卸電力市場「超高騰」で見えた電力市場の“歪み”。新電力の存続を左右する「3月の資金繰り」という壁

電力市場の価格やサービスの多様化を期待され、自由化の流れのなかで新規参入した事業者である「新電力」が、いま存続の危機に瀕している

2020年12月末から2021年1月中旬にかけて、日本卸電力取引所(JEPX)の電力価格の大高騰が続き、(関係者の間でひそかに)話題を呼んだ。

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1月15日のJEPXの市場価格の推移。最高価格が250円/kWhを越え、最安値も50円/kWhと異常値を記録した。

出典:日本卸電力取引所(JEPX)

JEPXは、電力小売りの自由化を受けて、発電事業者や企業が電力取引を行う場として整備された市場だ。

東京電力や関西電力などの「旧一電(=旧一般電気事業者)」と呼ばれる大手電力会社は、発電した電気の一部をこの卸電力市場に供給。特定規模電気事業者(いわゆる新電力)がそれを購入し、消費者(需要家)に販売する仕組みになっている。

電力価格は1日の中で30分刻みで決まっており、前日夜に、翌日の需要と供給を考慮して算出される。

通常は1kWh(キロワットアワー)あたり7〜8円程度だったところが、2020年12月末に高騰が始まり、1月半ばには一時200円を超える事態となった。

このコストの上昇は、電力を購入する新電力はもちろん、JEPXの価格に連動して電気料金が変化する契約を結んでいる一般消費者(需要家)を直撃することになる。

市場の電気が売り切れ状態に?

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撮影:竹井俊晴

卸電力市場の価格の変動は、夏の猛暑や冬の大雪といった気象条件などに左右されることが多い。需要が高まればその分電力価格も高くなり、一方で電力が余れば余るほど価格は落ちていく。

実際、新型コロナが流行した2020年の春は、新型コロナウイルスの流行でさまざまな事業活動が縮小されたことで電力が余り、卸電力市場の価格は非常に安かった。

一方、今回の電力価格の高騰は、端的にいうと、市場への電力供給が不足した結果だといえる。

通常のJEPXの電力価格は高い時でも1kWhあたり数十円程度。これまではそうした高値になるときも、ごく短期間に限られていた。

それが今回、実に1カ月近くにわたってあらゆる時間帯に1kWhあたり数十円、高いときには250円以上にまで跳ね上がるという、異例の事態となった。

市場価格の高騰は、新電力にとって仕入れコストが高くなることを意味する。

飲食店で使う材料の仕入れ価格が高騰した場合は、最悪「購入しない」という選択肢を取ることが可能だ。しかし、電力市場ではそうはいかない。

三菱総合研究所の電力ビジネス推進グループの芝剛史主席研究部長によると、

「新電力は自分でお客さん(消費者、需要家)を集め、その需要電力を調達する義務があります」

新電力は、仕入れ価格が高いから購入しないというわけにはいかず、集めた消費者の需要を満たす電力をなんとか手に入れる必要があるわけだ。それでも、

「実際の供給段階では、前日の予測と実際の需要がずれることもあります。不足が生じた場合、送配電会社が電力を融通することになっています」(芝主席研究部長)

つまり、仮に卸電力市場で必要分の電力を購入できなかったとしても、融通を受けられる仕組みがあるため、需要家に電気が届かなくなることはない。

ただしこのとき、新電力は電気を融通してもらったコストとして、送配電会社に「インバランス料金」という追加料金を支払わなければならない。

このインバランス料金は、ペナルティ的な意味合いが強く、卸電力市場の価格よりも高く設定されている。

今回のJEPXの価格高騰の原因はこの仕組みにある。

JEPX

日本卸電力取引所は、2005年から日本で唯一の電力市場として取り引きを行ってきた。

撮影:三ツ村崇志

芝氏は、異例の高騰は複数の要因が重なった結果であると前置きした上で、次のように語った。

「例えば、前日に100円で電気を買おうとして購入できなかったとします。そうすると、翌日は150円で購入してみようと考えるはず。ところが、150円でも買えない。それなら、200円で……と、連鎖が起きることで価格が高騰していきました」

