2021年花粉は多いの少ないの?シーズン到来前に知っておきたい、花粉予想の裏側

「2021年は2020年に比べて、北海道を除く日本全域で花粉の飛散量は増える予想です。ただし、平年より多いかというと、顕著に多くはならないと考えています」

こう語るのは、気象会社ウェザーニューズで花粉予報を担当する、草田あゆみさん。

スギやヒノキなどの花粉が飛散し始める季節に先立ち、大手の気象会社は毎年「今年の飛散予報」を発表している。

花粉の予報は、大きく分けて「次のシーズンの花粉の飛散量と飛散開始時期」に関する長期予報的なものと、「今日、明日の実際の花粉飛散量」に関する短期予報的なものがある。

本格的な花粉シーズンの始まりに備えるためにも、それぞれどんな根拠をもとに予報されているのか知っておこう。

今年の花粉は多い?少ない?まず見るべきは前年の花粉量

花粉症の人

徐々に暖かい日も増え、気になる今年の花粉の飛散量。いつから、どれくらい飛び始めるのか?

Getty Images/dowell

長期予報として「花粉の飛散量」を推定する上では、前年の花粉量が重要な情報となる。花粉の飛散量が多い年と少ない年は、概ね交互に来る傾向にあるからだ。

2020年の春は、花粉の飛散量が前の年よりも少なかった。つまり、2021年は2年ごとに訪れる「花粉の飛散量が多い年」である可能性が高い

ただ、今年の花粉の飛散量は確かに昨年よりも多いと考えられているが、平年(2011年~2020年の平均値)よりも顕著に多いという予報にはなっていない。

それは、去年の夏の天候が少し特殊だったからだ。

花粉の飛散量は、前年の夏の天候にも依存すると考えられている。

花粉を出すスギの雄花は前年の夏に作られる。この時期に気温が高く晴れの日が多ければ、植物の光合成が盛んに行われ、雄花は成長する。つまり、翌年の花粉の飛散量が多くなる可能性が高くなるわけだ。

「2020年は梅雨が異様に長く、日照不足で雄花の生育には不利でした。しかし、いざ梅雨が明けると猛暑となり、それが雄花の生育を促した可能性はあります。このような夏のパターンは近年あまりないため、予報を出すのに悩みました」(草田さん)

さらに、ウェザーニューズでは、全国にいる自社のアプリユーザーから、秋ごろにスギやヒノキの雄花の写真を集めている。数は数百〜千枚程度であるため細かいデータを分析するには不十分ではあるものの、ユーザーへのヒアリングと合わせて、長期予報の参考にしているという。

「2020年の11月にアプリのユーザーにスギの雄花のリポートを送ってもらったところ、雄花は『去年と同程度』という回答がもっとも多く、次いで『昨年より多い』『昨年より少ない』という結果が同程度寄せられました。2021年は花粉が多い年であることも考慮し、去年よりは多いものの平年並み〜少ないという予想を出したというわけです」(草田さん)

年末年始の寒波で花粉の目覚めが近づいた?

スギ花粉

この時期から春にかけて飛散のピークを迎えるスギ花粉。しかし暖冬のあとでは、開花時期が遅れる傾向にあるようだ。

Getty Images/ GYRO PHOTOGRAPHY/amanaimagesRF

今年は、関東地方や九州北部を皮切りに、2月上旬から全国での花粉が飛び始めるとされている。西日本から東日本ではほぼ平年並で、北日本では平年並〜やや早い時期だ。

飛散開始時期を予報する上で重要視されているのは、植物の「休眠打破」の仕組みだ。

スギや桜などの花の芽は前年の夏に形成されるが、すぐに花が咲くわけではなく、秋冬の間は休眠状態となる。その後、休眠から冷めて、春に向けて開花していくわけだが、ここで少し不思議なことが起こっている。

暖冬のシーズンほど早く開花が進むのではと思う人も多いかもしれないが、これまでの観測から、暖冬のシーズンではなかなか花芽の成長が進まず、かえって開花時期が遅くなる傾向にあることが知られている。

つまり、冬の間、一定期間寒さにさらされる方が、早く休眠が打破され、開花にいたりやすいというわけだ。

今年の冬は、年末年始に強い寒気が日本全国を覆い、1月末頃には暖かい日が増えてきた。植物の開花までの仕組みを考えると、十分な寒さによって休眠が打破されており、春の陽気が近づくにつれてスムーズに開花する条件が整っているといえるわけだ。

