電気自動車(EV)シフトを追い風に、いくつかの電池ベンチャーが飛躍を遂げようとしている。写真は米ゼネラル・モーターズ(GM)ミシガン州の工場、「シボレーボルトEV」の電池取り付け工程。
REUTERS/Rebecca Cook
- 電気自動車(EV)市場ではコストダウンの取り組みが続いている。
- 完成車全体のコスト引き下げを目指して、各社による競争の焦点は車載電池に。
- 低コストのリチウムイオン電池を求めて、グローバル争奪戦が起きている。
気候変動による人類の破滅を回避するため、温暖化ガスを削減するクリーンエナジーの開発導入に向けて世界各国が取り組むなか、ここから数年、電気自動車(EV)の普及が加速しそうだ。これまで目新しい技術や製品とみられてきたEVが、ありふれた存在になる日は近い。
規制当局からのプレッシャーを受け、自動車メーカーはここ数年の間に数十車種のEVを市場投入すべく準備を進めており、計画実現に向けて実績のある電池メーカーとの協業を模索している。
EVの普及は大方の予想より遅れてはいるものの、最近発表された非営利消費者団体コンシューマーズ・ユニオンの調査結果(コンシューマー・レポート)によれば、回答者の71%が内燃機関(エンジン)から電気への移行に関心を示している。
そんな来たるべきシフトを前に、ベンチャーキャピタリストや自動車メーカーの関心はEVの核心、つまり電池に注がれている。
英調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスは、リチウムイオン電池を「20世紀における石油タンク」にたとえ、エネルギー分野のメガトレンドをつなぎ合わせる重要な役割と位置づける。
電池はEVを構成する部品のなかで現在のところ最も高価で、コスト全体の30〜40%を占める。世界のリチウムイオン電池市場は2019年に367億ドル(約3兆4000億円)規模だったが、EVシフトを追い風に2027年までに1293億ドル(約13兆6000億円)規模へと4倍増が想定されている。
ベンチマークのプロダクトディレクター、アンドリュー・ミラーはこう指摘する。
「電池の容量と品質はこれから加速度的に向上し、新たな市場が開けていく。電池産業にとって次なる大きなステップは、間違いなく(ロボットタクシーなど)商用EVへの実装だ」
そんな急拡大の期待される市場を、規模こそ大きくないが実績のあるプレーヤーが狙っている。スタートアップは電池の構造について試行錯誤をくり返し、エネルギー密度や安定性、効率の向上を進めている。
いずれも市場投入までたどり着ければ、リチウムイオン電池の可能性を大きく切り開くことになる。
米経営コンサルティング会社アリックスパートナーズのマネージングディレクター(自動車業界担当)ジョン・ローアーは、電池市場の状況をこんなふうに説明する。
「現在の電池市場は、従来あるいは現在の技術水準を少しでも更新しようと日夜研究開発に励む人たちの戦いだ。とくに固体電池に特化したスタートアップはどんどん増えている。これから数年の間に既存の電池技術は少しずつ改善していき、それに応じてコストダウンも進むだろう」
EVの車載電池コストをできるだけ低減するため、スタートアップはコバルト、ニッケル、リチウム、グラファイト(黒鉛)といった原料の構成をいろいろ試しているところだ。生産コストを下げるだけでなく、限られた資源を消尽しないよう、コバルトの使用量を減らす研究に取り組んでいるところもある。
コバルトへの依存度低下や安全性の高い固体電池の実現可能性を高める新たな技術を武器に、いくつかの企業がいま一気に市場のトップに躍り出ようとしている。
Insiderは、業界をウォッチしているアナリスト、コンサル、ベンチャーキャピタリスト、スタートアップの最高経営責任者(CEO)らに取材。EV向け電池技術を進化させ、生産コストを引き下げることで電池市場を制する有望スタートアップ「トップ5」リストを作成した。
電池ベンチャー「トップ5」リスト。左から社名、資金調達ラウンドの回数、出資者数、資金調達総額(Bは10億、Mは100万)。
Insider
ノースボルト(Northvolt)
スウェーデンの電池メーカー、ノースボルト(Northvolt)の企業紹介ムービー。
European Investment Bank website
[企業プロフィール]
ノースボルトはスウェーデンに本拠を置く「サステナブル」電池開発・製造企業。同国エネルギー庁からも資金面での支援(=プロジェクト単位の投資)を受けている。
環境に優しい製造工程を重視した「グリーン」リチウムイオン電池を標榜(ひょうぼう)し、サステナブルな電池仕様と製造工程のスタンダードとなるべく研究開発に取り組んでいる。2030年までに自社製造する電池セルの「50%をリサイクル材料」にするとの目標はきわめて意欲的だ。
[評価のポイント]