高いインバランス料金の支払いから逃れるために、どうにかして市場で電気を購入しようと高値をつける。このサイクルが繰り返されることで、電力市場の価格がつり上がっていったわけだ。

「市場価格が安いときはそれでも問題なかったのですが、さすがにここまで価格が釣り上がるとは誰も予想していなかったと思います」(芝氏)

国内外で不足するLNG。日本独自の事情も

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千葉・富津の火力発電所に向かうLNGのタンカー(2017年11月、東京湾で撮影)。

REUTERS/Issei Kato/File Photo

では、そもそもなぜ、(卸電力市場の価格高騰につながる)電力供給の不足は起きたのか。

芝氏は、その背景として「12月末の寒波で電力需要が高まったこと」「世界規模のLNG(液化天然ガス)の需要に供給が追いつかないこと」「国内での電力供給量の減少」といった複合的な要素が絡み合っているのではないかと語る。

日本の電力は、約8割が火力発電によって賄われている。そしてその半分近くが、LNGを燃料とするものだ。しかしこの冬、LNGの供給は世界規模で不足気味になっている。

日本の主な天然ガスの仕入れ先であるオーストラリアの生産基地では、トラブルが発生して生産能力が低下。不幸なことに、オーストラリア以外のLNG生産基地でもトラブルが頻発し、世界各地でLNGの供給問題が発生している。

一方、中国を中心に東アジアでのLNGの需要は急激に高まっていた。

そういった中で、冬の寒波が到来。電力需要の高まりにともなう燃料供給への不安などから、電力会社からJEPXへの電力供給量が減少。市場価格が高騰する流れが生まれていったと考えられるという。

LNG

日本のLNGの輸入先。

出典: 令和元年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2020)

日本の場合、海外の生産拠点から天然ガスを低温液化して専用の船で輸送しなければならず、供給にはどうしても1〜2カ月を要してしまう。今回のような突発的な燃料不足が起きた場合に、すぐに対応することが難しい事情もある。

JEPXでは、市場取引の前日夜に価格が決まるため、調達に時間のかかる原料を事前に適正価格で十分確保しておくことが難しい。価格の高い原料を大量に購入しても、日本に届くまでに電力市場の価格が大きく下がってしまえば、損失が大きくなるからだ。

「大手電気事業者(供給側)がより柔軟に、素早くLNGを調達できていたら、卸市場に多くの電力を供給することができ、電力価格ももっと安くなっていたと思います」(芝氏)

また、関西では、11月に定期検査中の高浜原発4号機(福井県高浜町)の装置の一部で傷が発見されると、12月に予定していた同3号機の再稼働を2021年2月以降に延期することとなった。必要な検査のためとはいえ、予定していた電力供給に影響があった。

「暴走したときに止める仕組みがなかった」

電力広域的運営推進機関

電力広域的運営推進機関による調整や、発電所の現場の尽力によって、今冬、電力供給がひっ迫する状況はなんとか(現時点では)回避することができた。

撮影:三ツ村崇志

芝氏は、将来に購入する価格を事前に決めて取り引きできる「先物市場」の流動性を上げることができれば、(電力価格の下落を危惧しての)LNG買い控えなどが起きず、供給不足に陥ることもなかったのではないかと指摘する。

しかし、新電力には体力の弱い小規模な事業者が多い。先物市場の流動性を上げるといっても、まだできたばかりで取引量も少なく、事前に預託金も必要になることから、資金繰りの厳しい新電力が参入するハードルは高い。今後の整備は当然必要だろうが、すぐになんとかできることでもなさそうだ。

新電力のひとつである「みんな電力」の担当者は、Business Insider Japanの一連の価格高騰に関する取材に対して、

「新電力は必要な電力を確保できなければペナルティ(インバランス料金)を支払わなければならないので、どの電力事業者も一生懸命電気を購入しようとした。その結果、価格の高騰・暴走が起きてしまった。暴走したときに止める仕組みがありませんでした。

