シッター業界を揺るがす事態はなぜ起きた?国がキッズラインに補助金返還要求

厚生労働省

マッチング型シッター派遣サービス「キッズライン」の届出未確認問題を受けて、内閣府が補助金返還を勧告。

撮影:今村拓馬

Business Insider Japanで筆者が報じたシッターの届出未確認問題(※)について、1月29日、内閣府はキッズラインに対し、補助金返還や再発防止策を求める勧告を出した。

この内容は大手メディアでも大きく報じられ、少子化担当相までもがコメントをする事態となった。

1年強でキッズラインに対し2.7億円の公費が投じられてきたことも明らかになり、行政や業界全体の信頼を揺るがす事態となっている。

キッズラインの一連の問題は、なぜ起きたのか。そして今後の国の子育て施策やベビーシッター業界に、どんな影響を及ぼすのか。

※2014年のシッターの男による男児殺害事件を踏まえ、2016年4月から7歳未満の子どもを預かる際、シッター個人に都道府県などへの届出が義務付けられた。キッズラインは4500人の登録シッターの届出を4年半確認しておらず、内閣府補助金対象者のうち75人は1月末現在でも届出が確認できていないと明らかになった。

キッズラインを名指しで議論

「話にならない。国から補助金が出ていることで保護者にとっては大きな信用になっていることも踏まえ対応を考えてほしい」

「ガイドライン遵守ができていないなら、公費からの補助をしない厳しい構えも必要では」

勧告が出る前日の1月28日、キッズラインに対し、厚生労働省の社会保障審議会(児童部会子どもの預かりサービスのあり方に関する専門委員会)では、委員の厳しい意見が飛び交った。

この専門家会議は、2020年春にキッズラインでわいせつ容疑の逮捕者が相次いだことを受けて、厚生労働省が立ち上げたものだ。当初は個社名を挙げて議論することは少なかったが、今回に関しては事務局資料もキッズライン社を名指しし、ほぼ全委員から個社についての言及があった。

ただし「自治体の仕組みが未整備だった」「未提出のシッターがいるならその個人が悪い」という意見は、専門家会議ではあまり出てきていない。

その背景には、他社はきちんと確認していたという事実がある。

以前から危うさを自覚か

キッズライン

出典:キッズラインHP

キッズラインと同様にマッチング型シッターとして内閣府の補助対象になってきた事業者としては、幼稚園や保育士免許などの資格保有者のみを登録しているキズナシッターがある。

キズナシッター運営会社のネクストビートは、 1月26日時点の筆者の取材に対しこう回答している。

「サービス開始の2018年1月から登録会で届出を提出するよう案内し、内閣府の補助金対象シッターについて、100%届出済みを確認できている」

つまり、やろうとすればできることだった。

加えて、筆者の元にはキッズラインの元シッター等関係者から「自治体への届出を(キッズラインは)自己申告でしか確認をしていないのでは」という声は2020年春から寄せられていた。

実際、2020年6月8日に筆者はキッズライン広報宛てに「登録サポーターについて、自治体の登録届出をしたことを全員分確認していますか」という質問を送っている(回答は得られず)。

2年以上前から運営側(キッズライン)は把握をしていたはずだと訴えるツイッターアカウントもあり、キッズラインは危うさを知りながら、経営を続けてきた可能性がある。

そもそも強制力がない

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厚生労働省のベビーシッターのマッチングサイトの運用状況を調査したサイト。

わいせつ事件と今回の無届問題を受け、 1月28日に専門家会議で議論された厚生労働省の「子どもの預かりサービスのマッチングサイトに係るガイドライン」改正案には、これでもかというほど細かい注意書きが、入れられることになった。

マッチング型サービスの運用などは本来は民間にゆだねられているが、子どもの命にかかわる領域であり、専門家会議が手取り足取り指導をする形になった。

ここで2つの課題が浮かび上がる。

まず、ガイドラインでどんなに細かく規定をしたところで、ガイドラインに強制力がないということだ。ガイドライン遵守状況は厚生労働省のホームページに掲載されているが、すべての項目に〇がついているのは現在でも2社しかない。

そのホームページを見て業者を選ぼうと思う利用者も少ないと思われる上、見ただけでは〇がついていないことの重みが分からない。

2点目の課題は、ガイドラインが補助金事業に認定する際の要件として有効に機能しているのか?ということだ

前述のガイドラインに、唯一強制力を持たせることができる手段があるとすれば、補助金の対象事業となっている事業者がこれを遵守しなかった場合に、補助金対象から外すというもの。

ところが、今回ガイドラインを守らず結果的に虚偽申告をしてきたキッズラインに対して、内閣府は届出が出されないまま働いていたシッターの分の返還こそ求めたものの、認定の取り消しまでは求めていない。

国がお墨付きを与えているのに……

Nurse

シッターや保育所など子育ての社会化を進める一方で、ずさんなビジネスも現れてしまった(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

