2020年12月、株式会社ポインティは大きな挑戦を発表した。
佐伯ポインティ(27)たちが発掘した猥談を、Netflixへ届ける。佐伯らに日々送られてくる猥談の中でも、切なさや悲恋を前面に押し出したもの、通称「純猥談」の映像化を決めたのだ。クラウドファンディングで資金を募り、1カ月で製作費330万円を達成した。
「世界に存在するべき猥談だ」
17分の短編映画『私たちの過ごした8年間は何だったんだろうね』は2020年12月24日にYouTubeで公開。再生回数100万回、いいねは1万を超える。
『純猥談』新作映画化応援プロジェクト
始まりは、佐伯の友人であり映像ディレクターでもあるYP(25)からのLINEだった。フォロワーから投稿されたある「純猥談」を、映像化しないかと持ちかけてきたのだ。
「僕には大学生の頃、よくセックスをする友だちがいた」
投稿はそんなモノローグから始まる。「僕」と彼女はお互いにパートナーがいながら身体を重ね続ける。浮気の途中で、彼女は「僕」に対して本気になってしまうが、「僕」はその想いを知りながら「セフレ」としての関係を続ける。卒業後に「僕」は彼女と再会するも —— 。
『触れた、だけだった。』と名付けられたこのエピソードにいかに心動かされたかを、YPは熱を込めて語った。
匿名でしか吐き出すことのできない、やり場のなさ。誰もがどこかで感じたことのある、身を裂くような気持ち。この話を求めている人はきっといるから、それを映像という手段で届けないか、いや、届けるべきだ —— その熱意に佐伯は押された。
動画: 純猥談(【短編映画】純猥談 - 触れた、だけだった。)
第一弾はYPが監督を務め、YouTube上で公開すると瞬く間に広がった。「エモ過ぎてしんどい」「大学生クズエピを美化した傑作」……。無名のチャンネルから、650万回再生というヒットが生まれた。
「純猥談」にはドラマ化やメディア連載のラブコールも相次いだ。映像化のオファーもあったが、もっとも自由度高い制作のために、佐伯らはクラウドファンディングという道を選んだ。2021年2月には、河出書房新社から書籍の出版も決まった。
そのセックスは対等で同意の上か?
切ない猥談だけを集めたウェブサイト「純猥談」では、投稿によって赤字で但し書きがついていることもある。
「純猥談」公式サイト
ところで、純猥談の投稿を見てみると「この純猥談は浮気表現を含みます」「不倫表現を含みます」と注意がついているものがある。
こうした但し書きは、自分たちのポリシーに基づいているのだと佐伯はいう。
「あまり表立っては言っていないんですけど、人を傷つける可能性のある、暴力性や加害性のあるセックスは助長しないぞというのは、僕たちすごく意識しています。もちろん、両者の合意がなかったり対等な関係の上ではないものも全部アウトです」
#MeToo運動の高まりもあって、性的同意の重要性はここ数年で広く知られるようになった。一方で性風俗産業やアダルトビデオの世界では、そうした「対等な関係と両者の同意」の上のセックスなのか、不透明である場合も多い。
親しい関係性から、自然と生まれるエロス。まるで彫刻刀で木彫りの像を掘っていくように、人間が持つ「エロスのすばらしさ」を浮き彫りにしていきたい。
「エロデューサー」という肩書きの奥には、そんな真っ直ぐな想いが隠されていたのだった。
漫画の週刊連載のような先の見えない人生を
佐伯たちの挑戦は壮大だが、かと言ってこれからの計画が決まっているわけでもない。今後何をしたいですか?との質問には、うーん難しいですね、と迷うような表情を見せる。
「最近、お水をたくさん飲んだり、化粧水を塗ったり、ちょっと高いシャンプーを買ったりしてみていて。これからかわいらしい30代、40代、50代になって、一番かわいいおじいちゃんになりたいんです……えっと、そういう話じゃないですよね?(笑)」
もう少し具体的な話を……というと、向き直って佐伯は「1年後に何やっているか本当にわからないんですよ」と言う。
「楽観的だから、YouTubeの登録者数100万人もいけたらいいなとも思うし、いけるとも思うし。だって半年前にはYouTubeも始めていなかったんですよ。猥談バーもようやく2年目なので……。それに、基本的には予想外が好きなんです。展望もない方が、ワクワクする」
そして、僕の人生は、週刊連載の漫画みたいなものなんです、と続ける。「続きが読みたくてたまらない」と読者に思わせる、ジェットコースターのような奇想天外なストーリー。自分はその漫画の作者であり、最初の読者になれたら嬉しい。
話を聞くうち、そんな「連載」にいつの間にか引き込まれていた。
(文・西山里緒、写真・持田薫)
(敬称略・完)