ベンチマークのアンドリュー・ミラー(前出)によれば、ノースボルトは生産拠点のローカライズというトレンドをとらえている。
「その意味でトレンドをしっかりとらえてきたのは中国。しかし、欧州の電池メーカーの市場進出も著しい。EVシフトを進める欧州自動車メーカーからの巨大な電池需要を背景に、次なる飛躍のステージが見えてきている。
ノースボルトは欧州の自動車メーカーを顧客ターゲットに、真のローカライゼーションを最初に実現する企業だと思う」
米電気自動車大手テスラ(Tesla)とパナソニック(Panasonic)の協業に遅れながらも、ノースボルトはBMWグループとの20億ユーロ(約3800億円)の長期供給契約を締結。この提携成立が、今後拡大していくEV市場での新たな需要獲得につながることが想定される。
シーラ・ナノテクノロジーズ(Sila Nanotechnologies)
シーラ・ナノテクノロジーズのプレスリリースより。写真中央は、最高経営責任者(CEO)のジーン・ベルディチェフスキー。
Screenshot of Sila Nanotechnologies website
[企業プロフィール]
シーラ・ナノテクノロジーズは最近株式上場を果たしたばかり。サンフランシスコ・ベイエリアが本拠。同社が提供するシリコン素材のアノード(=負極材)を使うと、従来の黒鉛アノードより電池寿命が伸びる。
[評価のポイント]
シーラは2020年に企業としての評価を高め、研究開発を中心とする成長途上のスタートアップから、収益をあげ注目を集める電池メーカーへと変貌を遂げた。
大きな成長が期待される兆しとして、シーラは2020年、テスラで電池部門統括を務めたカート・ケルティ(=国際基督教大学、スタンフォード大学院を経てパナソニック入社、電池部門で活躍した人物)を自動車部門のバイスプレジデントとして招へいしている。
また、シーラは独メルセデス・ベンツと提携。2022年までに全車種を電動化すると宣言したメルセデスの需要を満たす戦略を掲げる。
クアンタムスケープ(Quantumscape)
クアンタムスケープの企業紹介ムービー。
QuantumScape YouTube Official Channel
[企業プロフィール]
クアンタムスケープは米カリフォルニア州に本拠を置く、固体リチウム金属電池メーカー。最近、特別買収目的会社(SPAC)を通じて上場した。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツや独フォルクスワーゲン(=筆頭株主)も出資している。
[評価のポイント]
クアンタムスケープは、Insiderが今回取材したすべてのアナリストが「いますぐにでも市場を開拓できる有力企業」と指摘した、EVシフトのフロントランナーだ。
アリックスパートナーズのジョン・ローアー(前出)は、クアンタムスケープの上場についてこう語る。
「上場後、クアンタムスケープの株価は大幅な値上がりを記録した。投資家たちが熱い視線を向ける理由は、同社が実用化に向けて開発中の固体リチウム金属電池が、従来より安全かつ安価な上に、より短時間での充電を実現するとされているからだ」
ソリッドパワー(Solid Power)
ソリッドパワー(Solid Power)の固体電池製造プロセス。
Solid Power YouTube Official Channel
[企業プロフィール]
ソリッドパワーは米コロラド州に本拠を置く電池メーカー。リチウム金属を負極に用いた充放電可能な全固体電池の開発を進める。
[評価のポイント]
ベンチマークのアンドリュー・ミラーは、電池市場の先行きを次のように見通している。
「結局のところ、リチウムイオン電池の次に来る技術と期待されているのは固体電池だ。エネルギー貯蔵の観点から考えて、固体電池が次のフロンティアになるとの見方には説得力がある」
ソリッドパワーの固体電池は、上記のクアンタムスケープが開発を進める固体電池と同様に、従来のリチウムイオン電池が必要とした可燃性の電解液を(ソリッドパワーの場合は硫化物系材料の固体電解質で)代替できるのがポイントだ。それにより、エネルギー密度と安全性、電池寿命が向上するだけでなく、製造コストを低減することも可能になる。
寧徳時代新能源科技(CATL)
[企業プロフィール]
寧徳時代新能源科技(CATL)は2011年創業。中国・福建省の寧徳に本拠を置く、同国最大のリチウムイオン電池メーカー。
[評価のポイント]
Insiderの取材に応じたすべてのアナリストが、CATLを電池産業をリードする大規模なスタートアップ(もはやそう呼ぶのは似つかわしくない規模感だが)と評価した。
その理由は、グローバル市場での成功と、電気自動車業界の巨人、テスラとの強固な関係性だ。CATL製の電池セルを採用したことで、テスラは主力プロダクトである「モデル3」の価格を1万ドル(約105万円)近く引き下げることに成功している。
(翻訳・編集:川村力)