成功した起業家には、読書習慣がある。彼らはみな、本から経営戦略やリーダーシップのエッセンスを学んできた。
そこでInsiderでは、経営者、ビリオネア投資家、リーダーシップの専門家らがこれまでどのような書籍に出合い、そこからどんな学びを得てきたかをまとめた。特におすすめしたい26冊のうち、前編では13冊を掲載。本稿では残る13冊を発表する。
ルネ・ジラール『Things Hidden Since the Foundation of the World』(邦訳:世の初めから隠されていること)
Stanford University Press
ペイパル共同創業者でビリオネア投資家でもあるピーター・ティールは、本書こそがジラールの傑作だと言う。
ティールがInsiderに語ったところによると、彼が初めて本書と出合ったのはスタンフォードの学部生だった頃。本書に圧倒されつつも、世界やビジネスに対する物の見方という点で強く影響を受けたという。
ティールは、特に次の2つのジラールの主張には説得力があるという。
- 競争者は実質的な目標をそっちのけにして、ライバルに執着する傾向がある。
- そのため、競争の激しさと根源的な価値とはまったくの別物である。
人は大して重要でないことのために激しく競争するものだ。そして、ひとたび競争が始まれば、その激しさの度合いはますます高くなる。
ウィリアム・N・ソーンダイク・ジュニア『The Outsiders』(邦訳:破天荒な経営者たち──8人の型破りなCEOが実現した桁外れの成功)
Harvard Business School Publishing
ウォーレン・バフェットは2012年のバークシャー・ハサウェイ年次報告書で、本書を推奨書リストのナンバーワンに挙げている。
本書のテーマは「傑出したCEOに必要な資質とは何か」。成功した経営者に共通するパターンを探し、カリスマ性、経営スタイル、コミュニケーションスキルなど、リーダーに見られる性格的特徴についても比較している。
ジョン・マッキー、ラジェンドラ・シソーディア『Conscious Capitalism』(邦訳:世界でいちばん大切にしたい会社——コンシャス・カンパニー)
Harvard Business Review Press
本書を「起業家や経営者の必読書」と語るのは、ザ・コンテイナー・ストア共同創業者で元CEOのキップ・ティンデルだ。
本書の著者ジョン・マッキーはホールフーズ・マーケット共同創業者で、ティンデルとは親しい間柄である。2人とも、誰も損をしないWin-Winの関係こそが最も有益だとする「コンシャス・キャピタリズム(意識の高い資本主義)」を信奉している。
本書は「存在目的」「ステークホルダーの統合」「コンシャス・リーダーシップ」「コンシャス・カルチャーとコンシャス・マネジメント」という4つの柱を中心に構成されている。これらについての理解を深めることでより強固なビジネスを築くことができる、としている。
ダニエル・ゴールマン『Emotional Intelligence』(邦訳:EQ——こころの知能指数)
Bantam Books
著者のダニエル・ゴールマンは、心理学者でニューヨークタイムズのジャーナリストでもある。ゴールマンは本書で、心の知能指数(EQ)に欠かせない5つのスキルについて分析している。思いやりや共感といったスキルを持つことで、プライベートでも仕事でも人間関係に変化が生じうるのだという。
事業を経営するうえでは、専門知識と同じくらい「ソフトスキル」が重要になる。またゴールマンは、エモーショナルアウェアネス(感情認識)をどう得ればよいか、明快な実例も示している。
サフィ・バーコール『Loonshots』(邦訳:LOONSHOTS〈ルーンショット〉——クレイジーを最高のイノベーションにする)
St. Martin's Press
本書は、ブルームバーグが発表した「CEO、起業家に聞く2019年のおすすめ本」の1位に輝いた一冊。
自身も起業家であるバーコールは、集団行動について、そしてどうすれば人は従うのかについて分析している。また、企業のプロジェクトであれ政治であれ交通渋滞であれ、集団が急激な変化を容認から一転、抵抗するようになる現象についても考察している。
ライアン・ホリディ『The Obstacle is the Way』(邦訳:苦境(ピンチ)を好機(チャンス)にかえる法則)
Penguin Group
アーリーステージの投資家ティム・フェリスと言えば、労働時間を減らして収入を築いた自らの経験を綴った『The 4-Hour Workweek』(邦訳:なぜ、週4時間働くだけでお金持ちになれるのか?)がベストセラーとなり一躍有名になった人物。そのフェリスがInsiderの取材で「休日に読みたい一冊」として挙げるのが、このホリデイの著書だ。
2014年に出版された本書は、古代ギリシャストア派の理論を用いて、マルクス・アウレリウスやスティーブ・ジョブズなどの優れたリーダーを考察している。
リチャード・P・ファイマン『Surely You're Joking, Mr. Feynman!』(邦訳:ご冗談でしょう、ファインマンさん——ノーベル賞物理学者の自伝)
W. W. Norton & Company
