アマゾンの次期CEOとして、いくつかの大きな課題に直面しているアンディ・ジャシー。
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アマゾンを経営するのはなまやさしい仕事ではない。ジェフ・ベゾスのような偉大な経営者の後を引き継ぐとなればなおさらだ。
2021年2月2日、アマゾンは創業者のベゾスCEOが退任する予定だと発表した。ベゾスの後任には、現在アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のCEOを務めるアンディ・ジャシーが就任する。
CEOの移行は問題なく進むだろうと専門家らは予想している。ムーディーズのアナリスト、チャーリー・オシアがInsiderに語ったところによると、戦略に大きな変更はなく、移行はスムーズかつ順調に進むと予想しているという。
米調査会社、グローバル・データのマネージング・エディター、ニール・サンダースも「大きな変化はないだろうと予測している」とInsiderに語った。
しかし、アマゾンの戦略が大きく変わらないからといって、ジャシーが課題に直面しないというわけではない。そこでInsiderは、5人の専門家に話を聞き、ジャシーが2021年第3四半期に正式にCEOになった際に直面するであろう試練を3つにまとめた。
1. 反トラスト法違反捜査への対応
反トラスト法違反捜査に関し、2020年7月の連邦議会で証言するベゾス。
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グローバル・データのサンダースは、ジャシーにとっての最大の長期的な課題は、反トラスト法違反捜査に対応しなければならない可能性だと指摘している。ベゾスは、巨大IT企業の市場支配に関する調査の一環として、2020年7月の連邦議会に証人として招致されている。
サンダースは、「また同じような事態になる可能性は高いだろう。このように往々にして不合理な性質を持つ反トラスト規制から自社を弁護するため、アマゾンは努力が必要になるだろう」と指摘している。
D・A・ダビッドソンのシニアリサーチアナリスト、トム・フォーテも同様に、反トラスト法違反捜査への対応がジャシー率いるアマゾンにとって重大な課題になると考えている。フォーテはInsiderに対し、AWSでアマゾンの事業をサービスという角度から見てきた経験を持つジャシーは、こうした捜査から同社を守るために矢面に立つ人物としては最適だと述べる。
「アマゾンは他社に損害を与える存在ではなく、他社の助けになる存在なのだと印象づけられれば、捜査の圧力をいくらか弱めることができるだろう」とフォーテは指摘する。
反トラスト法違反捜査については、すべての専門家が憂慮しているわけではない。反トラスト規制では、企業の行為が競合他社のみならず顧客に対しても悪影響を与えたことを証明必要がある、とムーディーズのオシアは指摘する。
アマゾンは、サードパーティの販売者にとってのマーケットプレイスとしての役割も果たしていると示すことで自己防衛できる可能性が高い、とオシアは見ている。
2. 熾烈化するウォルマートとの競争
アマゾンのライバルとして注目されるウォルマート。
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ジャシー次期CEOにとっての最大の課題は、アマゾンがコロナ禍以前から直面していた課題と同じものになるだろうとオシアは見ている。つまり、実店舗を持つ(ブリック・アンド・モルタルの)小売業者と対等に渡り合うことだ。
「実店舗を持つ大手小売業者との競争はコロナ禍の前から激しくなっていたが、コロナ禍により競争がさらに加速した」とオシアは言う。
アマゾンが2月2日に発表した内容によれば、同社は商品入出庫・保管と物流ネットワークの拡充により、2020年に取り扱い面積が前年比プラス50%と大幅増となった。こうした物流への投資は、ウォルマートのように全米に何千店舗も持ち、最寄りの店舗からユーザーの自宅までスピーディに配達できる小売業者への対抗策だ、とオシアは指摘する。
コロナ禍で競合がEコマースに次々と投資する中、オンライン販売の重要性はますます高まっており、配送の遅延はますます許容されなくなっている。
「アマゾンはすべてをなげうって物流に注力しているが、それでも配送の遅延は発生している」とオシアは言う。「多くのマーケットが『翌日配送』『24時間以内配送』を謳っているが、実際には守られていない」。Amazonプライムでも3日や4日待たされることはあるという。
アマゾンの販売者向けプラットフォーム、ジャングル・スカウト(Jungle Scout)のグレッグ・マーサーCEOも同様の懸念を示す。マーサーはさらに、サードパーティの販売者向けのマーケットプレイス事業を展開している小売業大手はアマゾンだけではないと指摘する。
「オンライン販売の競争が激化しているが、特にWalmart.comとの競争が激化するだろう」とマーサーは言う。「当社の調査によると、アマゾンでの販売者の39%が、2021年にはオンライン販売のチャネルを多様化させるため、ウォルマートでの販売も検討している」
3. 「会長」としてのベゾスの役割を明確化する
ベゾスはCEO退任後どうするのか。
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ジョージタウン大学マクドナウ・ビジネススクールのジェイソン・シュロッツァー経営学教授は、ジャシーはさらに個人的な課題に直面することになるだろうと考えている。
「ジャシーの最大の課題は、自分がアマゾンのCEOとして、意図した役割をしっかりと果たす能力を制限されたり、妨げられたりしないようにすること。そのためには、取締役会長となったベゾスの役割を明確に定義することだ」
そして、シュロッツァー教授はこう付け加える。
「このような移行において、長年CEOを務めた人物もしくは創業者、またはある程度の期間にわたって“会社の顔”だった人物が会長になろうとすると、たちまち失敗してしまったというケースも過去にはある。そして、1年かそこらで前CEOが現CEOとして運転席に戻っている、ということが」
アマゾンのブライアン・オルサフスキー最高財務責任者(CFO)は、2月2日の投資家向け電話会見で、ベゾスは「退任するのではなく、新しい業務に就くのだ」と語っている。
シュロッツァー教授は言う。「ベゾスは今後いっそう、我々が言うところの多くの重大な『片側にしか開かない扉』の(後戻りできない)課題に関わることになる。これはつまり、買収や戦略、食料品への進出をはじめ、より重要な場面での意思決定を指す。ベゾスはこれまでにもそうした課題に関わってきたので、今後は新しい役割に専念することになるだろう」
それがジャシーにとって厳密に何を意味するかを把握するのは、ジャシー本人にも難しいかもしれない。しかしアマゾンには、このCEOの移行を成功させるための腹案があることを示唆する兆候が随所に見られる、と専門家は指摘する。
「アマゾンは巨大企業で、ベゾスが生んだ赤ん坊のようなものだが、何年も1人で経営してきたわけではない」とサンダースは指摘する。「アマゾンの文化は非常にしっかりと確立されているし、ジャシーは長い間同社で働いてきた根っからのアマゾニアン。問題はないだろう」
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
[原文:The 3 biggest challenges Andy Jassy will face as Amazon's new CEO, according to experts]