Sriram Krishnan; Ben Parr
- シリコンバレーの最近の流行は、あらゆるトピックについての会話を聞く(そして参加する)ための音声SNSのClubhouse(クラブハウス)だ。
- この音声アプリはすでに評価額10億ドルとなり、招待制であるにもかかわらず200万人のユーザーを抱えている。
- Clubhouseは、他のソーシャルメディアで起こったようなネット上のはき溜めになりうる可能性もあり、使用停止の対象になる行為と許容される行為に関し約4000語に及ぶ説明文を掲載している。
私はTwitterを初めて「手に入れた」時のあの瞬間を覚えている。2008年の春、気難しいブロガーであり、TechCrunchの創業者でもあるマイケル・アーリントンと車に乗っていたとき、彼は自分のウェブサイトに記事を載せるたびに、2万人ほどのフォロワーに見てもらえるようにツイッターにリンクを張っていると教えてくれた。
それを聞いた瞬間ハッとした。その時まで、私はTwitterのことを、シリコンバレーの起業家たちが、短いたわいもない会話をするための儲からない遊び道具だと思っていた。しかしすぐに、Twitterが大きな可能性を秘めたメディアツールであることを理解したのである。
実際、数年後、私は本を売るためにツイッターを大いに利用した。しかし、その規模が拡大し、影響力が大きくなるにつれ、有害なある政治家がツイッターを汚すようになったので、それ以来、私はツイッターを使う時間をなるべく制限しようとしてきた。
当時のことが頭に浮かんだ理由は、ここ数日間で、ついに私と私の知り合いの多くが、シリコンバレーの起業家やセレブたちが、世の中のあらゆるものについて延々と音声会話を楽しんでいるというiPhone のアプリである「Clubhouse」に参加したからだ。
コロナ禍に家に閉じこもっているテクノロジーオタク向けにサービスを展開した企業は、急速に成長することができるようだ。Clubhouseは2020年3月から始まったばかりだが、すでに200万人のユーザーを抱えており、これはTwitterが始まって2年後の数字に匹敵する。従業員は10人以下で、1億ドル以上の資金を調達し、10億ドルの価値があると言われている。
たった数分でその有用性を思い知る
Clubhouse共同創業者のローハン・セス(左)とポール・デイビソン。
Rohan Seth / twitter; LeWeb/YouTube
さらに言えば、4日前、私はClubhouseに入って数分で、その有用性を思い知った。このアプリは、ほぼ無限に近い数の会話が同時進行しているデジタル上の場所として、ユーザーにマーケティング、放送、人集め、スピーチの機会を提供するといったような無限の可能性を秘めている。
よく知らない人のために説明しておくが、Clubhouseは、まるでAMラジオのトーク番組に電話をかけているかのように、ユーザー同士で会話をすることができるiPhoneアプリだ。モデレーターが参加者を「ステージに上げて」スピーカーとして認知させ、他の人はそれに耳を傾ける。
でも、1つのルーム(room)でのおしゃべりが気に入らなかったらどうする? 昔、テレビやラジオのチャンネルを変えたように、別のルームに移動することは簡単にできる。昔と違うことは、とても多くのルームが存在するということだ。知り合いや知り合いでない、あなたがフォローしている人たちがそのルームに入っていることで、あなたは次のルームに呼び寄せられる可能性が高い。
おしゃべりの機会は尽きない。ここ数日、私は株式市場の金儲け集団がアメリカで人気の投稿サイト「レディット(Reddit)」で起きたアメリカのゲームストップ社株の空売り論争について話しているのを聞いていた。
マーケットの巨匠であるガイ・カワサキは、人を説得する術について流暢に語っていた。エンターテイナーのリッキー・レイクはドキュメンタリー「The Business of Birth Control(避妊手術のビジネス)」について宣伝していた。
また、水曜日の夜、私が寝る前には、Clubhouseを積極的に支援しているベンチャーキャピタルのマーク・アンドリーセンもゲームストップについて話していたし、木曜日の朝、私が目を覚ますと、今度はインターネットで独特のトークを繰り広げているギャリー・ヴァイナーチュックが、起業家精神についてカウンセリングをしていたといった具合だ。
将来はAndroid版や課金モデルも導入
Clubhouseは、ついに彼らにチャンスがやって来たことをよく理解している。
同社(シリコンバレーでの正式な社名はAlpha Exploration)のポール・デイビソンCEOは、1月24日に開かれた週1回の「タウンホール」で、約4000人のリスナーに向け、「近い将来、このサービスをすべてのユーザーに公開する予定だ」と語った(今のところ、招待されるには誰かを知っている必要がある。私は参加時に5つの招待を受けていた。つまり、これはすべての人が参加できるわけではないにしろ、Clubhouseが急激に成長を遂げている理由だ)。
また、Android版のアプリの設計、サービスがダウンしないようにサーバーの容量を増やすこと、英語以外の言語のバージョンを提供することも予定している。
収入を得ることに関しても考えているようだ。デイビソンは、広告モデルにはならないだろうと言うが、チップ、購読料やその他の「クリエーター」が集める可能性のある料金の一部を受け取りたいと考えている(クリエーターとはインターネット上の流行語であり、Clubhouseでは、アプリ上のルームでモデレーターをしたり、パフォーマンスをしたりする人を指す言葉として使われている)。
「私たちは、みんなが収入を得ることを前提とした事業を手がけられて嬉しく思います」とデイビソンは言う。特筆すべきは、デイビソンの頭の中には、 Clubhouseがその収益化を考えるのと同じように、 アップル社もこのサービス上で行われた取引の一部におそらく課金することになるだろうということがある。
Clubhouseもネット上のはき溜めになりうる?