グーグルの共同創業者セルゲイ・ブリンは、2015年に非営利教育組織「アカデミー・オブ・アチーブメント」のインタビューに答えている。それによれば、ブリンはこのファインマンの自伝に触発されて、テクノロジーとクリエイティビティの融合に自分のキャリアを捧げようと思ったと語っている。ファインマン(1918-88)は量子電磁力学の研究で1965年のノーベル物理学賞を受賞している。
ブリンはファインマンを次のように評している。
「(ファインマンは)自身の専門分野で偉大な貢献をしただけでなく、相当に広い視野の持ち主だった。この本でよく覚えているのは、ファイマンが、アーティストであり科学者でもあったレオナルド(ダ・ヴィンチ)にどれほどなりたかったかを説明しているくだり。すごく刺激的だった。こういうことが充実した人生につながるんだと思う」
エイミー・ゴールドスタイン『Janesville』(邦訳:ジェインズヴィルの悲劇——ゼネラルモーターズ倒産と企業城下町の崩壊)
Simon & Schuster
エイミー・ゴールドスタインはピューリッツァー賞受賞経験のあるワシントンポストのジャーナリスト。そのゴールドスタインが著した本書は、2017年にフィナンシャル・タイムズとマッキンゼーが選ぶ「ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー」に輝いた一冊。
本書は、ゼネラルモーターズの工場が閉鎖されたことで窮地に陥ったウィスコンシンの町ジェインズヴィルの様子を、6年の歳月を費やして追いかけたノンフィクションだ。ゴールドスタインは取材を通して、再就職先を見つけようと再訓練を受ける住民たちの様子を間近に観察している。
テクノロジーの進歩によって新しいスキルが求められ、複数の業界が大きな変容を遂げつつある。本書は、こうした変化を経てアメリカ経済が向かう先を垣間見せてくれる。
ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ『Zero to One』(邦訳:ゼロ・トゥ・ワン——君はゼロから何を生み出せるか)
Crown Business
ペプシ社長とアップルCEOを歴任したジョン・スカリーは、2016年にInsiderの取材に応じ、「ハイテク起業家にイチ押し」として本書を推薦している。
ペイパル共同創業者のピ―ター・ティールが共著者の本書は、2014年にベストセラーとなった。スカリーが本書を重要だと考える理由は2つある。
1つは、未来のビジネスを築くうえでテクノロジーをどう活用できるかをテーマにしている点。もう1つは、スタートアップの世界へ飛び込む前に、自分が何をしているかを知ることが大切だと強調している点だ。
ガイ・カワサキ『Reality Check』(邦訳:アップルとシリコンバレーで学んだ賢者の起業術)
Penguin Group
シリアルアントプレナーのペネロペ・トランクは、本書をぱらぱらめくるのが大好きだという。
「章がそれぞれブログ投稿のようになっていて、ページごとに学びがあるんです。読むたびに、こうすればもっとうまく実践できるんだという気づきを与えてくれます」
本書は、事業を立ち上げ、持続させるためのガイドだ。企業の失敗に関するニュースを取り上げ、豊富な実例とともに解説している。
ジェレミー・ハイマンズ、ヘンリー・ティムズ『New Power』(邦訳:NEW POWER——これからの世界の「新しい力」を手に入れろ)
Penguin Random House LLC
本書は、フェイスブックやウーバーをはじめとする大手IT企業から「#Me Too」「#Black Lives Matter」などのムーブメントまで、さまざまなケーススタディを通じて「パワー」について検証したものだ。
新旧のパワーには明らかな違いがあり、テクノロジーとデジタルの進歩がますます顕著になるにつれて、2つのパワーは異なる働きをする、と本書は指摘する。オールドパワーは「少数に独占」されていたのに対し、ニューパワーはもっと流動的で、多数によって形成されるという特徴があるという。
本書は、今の時代に持続するパワーを築く方法を詳述している。
ロバート・B・チャルディー二『Influence』(邦訳:影響力の武器——なぜ、人は動かされるのか)
William Morrow and Company, Inc.
説得力はあらゆる起業家にとって不可欠なスキルだ。本書を「すべてのビジネスパーソンにおすすめ」と語るのは、ウェブベースのプロジェクトマネジメントツールを提供するベースキャンプの創業者兼CTO、デビッド・ハイネマイヤー・ハンソンだ。
読者の評価が高いこのベストセラー書は、説得力を持つうえで重要な、数十年に及ぶ科学的研究と実験から導き出された6つの普遍原則を教えてくれる。
「この本は、顧客を人として扱い、商品をどう売り、どう接するべきかを教えてくれる。すごい本だ」とハンソン。
カズオ・イシグロ『The Remains of the Day』(邦訳:日の名残り)
Amazon
ジェフ・ベゾスの自伝『The Everything Store』(邦訳『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』の著者ブラッド・ストーンによると、ベゾスの愛読書は、カズオ・イシグロの『日の名残り』だという。
第一次世界大戦中の兵役を回想するある執事の物語で、その底流には犠牲や義務といったテーマが流れている。ベゾスは、ノンフィクションよりも小説を通じて学ぶところが多いとストーンに語っている。
※この記事は2021年2月8日初出です。