セッションはオンラインで行われた。3人はいずれも初対面だという。
Business Insider Japan
Business Insider Japanの主催で1月28日・29日の2日間行われたビジネスカンファレンス「BEYOND MILLENNIALS 2021」。
「Z世代はこう考える。これからの教育、サステナビリティ、文化」をテーマに開かれた初日のトークセッションに登壇したのは、1995年以降生まれの「Z世代」3人。
起業や経営という形で早くもビジネスの最前線で活躍する3人は、今の時代をどう見ているのだろうか?
TeaRoom代表取締役の岩本涼さん(23)、ユーグレナ初代CFO(最高未来責任者)の小澤杏子さん(18)、TimeLeap代表取締役の仁禮彩香さん(23)にオンラインの鼎談形式で話を聞いた。
海外経験、サイエンスハイスクール…起業のきっかけは
中学2年生で最初の起業をしたという仁禮さん。
Business Insider Japan
—— そもそも仁禮さんはなぜビジネスに携わるようになったのでしょうか?
仁禮彩香さん(以下、仁禮):私は幼稚園はインターナショナルスクール、小学校は公立の学校に入って日本の教育を受けたのですが、その違いに衝撃を受けました。
学びの中に「社会を知る」という軸がなく、自分がどんな大人になればいいのか、そのためにどんな学びをしておけば役に立つのかが分からなかった。
だからまず、自分が通う学校のプログラムを変えられないか? そう考えて、幼稚園の園長先生に相談して、小学校を作ってもらいました。
その後、それを事業にしたら、もっと新しい学びが提供できるんじゃないか?そうしたら日本の教育にもっと貢献できるんじゃないか?と考え、中学2年生で起業しました。
—— もともと起業したいという気持ちはあったんですか?
仁禮:全然考えていませんでした。でも学校で教えてくれないのだったら、もう働いてしまおう、と。学校ではバイトは禁止されていたのですが、起業は禁止ではなかったので(笑)。
—— 小澤さんは、高校2年生の時にユーグレナの「最高未来責任者(CFO)募集 ただし18歳以下」という新聞広告を見て、応募されたんですよね。
小澤杏子さん(以下、小澤):親が転勤族だったので、小学校の時はアメリカ東海岸のメリーランド州に住んでいて、仁禮さんと同じように小さな頃から社会問題に強い関心を持っていました。
日本に帰国後、高校で「アントシアニン」という色素について研究を始めたのですが、そこで研究者の資金環境がとても厳しいことを知りました。
——アントシアニン?そんなハイレベルな研究を高校生でやっていたんですか?
小澤:私の高校は国立なのですが、「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に認定されていて、研究環境を国から支援してもらっているんです。
スーパーサイエンスハイスクール…高校や中高一貫校を対象とする、国の指定支援校。先進的な理数教育を実施するとともに、高校と大学の接続の仕方に関する大学との共同研究や、国際性を育むための取り組みを行う。創造性・独創性を高める指導方法、教材開発などにも力を入れている(国立研究開発法人科学技術振興機構ウェブサイトより)。
研究が身近にあった中で、ユーグレナという研究とビジネスが密接に結びついている会社を知って(CFOに)応募したのがきっかけです。
岩本涼さん(以下、岩本):僕も早稲田大学高等学院という早大の附属高校出身なんですが、そこもSSH指定校です。周りの同級生たちも高校生ながら研究してましたね。
小澤:早大学院の生徒の方々とは、よく研究発表の大会で会っていました!
人間のあり方をステップで学べる“道”
「茶の湯文化× 日本茶産業」の切り口で起業したTeaRoom社長の岩本涼さん。
Business Insider Japan
—— 岩本さんは、大学在学中に日本茶工場を事業承継して起業、「茶の湯」文化の普及に取り組んでいると聞きました。以前、Business Insider Japanの取材に対して、世の中が不安な今、若い世代に「道」の精神が求められていると話されていますよね。なぜそう思ったのですか?
岩本:2つ理由があります。1つは、これだけ変化が激しい時代に求められるのは「普遍性」のあるもので、「道」はそれを提供していると気づいたからです。
コロナ禍もあって働き方などの環境は変わりましたが、そうした変化にかかわらず、人間はご飯を食べ、お茶を飲む。「道」はそうした生活の基本的な所作の作法を分かりやすく定めたものです。
日常の基本的な所作から人間のあり方をステップで学べるのが「道」だという。
撮影:今村拓馬
そして、そうした礼儀作法から「あるべき」人間のあり方を、ステップを踏んで体系的に学んでいけるのが「道」でもあるんです。どんなにテクノロジーが発達しても、小さな信用から信頼が生まれて仕事やご縁につながるという人間の根本は変わりませんから。
もう1つの理由は、「道」や文化が今すぐに答えを出せない大きな問いを投げかけているからです。
今の資本主義社会では、すぐに結果や正解を出さなくてはいけない。若い世代はそうした瞬発力には優れているかもしれませんが、だからこそ、瞬発力だけですぐに答えを出せない「大きな問いに取り組む力」の重要度は上がっています。
—— 岩本さんは、お茶事業を通じて大企業と関わることが多いそうですね。Z世代からみて、大企業が抱えている課題って何だと思いますか?