2022年にはインバランス料金の制度が、市場価格に連動した形ではなく、実際にかかったコストに見合う形に変わる予定だったので、これを適用してくれても良かった」(みんな電力担当者)

と話した。

※経済産業省は1月15日に、1月17日以降のインバランス料金の上限を200円/kWhにする緊急対応を発表している。

3月に待ち受ける支払い。新電力の再統合も

太陽光発電

神奈川県中井町の太陽光発電施設。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を利用する事業者にも、卸電力市場の高騰の影響があるという。

REUTERS/Issei Kato

実は、新電力の中には、JEPXと直接取引して電力を購入するのではなく、固定価格買い取り制度(FIT)に従って電力会社が買い取った再生可能エネルギー由来の電力(FIT電気)を販売している事業者もある。

ところが、今回の卸電力市場の価格高騰は、そうした別ルートから電力を仕入れている事業者にも大きなダメージを与えている。2017年に改正FIT法が施行されたことで、FIT電気を仕入れる際の価格が、卸電力市場の価格に紐づくことになったからだ。

実際、前出のみんな電力はFIT電気をメインに販売しており、卸電力市場との取り引きは少ない。しかし同社ですら「ウチも大変です」と、1月分のFIT電気料金の支払いのための資金繰りに苦労しているようすが伺えた。

卸電力市場の価格が暴騰していた期間のインバランス料金の支払いや、FIT電気の支払いが実際に発生するのは、この先の2月末〜3月末だ。資金力の脆弱な新電力にとって、この支払いをどう乗り切るかが大きな山場となってくる。

「一番の心配ごとは、資金繰りができず立ち行かなくなる新電力がでてくることです。ある意味再統合が始まるきっかけになると」(前出の芝氏)

新電力の中には、再生可能エネルギーの導入を積極的に後押しする企業も多い。

ここで多くの事業者が離脱してしまうと、菅政権誕生後に高まってきた再生可能エネルギー導入の機運の高まりに水を差すことにもなりかねない

なお、資源エネルギー庁は1月29日、1月の卸電力市場価格の推移を踏まえ、インバランス料金を最大5カ月間にわたって均等分割して支払うことを可能とする方針を発表している。

大手電力会社による寡占状態が生み出す「市場の歪み」

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12月末を境に、スポット市場の売り入札(供給量)が約1200万kWh低下し、以降、約定量とほぼ一致している。それ以降、買い注文に対して供給が追いついていない状況が発生し、JEPXの市場価格も高騰していった。

出典:電力・ガス取引監視等委員会(第306回)‐配布資料-参考資料3

みんな電力をはじめとした新電力56社は、今回の卸電力市場の異常な価格高騰に対して、共同で経産省に要望書を提出情報の透明性の確保と、送配電会社に支払われた想定外のインバランス料金の還元を求めるとしている。

電力業界は、大手電力会社の寡占市場。卸電力市場も、本稿で述べたように基本的には大手電力が発電した余剰電力の供給によって成り立っている。

電力市場全体における卸電力市場の規模や影響力はまだまだ小さく、大手電力会社が今回のように何らかの理由で電力供給を渋れば、市場が簡単に変動してしまうリスクがある。

適正に市場への供給がなされているかどうかを見極めるためにも、情報の透明性は重要となる。

三菱総合研究所の芝氏も、

「今回は、年末にいきなり売り入札のボリュームが下がりました。電気需給のひっ迫に関わる情報はどんどん開示し、それを元に新電力側が判断できるような仕組みを作っていかなくてはならない」

と指摘する。

電力の自由化が今後も進んでいくことは間違いない以上、市場の適正な運用のためにも、海外では当然のように進められている情報開示はこれからも徹底して行われていくべきだろう。

(取材・執筆:三ツ村崇志笹谷由佳

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