ソニー「純利益で過去最高」予想に導いた驚きの“強さ”…「PS5」「鬼滅」ヒットだけみると見誤る

2020年度連結純利益予想、ついに1兆円超……このまま推移すれば、2021年春は、ソニーにとって過去最高の春となるだろう。

2月3日にソニーが発表した、2020年度第3四半期(2020年12月31日まで)決算は、市場の予測を上回るものだった。第3四半期売上高は2兆6965億円で、純利益は3719億円。この純利益はなんと、前年同期比62%増だ。

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通期見通しで1兆850億円の純利益予想を発表したソニー。4カ月前の従来予想からの上積みは、実に2850億円にのぼる。ついにソニーとしては初めての1兆円超となる。

出典:ソニー

年末のソニーといえば「鬼滅の刃」と「PlayStation 5(PS5)」が思い浮かぶ。事実、この2大ヒットはソニーの好調さの牽引役だ。

さらに、実際に数字を見ると、ソニーを取り巻く興味深い状況が見えてくる。

2020年度通期での予測は2020年10月(第2四半期)から、映画部門の売上をのぞくすべての領域で、売上・利益の両方で大幅な上方修正が入っていた。「2つのヒット」だけを見ていては、ソニーの強さを見誤りかねないこともわかってくる。

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アニプレックス制作「鬼滅の刃」は国内興行収入歴代1位となり、2020年を象徴する作品となった。

出典:ソニー

ソフトもハードもサービスも好調、PS5がいきなり利益貢献

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事業セグメントごとの予測。四半期前の予測に対し、映画の売り上げだけが下方修正されているが、それ以外はすべて大幅増。「全領域の強さ」こそが今のソニーの形だ。

出典:ソニー

「ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野」がソニーの屋台骨であることを疑う人は、もはやどこにもいない。特に2000年以降の20年間は、ソニーの浮沈をゲーム事業が担ってきた。

特に新プラットフォームへの移行期は、製造コストの面でも競合環境の面でもリスクが上がりやすく、利益率が下がる傾向にあった。

だが、PS5については問題なさそうだ。

G&NS分野の第3四半期売上は8832億円で、前年同期比で40%増(2511億円)と大幅拡大した。営業利益も802億円と、前年の535億円から大幅な上昇を示している。

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G&NS分野の第3四半期売上と利益。PS5は立ち上げと同時に大きく利益に貢献した。

出典:ソニー

実際のところ、その牽引役は、完全に「PS5」だ。

PS5は11月12日の発売から2020年12月31日までの期間で累計450万台を販売した(ソニーの発表より)。そして、2020年度末までには760万台、発売2年目には1480万台の販売を見込んだ生産計画になっている。

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PlayStation 5は2020年年末商戦だけで450万台を販売した。

出典:ソニー

PS5用ゲームとして期待の高かった「スパイダーマン マイルズ・モラレス」は実売410万本(ただし同ソフトのPS4版を含んだ数字)を売り上げてスマッシュヒット。有料ネットワークサービス「PlayStation Plus」のPS5ユーザーの加入率も87%と高く、文字通り「ハード・ソフト・サービス」が一体となって収益を拡大した形だ。

PS5の生産は順調ながら「大幅増産は期待薄」

ただし現状、PS5は、市中在庫がほとんどない。買いたくても買えない人の方が多い状態が続いている。

そのため「全然数を作っていないのでは」という印象を持つ人が多そうだが、実際にはPS4の初年度を超える勢いで売れていたのだ。

決算説明会のなかで、ソニーの十時裕樹・副社長兼CFOも「需要には応えられていない状況。一台でも多くお客様にお届けできるよう、全力で取り組んでいく」とコメントしている。

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ソニーの十時裕樹・副社長兼CFO。

出典:ソニー

一方、同時に「調達にはベストを尽くしているが、世界的な半導体不足の影響も大きい」としており、短期で生産計画を大きく上積みするのも難しいようだ。供給不足解消の具体的な時期についてはコメントを避けた。

ニーズに応えられないことは、プラットフォームの成長にはプラスとは言い難い。

ソニーもそのマイナス面はわかっており、「現行のPS4も含めたコミュニティを大切にし、ゲーム体験を継続してもらえるよう努力する」(十時CFO)としている。当面は喜んでばかりもいられない状況が続く。

「ハードを赤字で売り続ける」ゲーム機ビジネスは過去のもの

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いまだ入手難が続くPS5。

撮影:西田宗千佳

一方で、過去のゲーム機とは状況が大きく変わっている点もある。

ゲーム機は長く同じものが販売されるため、発売初期には非常に高コストな状態になりやすい。「ゲーム機はハードを赤字で売り、ソフトで儲けるビジネス」と言われがちなのはこのためだ。

ただし、この言葉は実際には間違いだ。ごく初期に赤字であるタイミングはあるが、「量産によってその状態をいかに早く脱するか」がビジネスモデルの鍵でもある。

決算資料内でも、PS5は「製造コストを上回る戦略的な価格設定による損失」の存在が明記されており、現状「ハードは赤字」であることがわかる。十時CFOも、ここにリスクが存在することを認める。