テスラのイーロン・マスクCEOも2月1日、Clubhouse に登場した。
REUTERS/Lucy Nicholson
Clubhouseは成功するのだろうか? その勢いには疑問の余地がある。一時的にインターネット上で旋風を巻き起こし、目新しさが薄れたとき衰退してしまった多くの企業のことを考えてみてほしい(一世風靡したクイズアプリのHQ Triviaや音楽ソーシャルサイトの Turntable.fmなど)。
ある日、コロナは終わりを告げ、アプリのユーザーはまた自宅から外に出ていくかもしれない。ある友人はClubhouseのユーザーを「AOLを懐かしく思う孤独な独身者たち」と呼んでいた。このアプリに費やしている時間の多さは持続可能ではないと私も感じる。
当然のことながら、Clubhouseのルームはすでに、ワクチン反対派や人種差別主義者、反ユダヤ主義者、女性差別者などと非難されているグループ集まる場所となっている。
Clubhouseは、プロフィールに裸の写真を使うこと、ヘイトスピーチ、Twitterで長年問題になっているような不正占拠やなりすまし、素性を偽ることなど、使用停止の対象になる行為と許容される行為に関し約4000語に及ぶ説明文を掲載している。
言い換えれば、Clubhouseは、他のソーシャルメディアでも起こったようなはき溜めになりうるし、Clubhouse側も先取りして問題を解決しようとしている。
ルールを破った場合の罰則には、ツイッターやフェイスブックがトランプ元大統領に対して行ったように、アカウントを一時的または恒久的に無効にすることが含まれている。同社は、何人かのユーザーをすでに追い出したが、それが何人であるかは明らかにしていない。
勝者になるか敗者になるかは別として、Clubhouseの人気は、メール、テキスト、そしてさまざまな種類の有害なネット上のやり取りによって支配されてきた世界で、お互いに話したいという人々の思いの復活を表している。
それは、Zoom疲れへの解毒剤のようなものだ。画面上にいる必要がないので、Clubhouseを日常生活のバックグラウンドで流し、あまり会話を気にせずに過ごしている人たちも増えている。しかし、すでにTwitterには「Spaces」と呼ばれるClubhouseのライバルになりうる機能を持つ音声SNSサービスが登場している。Clubhouseの有無にかかわらず、ニュースやエンターテインメント事業体が今後さらに音声機能サービスを追加することは十分ありうる。
このスタートアップ企業が成功するかについては、Clubhouseをほとんど不必要な会話をする我慢できない退屈な人たちの集まりだと、実際に私が思うかどうかはどうでもいいことだ。
Clubhouseの将来は、より多くの人がこれを試し、評価し始めれば、あらゆる種類の予測不可能な新しい方向に進むかもしれない。結局のところ、たとえ見知らぬ人であっても、人が人と話すということに、説明が必要なはずはないのだ。
アダム・ラシンスキー:Business Insiderの寄稿者であり、元Fortune誌のエグゼクティブ・エディターとして19年間勤務。著書に『Inside Apple』(邦訳:インサイド・アップル)と『Wild Ride』(邦訳:WILD RIDE(ワイルドライド)——ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語)がある。
(翻訳・編集:大門小百合)