の科学者が、遠隔操作可能な地震計を大西洋に配置する様子。

University of Southampton

今回の発見は、長年の地質学的な謎を解く助けとなった。

海洋は、さまざまな速度で拡大・収縮することが知られている。また、プレートが最も顕著に動くのは、沈み込みによってであることも知られている。沈み込みは通常、プレートの境界でもある大陸と海の境界、つまり地質学的な動きが活発な大陸の縁で発生する。太平洋が大西洋よりも速く拡大するのはこのためだ。太平洋の大部分は太平洋プレート上にあり、大陸との境界は、東側では北米プレート、西側ではユーラシアプレートの境界とほぼ同じ位置にある。これらの境界での沈み込みが、地震や火山の噴火を引き起こすことから、この一帯は「環太平洋火山帯」と名付けられている。

一方、大西洋は4つのプレートの上にある。プレートの境界は、大西洋の真ん中にあり、大陸と海洋の境界とは一致していない。そのため、科学者らは海底がどのように拡大しているのか分からなかった。

しかし、今回発表された論文により、下部マントルから湧き上がる物質が、大西洋拡大の原動力となっている可能性が示唆された。

サザンプトン大学の地球物理学者で、この論文の共著者であるキャサリン・ライチャート(Catherine Rychert)は、このプロセスは2億年前に始まったと述べた。そして、その拡大の速度は速くなる可能性があるという。

「我々が生きている間は、この速度は変わらないだろう。だが、数百万年先には変わっているかもしれない。これまでもそうやって変化を続けてきたのだから」とライチャートは述べた。

[原文:The Atlantic Ocean is getting wider every year, pushing the Americas away from Europe and Africa. We may finally know why.

(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)

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