一方でこうも説明する。

「確かにハードはまだ赤字だが、来年度の見立てでは、コントローラーなどを含めた周辺機器まで入れると経営への影響は出ないのではないか、と予想している。また今は、ネットワークサービスからの収益も大きい」(十時CFO)

他の経営指標が異なるため単純比較は難しいが、PS4の立ち上げがあった2013年度、ゲーム事業は大幅に損益を悪化させていた。しかしPS5立ち上げの年となる2020年度は、大幅な収益を上げるのが確実だ。この背景には、「PS4とPS5にほぼ完全な互換性があること」、そして「ネットワークサービス化に伴う収益構造の変化」が大きく影響しているのだ。

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参考までに、PS4が発売された2013年度の決算資料より。ゲームで「売上高」は伸びたが、「営業利益」はまだ低空飛行だった。

出典:ソニー

ソニーが賭ける「日本のアニメ」市場

ソニーのもう一つの華である「鬼滅の刃」。こちらは、ソニーの音楽部門に属するアニプレックスが手がけたものであり、映画部門ではない。

音楽部門は、日本での「鬼滅」ブームに加え、ストリーミング音楽の好調な拡大を背景に、大幅な増収・増益を達成している。

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音楽部門。アニメ事業による増収効果が極めて大きかった。

出典:ソニー

もう一つのエンターテインメント部門である「映画」については、コロナ禍の影響を強く受けて売り上げが大きく落ち込んだ。劇場作品の公開延期は2021年も継続している。映画公開にかかるマーケティング費用が抑制されたことで、利益だけは一時的に回復したように見えるが、「公開延期の影響が2022年以降にも強く出る」(十時CFO)と予測している。

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映画部門は音楽とは対照的に大幅売上減。利益は維持しているように見えるが、影響は遅れてやってくる。

出典:ソニー

そうした中、担当部門は異なるものの、「鬼滅の刃」が日本でヒットしたのは皮肉なことだ。アニメのヒットは主題歌を中心とした楽曲のヒットにもつながり、ソニーミュージックに大きな影響を与える。

そうした状況を踏まえて行われるのが、米・クランチロールの買収だ。以前解説記事を掲載しているが、同社はアニメ専門の配信事業者で、自社配信の他、他の配信事業者との窓口にもなる。

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12月に発表された米・クランチロールの買収については、決算内でも戦略的な判断として、長く時間を割いて説明がなされた。

出典:ソニー

クランチロール買収について十時CFOは「戦略的な買収」と明言する。

「日本のアニメは、過去5年で1.5倍にも伸びた、大きな勢いのあるところ。伸びを牽引しているのは海外市場であり、そこでの成長を作っていきたい」(十時CFO)

ソニーは明確に、エンターテインメントビジネスの柱として、「日本発のアニメ」を位置付けている。

カメラもスマホセンサーも「じわり復活」、外的要因対策が永遠の課題

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家電事業は横ばい。ミラーレスを軸にしたデジカメ市場の持ち直しにより利益は伸長。スマホ事業も2020年度内の黒字化が確実だ。

出典:ソニー

コロナ禍ではデジタルカメラやスマートフォンのように、外で使う高付加価値型製品は厳しい……とされてきた。テレビなどは巣ごもり需要で好調だが、すべてが売れていたわけではない。

またスマートフォンについては、巨大なシェアを持つファーウェイが米中摩擦の只中にあった関係から、2020年秋くらいまでは、ファーウェイ向けのイメージセンサー事業には強い逆風が吹いていた。

しかし結果的に見ると、今回の業績発表では、少なくともソニーについては、デジタルカメラもスマートフォン向けセンサー事業もかなり持ち直している。

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スマホ向けイメージセンサー事業は、「ファーウェイリスク」で2020年度は大幅減収減益……とされていたが、iPhone 12のヒットなどの影響で待ち直してきた。

出典:ソニー

十時CFOも、「自社の(イメージセンサー)生産キャパシティはフルに動いている状況で、2021年度以降に向けて数を積み上げていく」と、前向きな姿勢を見せた。

特にスマホ向けについては、ファーウェイ向けが減ったところに、ソニーがセンサーを全数提供している、アップル「iPhone 12」のヒットがあリ、さらに、リスクヘッジのために販売先企業のミックスをかえてきたことがソニーにとってはプラスに働いたようだ。

だが、スマホ向けセンサーは市況や他社の販売状況など「外的要因」によって左右されることが多い事業だ。ソニーはこれまでも、センサーの需要予測のミスマッチから、減産や下方修正を繰り返してきた部分がある。

十時CFOは以前からそうした面でかなり慎重な姿勢をとり、「今回についても、外的環境の影響を軽減するような措置を講じていく」と、リスクヘッジ重視のコメントを残している。

(文・西田宗千佳

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