1月29日、新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」が発表された。
撮影:伊藤有
楽天モバイルが料金プランの改定を発表した。4月1日より、月間の利用データ量が1GB未満の場合は0円、1〜3GBは980円、3〜20GBは1980円、20GB以上は2980円の段階制にする(いずれも税抜)。
政府からの圧力があり、3キャリアが相次いで月額2980円のプランを発表。結果的に3キャリアが総出で「楽天モバイル潰し」を仕掛けてきた構図だ。
楽天モバイルは2020年4月のサービス開始以降、「1年間の無料キャンペーン」を展開。2021年4月から、そのキャンペーン適用が終わるユーザーが順次、出てくることになっていた。
現在、楽天モバイルユーザーは220万超。
撮影:伊藤有
現在、220万人の楽天モバイルユーザーがいるとされているが、彼らが続々と無料から毎月2980円に切り替わる。「無料から2980円に切り替わるなら、3キャリアの2980円に乗り換えようかな」というユーザーが殺到しかねない懸念があった。
今回、楽天モバイルが1GB未満0円という設定をしたことで「1GB未満で0円なら、使っていない番号を寝かせておくか」と解約を踏みとどまる人が続出しそうだ。結果として、楽天モバイルの解約が殺到することは回避できそうな感がある。
“1GB未満ゼロ円”は大盤振る舞いだが、経営的にどうなる
楽天の三木谷浩史会長。
出典:楽天
楽天モバイルの三木谷浩史会長は「全国民に最適なプラン」と胸を張る。確かに“使い放題“でも2980円というのは3キャリアの無制限プランに比べて半額以下であるし、ガラケーからスマホに乗り換えたばかりであまり使わない人にとっても、少ない容量であればかなり安い。
最近では自宅からのテレワークばかりでスマホはWi-Fiにしか接続していないという人も多いだろう。月に数GBであれば、相当安価に抑えることが可能だ。
楽天モバイルのプランはまさに大盤振る舞いであり、ユーザー視点で見れば大歓迎な設計となっている。行動範囲が楽天モバイルの自前エリアであれば、使い勝手はかなりいいだろう。
新プランでは、月間1GB未満の利用であれば、基本料金0円で運用できる。
撮影:伊藤有
しかし、経営視点で見ると「楽天モバイルは本当に大丈夫か」と心配になってくる。
2020年4月のサービス開始から220万人を集めたが、多くのユーザーが「サブ回線」と見られている。3キャリアの関係者に話を聞いてみても「いまのところ、楽天モバイルにMNPで大量に流出はしておらず、脅威には感じていない」という。1年間無料と言うことで、とりあえずお試しで、サブ回線として契約しているという人が多そうだ。
つまり、4月以降「1GB未満0円」で使い続ける人が圧倒的なのではないか。サービス開始当初、見込んでいた通信料収入が全く入ってこない可能性も考えられる。
重くのしかかるKDDIへの「1GBで500円」のローミング料
「Rakuten」の表示があるiPhone 12 Pro。
撮影:小林優多郎
また、楽天モバイルは自前エリアではない場所では、KDDIのネットワークにローミングすることになっている。その際、ユーザーは5GBまで追加料金を取られない。
KDDIと楽天モバイルの間では1GB約500円を支払う契約となっている。つまり、ユーザーがKDDIのエリアで5GBを使い切れば2500円、楽天モバイルはKDDIに支払う計算となる。
ユーザーが20GB未満しか使わないとなると、楽天モバイルは1980円しか請求できない。つまり、ここで500円近く持ち出し、つまり赤字が発生する。ユーザーが増えれば赤字額も拡大する恐れがある。
黒字化を目指すには、まず全国にエリアを広げるのが喫緊の課題と言える。
「スペースモバイル計画」の実用性はいかに
5年前倒しで計画が進行中という楽天回線エリアの展開。
撮影:伊藤有
楽天モバイルでは現在、全国人口カバー率73.5%となっている。3月末には80%、今夏には96%の達成を目指す。
すでに基地局は1万1500局、開局しているというが、3キャリアはいずれも20万近い基地局で全国をカバー。人口カバー率はいずれも99.99%以上であり、全国津々浦々までつながる。
楽天モバイルは「スペースモバイル計画」も進めている。2023年以降に衛星から電波を地上に降らせ、スマホと直接、通信できるようにし、全国100%のエリアカバー率達成を目指す。
画期的なエリア展開計画のように見えるが、他キャリア関係者は
「そもそも、衛星だと地上にあるスマホと距離がありすぎて通信がつながらない。また、衛星が飛ぶようなところで、LTEや5Gのような電波を飛ばすという国際的なルールも決まっていない。地上の基地局との干渉も解決しなくてはいけない」
と懐疑的な見方をしている。
ソフトバンクも太陽光発電で飛び続ける飛行機から電波を地上に飛ばす「HAPSモバイル」を開発している。ただ、HAPSモバイルの場合、飛行機が飛ぶのが地上20キロの成層圏であるため、スマホの電波もなんとかつながる。
また、地上との基地局との干渉も「3Gがサービスが2024年1月下旬に終了する。3G向けに使っている周波数帯をHAPSモバイルに転用することで干渉が防げる」(ソフトバンク関係者)という。
楽天が示す「スペースモバイル計画」。
出典:楽天
スペースモバイル計画はどれくらい現実味を帯びているのか?
発表会で筆者が質問したところ、山田善久社長は「免許関係など超えなければいけないハードルが多いのは確か。ただ、総務省で衛星による基地局に関するタスクグループを設置して、他社を含めて協議できており、携帯電話業界全体で取り組んでいる」とした。
技術を統括するタレック・アミンCEOは「低軌道衛星を活用することで、どこでも通信ができるようになる」とコメントした。
三木谷浩史会長によれば今夏にもアメリカで実証実験が行われるという。
楽天モバイルの黒字化を実現するには、全国エリア展開が不可欠だ。他社から「常識ではあり得ない」と見られているスペースモバイル計画だが、まさにこれから楽天モバイルが通信業界の常識を覆せるかどうかにかかっているといえそうだ。
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。