内閣府担当者は著者の取材に対しこう語った。

「甘いと言われるかもしれないが、適切な運営になってほしい。言われれば改善をする会社ではあるので、3月までの猶予で変わってもらえるかを見る」

しかし、言われれば改善するのは当たり前で、逆に言えば、言われないと改善しない会社であるということだ

5月にわいせつ被害に遭った女児は、保護者が内閣府の補助金事業の「割引券」で依頼したシッターによってわいせつを受けたのだ。そこから変わるための猶予、判断するための時間は、キッズラインにも内閣府にも既に十分あったのではないのか

現在の枠組みでは、国がお墨付きを与えているように見えながら、わいせつ事件が起こっても、結果的に虚偽の情報が掲載されたままマッチングをしていても、何のペナルティもなく引き続き公費を投入してもらえるということになっている。

すぐに認定取り消しをすれば現在の利用者にもシッターにも混乱をきたすのは事実だ。

しかし、質の問題を看過して「お手軽に」拡大してきたキッズラインで、利用者が多いから認定を取り消せないというのであれば、安全確保の意味で本末転倒だ。

そして、その拡大を支えて来たのも行政ではないのか。

マッチング型は今後どうなるのか

キッズラインのわいせつ事件をきっかけに始まったもう1つの議論として、厚労省会議では再犯を防ぐため、シッターの行政指導の履歴がデータベース上で掲載されるよう方向性が決まった。

しかし、それも今回のように届出を出していないシッターが登録していれば全くの無駄になる。

そもそもなぜ、マッチング型事業者が補助金を受け取るまでに至ったのか。

内閣府によれば、幼保無償化後の流れで補助金の対象として、個人のシッターを対象にするかどうかが内閣府内で議論された際、個々人で補助金事業申請はできない代わりに、保険の加入なども含めた「取りまとめ役」としてマッチング型事業者を加えたという経緯があるという

児童福祉法上の直接の管轄対象にないマッチング型シッターというもの自体が、補助金対象として「お墨付き」を与えることに無理があったのだろうか。

実際、これまでにマッチング型シッターに疑問をもって事業体を見直した事業者もある。

ポピンズシッター(旧スマートシッター)は、2014年創業からマッチング型で運営をしてきたが、2017年にポピンズ傘下入り。

2018年5月から、マッチング形式で利用者がシッターを選べる仕組みは維持しながらも、法令上は会社とシッター、会社と顧客がそれぞれ契約をし、何かあれば会社が法的責任を取る派遣型に移行することにした

ずさんな業者の一方、怒り心頭の会社も

スマホ

キッズラインへの新規依頼は停止となったが、これからシッターを依頼する際は慎重にプラットフォームを選ぶことが重要だ。

Getty Images/Atsushi Yamada

ポピンズシッターの丸山祐子社長はその背景についてこう言う。

「全国保育サービス協会が提示している、基準を満たすサービスを提供しようということになり、それはつまりマッチング型ではないと。サービスに対し、最終的な責任をもつ形へ移行することにしました」

マッチング型は利用者の自己責任になりがちだからこそ、プラットフォームには選択をするための情報を正しく提供する義務がある。マッチング型でも審査やトラブル対応を丁寧にしてきた業者もあり、またガイドラインの遵守をきちんとすれば、実態的には請負型に近づいていくのかもしれない。

現状は、マッチング型の中にもずさんな運営をしてきた事業者と、それに対して怒り心頭の事業者が入り混じっている。

シッターに限らずCtoCプラットフォームを取りまとめるシェアリングエコノミー協会は、キッズラインについて「業界の健全な成長が期待される中、このような事案が発生してしまったことは誠に遺憾」とコメントしている。

事後的にであれ、ずさんな業者を排除していかなくては、マッチング業界全体の信用も毀損していくことになる。

毀損されたシッター業界、健全な市場を

福利厚生としてキッズラインを取り入れていた事業者も見直しに出ている。

今回の勧告を受け、リロクラブ、リソル「ライフサポート倶楽部」など福利厚生各社はキッズラインへの新規または全面停止措置に踏み切った。

ベネフィット・ワンは筆者の取材に次のように回答した。

「キッズライン社にコンプライアンス違反の報道があり、ベネフィット・ワン側でキッズライン社に確認しておりましたが、明確な回答が得られませんでしたので、2月1日に新規受付の一時停止の処理を行っております」

行政が動く前に民間は動き出しているということだ。

これを機に、利用者もシッターも今一度どのプラットフォームを利用するのかを改めて考えてほしい。 昨年来の不祥事でも、なんとか利用家庭のためにと思いとどまってきたシッター、そして良いシッターさんがいるからと継続してきた利用家庭が、今回いよいよ他社に動き始めている。

キッズラインで起きた一連の事件や不祥事で、ベビーシッター業界自体の信用が毀損された面は否めない。業界の他社もこれを反面教師に襟を正しつつ、良質なシッターたちを吸収して、健全な市場を今一度、ここから作り上げてほしい。

時計の針を巻き戻して、封建的な母性神話に紐づけられた「子どもは母の手で……」に後戻りさせないためにも。

(文・中野円佳

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