ヤフーニュースのTikTokアカウント。スーバーボウルとコロナ感染に関する投稿。
Screenshot of TikTok(@yahoonews)
- 米ヤフーニュースは最近、ショートムービーアプリ「TikTok(ティックトック)」で100万人のフォロワーを獲得した。
- 同社の成功は、TikiTokプラットフォームにおける、ニュースコンテンツへの興味関心の高まりを示している。
- Insiderは、ヤフーニュースのTikTokアカウント運営チームに取材し、戦略の目指すところを聞いた。
1月6日、ショートムービーアプリ「TikTok」で、米ヤフーニュースの投稿がバズりまくった。
アカウント運営チームは当日、米ジョージア州の上院議員選挙の決選投票と、上下両院本会議での大統領選挙の結果確認を中心に報じる計画だった。ところが、連邦議会議事堂への乱入事件が発生して状況は一変。
関連のニュースが次々届くなか、突発案件担当エディターのジュリア・マンスロウ(24歳)は自宅マンションから、TikTokアカウントを通じたニュース報道の調整役を務めた。
アカウント運営チームは、議事堂から退避した上院議員のクリップ動画や、議事堂に殺到する暴徒らの様子を撮影した静止画をTikTokに投稿。催涙ガスを浴びた女性のインタビューは3100万PV(ページビュー)を獲得するなど、ヤフーニュースは結局1日で35本ものショートムービーを投稿した。
〇〇ダンスにチャレンジしてみたとか、流行りの音楽、おもしろ動画的な軽いコンテンツが中心のTikTokアプリだが、ヤフーニュースの取り組みは、ニュース速報に活用するためのケーススタディとも言えるだろう。
ヤフーニュースがTikTokに参戦したのは2020年3月。1年近くかけてフォロワーは100万人を超え、NBCニュースやUSAトゥデイ、CBSニュースといったメディアも、TikTokに集うZ世代ユーザーにリーチしようと、続いて参戦を決めた(そしてそのうち数人の記者はすでにTikTok界のスター)。
なお、我々Insiderはどうしているかと言うと、ヤフーニュースのようにストレートニュースをTikTokに乗せる形ではなく、解説動画に特化した運用を行っている。
コメント欄でフォロワーと積極交流
ヤフーニュースはライブ配信「TikTok LIVE」など(アップデートで追加されたものも含めて)デフォルトの機能を使い、若いユーザー層に訴求する新しい話題にコンテンツを特化することで成功をおさめた。
「ソーシャルジャスティス(社会正義)や学生ローン問題など、Z世代が関心のありそうなニューストピックスは注意深くウォッチしています」(マンスロウ)
TikTokでロイヤルオーディエンス(=くり返し視聴するユーザー)の獲得に成功しているワシントンポストやNPRプラネットマネー(=アメリカの経済エンターテインメントラジオ番組)と同じように、ヤフーニュースもユーモアをまじえ、個々のユーザーとのつながりを避けることなくアカウントを積極運用する手法をとり入れている。
NPRプラネットマネー(PlanetMoney)のTikTokアカウント。コメント欄でライブ配信を宣伝したり、本体URLにリンクで飛ばしたり、ユーザーに深くコミットする。
Screenshot of TikTok(@planetmoney)
マンスロウはTikTok投稿のコメント欄でフォロワーと直接チャットすることもしばしば。ニュースについてユーザーに質問を投げかけたり、ユーザーの私生活に関する雑談にも普通に応じたりする。
「Z世代へのリーチ」を最優先
ヤフーは、TikTokアカウントのフォロワーにいまようやく(ヤフーという)ブランドを認識してもらいつつあると考えている。実際、Z世代に愛されるTikTokと違って、ヤフーは言ってみれば古いインターネット世代の生き残りだ。
「そう、私たちはまだ消えてないのよ」。マンスロウはヤフーニュースTikTokアカウントのプロフィール欄にそんな(自虐的な)コメントを入れている。
ヤフーを傘下に置くベライゾンメディア(米ベライゾンのメディア部門)は、ポータルサイト「AOL」やテックメディア「テッククランチ」なども展開。多様なメディアブランドを組み合わせつつ、新たなユーザー層へのリーチやコンテンツ配信の手法を生み出していく変革の真っただ中にいる。
最近では、米プロフットボール(NFL)の一部の試合をヤフーメールアプリ(=ビデオタブから視聴)のユーザー向けにライブ配信する契約を締結。2020年第4四半期には200万人のユーザーが視聴した(なお、ほかにヤフースポーツアプリなどでも2017年からライブ配信は行っている)。
ベライゾンメディアのグル・ゴウラッパン最高経営責任者(CEO、前職はアリババグループのグローバルマネージングディレクター)は、Insiderの取材に以下のようなコメントを寄せた。
「ヤフーニュースのTikTok進出は当社にとって歴史的転換点と言える。TikTokは次世代のジャーナリズムを見据えた我々のメディア戦略を加速し、究極的には人々のニュース摂取のあり方を変えることになるだろう」
「エフェクト」「機能」を最大限活用
ヤフーニュースはTikTokアカウントのローンチ以来、ショートムービーをさまざまなニュース報道の延長として活用してきた。ただしそれだけではなく、ヤフーニュースのサイトにはないTikTokならではの機能も活用している。
ホワイトハウスでの記者発表など現地からのライブ配信にはすでに普段からTikTokを使っている。コメント欄を使ってユーザーから質問を集め、ヤフーファイナンスや政治担当の記者たちがそれに答えるといった取り組みも始めている。
また、マンスロウはTikTokの「グリーンスクリーン」機能を活用して、背景を加工して「デュエット」(=他の投稿動画との組み合わせ)や「コラボ」(=自分を撮影して他のユーザーの投稿動画に反映)するなど、エンゲージメントを向上させる努力もしているという。
「私たちはTikTok上で生まれてくるトレンドにいつも目を光らせています。オーディエンスの心に響く機能、私たちヤフーの報じるニュースを最大限効果的に彼ら彼女らに届ける上で役立つ機能は、基本的に何でも活用するというスタンスでやっています」(マンスロウ)
ヤフーニュース本体への誘導
ワシントンポストの学生向けサブスクリプション優待ページ。
Screenshot of Washingtonpost website
TikTokのプラットフォームとしての成長にしたがって、新規読者・視聴者の獲得を狙ってメディアの参入が相次いでいる。
ワシントンポストはTikTokユーザー向けのサブスクリプション特別価格を提供。NPRプラネットマネーはコメント欄に、自社のURL短縮サービスを介したポッドキャストエピソードへのリンクを貼り付け、トラフィックを計測する取り組みを行っている。
ヤフーニュースもTikTok経由で獲得したオーディエンスをヤフーや(テッククランチ、エンガジェットのような)ベライゾンメディアの他のプラットフォームに誘導する方策を検討している。
ベライゾンメディアのコンシューマー部門を率いるジョー・ランバートはこう強調する。
「TikTokアカウントのフォローを通じて得たファンのエンゲージメントがブランド強化にもたらす効果は絶大で、この学びをベースに、私たちの他のメディアプラットフォームでもオーディエンスとの関係を強化する方法を目下検討しているところ。
TikTokでブランドをしっかり認識してもらえれば、それはいずれヤフーニュースアプリへの流入やダウンロードにつながるはずだ」
(翻訳・編集:川村力)