ジェフ・ベゾスは、メモに対する異常なこだわりで知られる。
アマゾンのCEOを退任すると発表したとき、ベゾスは株主に宛てた年次書簡の中で、会議で参加者にしっかりと内容を伝えるためには周到な事前準備をするように社員に伝えていることについて触れている。これは、効果的なメモを書くための方法として誰でも活用できるものだ。
アマゾンでは、会議に備えてしっかり準備をすることは、優れたアイデアを発表することより重要だとされている。経営幹部が社員の会議の準備度を測る際、ベゾスお墨付きの6ページのメモの書き方で判断することがあるという。
アマゾンが社員に課しているルールは、メモに関するものだけではない。アマゾンでは、PowerPointその他のスライドショーを使ったプレゼンは、人数の多すぎる会議と同様に禁止されている。
ベゾスは2018年公開の年次書簡で「6ページメモ」について触れている(写真は書簡の公開から数日後、ブッシュ大統領センターでメモについて説明するベゾス)。
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この有名な6ページのメモは、内容を凝縮してコンパクトにまとめ、フォントは10ポイントを使用、つなぎ言葉は使わない、といった特徴を持つ。アマゾンの社員は、何週間もかけて「ストーリーのある構成」となったプレゼン資料を準備するが、通常その資料に作成者の個人名は入れない。
会議は「Chop(チョップ)」と名づけられた会議室で行われ、ベゾスからCEO職を引き継いだアンディ・ジャシーなどの経営幹部も参加する(Chopとは、大きな提案が(時には社員が)小さく切り刻まれる場所である)。
ベゾスによると、社員は会議の冒頭、「各自による議題確認時間」の一環としてメモを黙読する。そして各チームの代表者からなる最大50人のメンバーの出席を確認すると、経営幹部が開会を宣言する。
「当然のことながら、このメモの出来栄えにはチームによってかなり差があります」とベゾスは株主に宛てた年次書簡で述べている。
「天使が歌うように明瞭で伝わりやすいメモを作るチームもあります。そういうチームは非常に頭脳明晰で思慮深く、質の高いディスカッションを重ねて会議の準備をしてきています。時にはまったく別の切り口で物事を捉えることができる人たちです」
ベゾス流、効果的なメモの書き方とは?
ベゾスは、素晴らしいメモは1日では書けないという。しっかりしたメモに仕上げるには1週間かかる場合もあると説明する。
「素晴らしいメモを書くには、何度も書き直し、同僚と意見交換しながら改善を重ねる必要があります。書いた後、数日間は寝かせておき、新鮮な目で見てさらに推敲します」
さらにベゾスは、メモに関して言えば、十分に時間をかけることで実際のライティングスキルを上回る出来栄えのものを書ける場合があるという。
「フットボールの監督にはボールを投げる能力は必要ありませんし、映画監督に演技力は必要ありません」とベゾスは述べる。「しかしどちらも、自分の監督する内容については高水準とは何であるかを認識し、実際の期待値を選手や役者に教える必要があります」
アマゾンの元フレームワークマーケティング責任者で、現在アカマイ・テクノロジーズの専務を務めるジェシー・フリーマンは、米電子出版プラットフォーム「Medium(ミディアム)」への投稿の中でこう述べている。メモはそれだけを読んで意図した主張が分かるものでなければならず、トピックについて予備知識がない人も調べものをしなくても理解できるものでなければならない、と。
フリーマンは、6ページのメモを構成するためのフレームワークを次のように具体的に示している。
まず、メモが何についてのものであるかを正確に述べ、計画を成功させるために使われる指標を最初にリストアップする。
アイデアを提示して目標をリストアップしたら、利害関係者やチームメンバーとどのように関わっていくかについての考え方、すなわち「道しるべ(北極星)」となるようなリーダーシップの原則をリスト化して宣言する。
「この道しるべが示されると、取り組みは一気に真剣なものになります」とフリーマンは述べる。「資料はまずビジネスの状況の説明から始めます。読む人にまずビジネスの現状について知ってもらう必要があるためです。ここでしっかりと詳細まで説明し、次のセクションでの説明と比較してもらえるようにします」
フリーマンによれば、アマゾンの6ページのメモを作成する際にはこのほかにも、読む人が対象のメリットとデメリットを理解するために必要なすべてのデータの概要を提示すること、どのように計画を実行し、掲げられた目標を達成するかについての戦略的な計画を立てること、などがポイントとして挙げられる。
それらをすべてまとめるにはある程度の緻密さが必要だとフリーマンは書いている。「上司に発表する前の資料の準備には、修士論文を書くぐらいの細心の注意が必要です」