「平年並みからやや早い花粉シーズンの到来」という予報がなされているのはそのためだ。

花粉の飛散開始予想(2021年)

画像提供:ウェザーニュース

ただ、花粉の飛散開始時期は、桜ほどまだよく分かっていない。

実際、2020年の冬は暖冬だったのにもかかわらず、花粉の飛散開始時期は2019年よりも前倒しの2月上旬だった。

「2020年は暖冬で、1~3月の期間中は全国的に平年より気温が高いところが多くなりました。冬により休眠打破が遅れ、飛散開始時期も遅くなるのではないかとの懸念もありましたが、ふたを開けてみると2020年の開花時期は早まりました。そう考えると、休眠打破への暖冬の影響はあまり大きくないのかもしれません」(草田さん)

地域によっても「症状の強さ」は変わる

スギ

Gold rice/Shutterstock.com

では「明日、自分の住んでいる地域に飛散する花粉量」というような、短期的な予報はどのような根拠に基づいているのだろうか。

雄花の状態にもよるが「よく晴れていて、湿度が低く、気温が高い日。さらに、雨の日の翌日や風の強い日」には、花粉が飛びやすい。

風が強ければ花粉は当然遠くまで飛ぶため、山から離れた場所でも花粉の飛んでいる量は多くなる。

雨が降ったり湿気が多かったりすると花粉は遠くに飛びにくくなる。また、雨の日の翌日に花粉が増えるのは、雨の日に地面に落ちてしまった花粉が晴れの日に乾燥して再び空中に巻き上げられ、そこに新しく飛散した花粉が加わるからではないかと考えられている。

ただし、ある地域の花粉の飛散量が多いと予測できたからといって、実際に自分がその影響をどの程度受けるかは簡単には分からない。

風上よりも風下の方が空気中に漂う花粉の量は多くなるし、たとえ風下でも山や建物などの障害物があれば花粉はあまり届かない。つまり、症状の出やすさを判断するには、気象条件に加えて、地形などの要素まで加味して考えなければいけない。

ウェザーニューズでは、ちょうど雨の強さの予報と似たような形で花粉飛散予報も行っている。250メッシュの高解像度で、36時間先までの飛散量が1時間ごとにアニメーションで分かるというものだ。山などの地形データを考慮して、花粉が飛散する流れが予想されている(花粉の飛散が本格化してからアプリ上で表示される予定)。

また、花粉が多く飛散する時間と症状が現れるピークの時間はずれる傾向にある。

花粉の飛散量のピークは午後2時ごろだとされているが、症状が最もつらいと感じる時間帯は朝なのだという。

はっきりと原因がわかっているわけではないが、寝ている間に床や布団などに積もった花粉やハウスダストを吸い込んだり、起床時にまき上げられたものを吸い込んだりすると、目覚めたときに自律神経の切り替えがうまくいかずに体が花粉に敏感に反応して強い症状を引き起こしたりするからではないかと考えられている。

「ウェザーニューズでは花粉シーズンになると、天気予報アプリユーザーから症状の報告を収集するのとともに、ユーザーの協力のもと設置した観測機で花粉量を測定しています。どの地域でいつ花粉量が増えるのかを、花粉症の症状の出方と合わせて分析して、予報に活かしているのです」(草田さん)

コロナ禍で花粉症は少なくなった?

花粉症の症状がつらい人の割合

画像提供:ウェザーニュース

2020年の2月ごろから、国内で新型コロナウイルスの感染が拡大し、私たちはマスク生活を余儀なくされるようになった。2020年はただでさえ花粉の量が少なかった上に、多くの人がマスクを装着した結果、ウェザーニューズに寄せられたユーザーからの症状の報告を見ても、

「やはり2019年に比べると、2020年は日本のほとんどの地域で症状がつらいと訴える人が減っていました」(草田さん)

という。

2021年は前年よりも花粉の飛散量が多くなるとみられるとはいえ、2019年以前と比べれば花粉量はまだ少ないとの予報だ。

コロナ禍での日常的なマスクの着用習慣もあいまって、症状の辛さは引き続き軽めになるのではないかと草田さんは予想している。

「従来は、症状を自覚してからマスクをする人が多かったのではないでしょうか。しかし、去年も今年も、新型コロナウイルスの感染対策として、花粉が飛ぶ前からマスクを着用しています。症状を感じる人が増えるのは、花粉が飛び始めからしばらくしたあと、飛散のピークを迎えてからになるのではないでしょうか」(草田さん)

(文・今井明子、編集・三ツ村崇志

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