岩本:僕がお付き合いしている、いわゆるレガシーな産業では、自分たちと“違う”人たちだと思われるとダメなんです。だから、Z世代を単に「若い」という年齢だけで差別化して捉えないようにしています。
必要なのは、ソーシャルネイティブだったり、環境に対する意識が高かったりといった「マインド」。そこを共有できれば、年齢に関係なく事業が展開できる。上の世代の方々にもそうやって歩み寄っていただければと思いますし、僕自身、“排除しない”コミュニケーションを意識しています。
悲観的な情報だけではなく
小澤さんはユーグレナの初代CFO(最高未来責任者)を2019年10月から1年間務め、プラスチック使用の削減などを提言した。
Business Insider Japan
—— 小澤さんにも上の世代とのかかわりについて伺います。サステナビリティや気候変動への危機意識はZ世代から始まり、全世界的なムーブメントになりましたが、上の世代とコミュニケーションをとる時に意識していることはありますか。
小澤:環境問題は私が生まれる前からありましたが、今やっと一気に加速するきっかけが生まれてきたと思っています 。
普段、年上の方にお願いしたいのは、(環境関連の)情報の扱い方に関することです。
どんな国にも環境にも、称賛されるべきところと批判されるべきところがあると思うんですね。けれどニュースではどうしても悪い部分ばかりが取り上げられやすい。日本にしても、日本の良さが必ずあるはずだから、それを私たちが自分で判断できるような、多面的な情報提供をお願いしたいです。
—— このご時世、ネガティブなニュースはやはり多いし、特に少子高齢化先進国と呼ばれる日本にとって、2021年にはさらに出生率が下がるとの報道もあり、それには重い意味があります。
小澤:どんなところにいてもネガティブなことは絶対についてくるもの。日本にとっては確かに少子高齢社会が大きな問題ですが、アメリカにはまた別の問題があります。社会にはさまざまな面や要素があるのに、日本では悲観的な情報ばかりがあふれているように感じます。
新しくすべき価値観と、残していくべき価値観とをどう取捨選択していくか。Z世代にとって難しいのって、そこだと思うんです。その点では、私たちより長く生きている世代の方々のほうがより客観的に見ることができると思っています。
Z世代に必要なのは「実践トレーニング」
正解が一つではないからこそ、どうしていいか分からないことも多い世代。
撮影:今村拓馬
—— 先ほど仁禮さんは、自分で選べる教育を提供したいと言っていました。そもそもZ世代以降の世代は何を学ぶべきなのでしょうか?
仁禮:まず前提として、正解は1つではないことを受け入れること。Z世代を表す価値観としてよく「多様性」「寛容さ」「許容」といった言葉が出てきます。
Z世代はスマートフォンが物心ついた時からあり、あふれる情報に常に触れている世代。画面越しに肌の色が違う人がいて、違う言葉を話す人がいて、ジェンダーも多様なのが当たり前なんです。
その一方で、情報がありすぎて、逆にどうしたらいいか分からなくなってしまう人が多いのも特徴です。自由だからこそ、逆に自分の軸を作るのが難しい。その「自分軸」を育むことが、これからの教育には必要ではないでしょうか。
—— 具体的に、仁禮さんが想定している学びのプログラムはあるんでしょうか。
仁禮:プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)がおすすめです。ある特定の教科書に従って習うよりは、とにかくやってみる、行動すること。
アカデミーの生徒たちを見ても、頭が良くてディスカッションができても、実践では動けなくなってしまう子が多いんです。
例えば、グッズを作るにも、どこに発注して、どんなものを作って、どんなロゴにして……と決断していくのは、単なる座学では学べない。まずはやってみること、そしてやるべきことの軸を子どもたちに提供してあげること。それを大人が意識すると良いのではと思います。
前向きに、自分たちの未来を作っていく
—— 最後に、この混沌の時代で自分ができること、上の世代とか同世代に伝えたいことなどあれば、お聞きしたいです。
岩本:Z世代というくくりで語られることが多いのですが、世代にかかわらず、いつの時代も若者は未来に対して前向きだと思います。自分も悲観視せずに進んでいきたい。
小澤:私たちはいろんな変化に寛容だからこそ、あまり悲観的に将来を見ていないですし、自分たちで変えていくモチベーションを持っている人が多いんじゃないかと思います。私もまだ高校生ですが、周りを見ても未来を自分たちで作っていける人材が今後増えていくと感じています。期待していてください!
仁禮:今、新しい時代を自分たちの力で作っていこうとしている若手がいるということをまずは知ってもらい、全力で協力してもらえたら嬉しいです。
年齢的に若い分、経験や知識が足りていないこともいっぱいあります。でも私たちにしか見えていないものも確かにあります。世代に関係なく、次の時代を一緒に明るいものにしていきたいという方々は、手を差し伸べていただけたら嬉しいです。
(構成・戸田彩香、西山里緒)